第65話 配信者の酒場
カボチャ頭の悪魔が消滅すると後にはランタン付きの杖だけが残った。
(た、助かった)
悟は冷や汗をかきながら起き上がる。
そして榛名を助け起こす。
「榛名、大丈夫か?」
「ああ。今のモンスター、装備まで破壊すんの?」
「装備だけじゃない。アイテムボックス内もだ」
「げっ? マジ? うわ。ホントだ」
榛名は自分のアイテムボックス内のアイテムがすべて破壊されているのを見て顔を顰める。
(榛名のボックスもやられたか)
重点アイテムをあらかじめ部屋の外に残しておいてよかった、と悟は思うのであった。
「榛名ー、悟さん」
真莉と天音が駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「ついつい〈ハガネ風車〉投げちゃったけど、あれでよかったです?」
「ああ。助かったよ。正直、手詰まりだったんだ」
「あ、そう言えば風車だけは無傷だな。なんでだろ」
榛名が真莉の手に握られた巨大手裏剣型ブーメランを繁々と眺める。
「この〈ハガネ風車〉は耐久が特に高いんだ」
「おおー。マジか」
榛名はコンコンと裏拳で〈ハガネ風車〉を叩く。
「〈スペルカード〉の素にするかどうかで迷ったけど、〈ハガネ風車〉にしておいてよかった」
「ねー。危なかったよー」
(落ちているアイテムだけでなく、装備とボックス内のアイテムも耐久を強化する必要があるみたいだな。とはいえ……)
悟はランタン付きの杖を拾う。
(このアイテムとあのボスモンスターを登録できたのは大きな収穫だな)
カボチャ頭の消滅後には、帰還の魔法陣が灯っていた。
ボスモンスターを倒した証拠だ。
「はい。というわけで今回の配信はここまでです。来てくださった方々、ありがとうございましたー」
「皆さん、また見に来てくださいねー」
「今季のダンジョンはこんな風にアイテム破壊してくるモンスターがわんさか出るから、みんなも挑戦する時は〈スペルカード〉試してみてねー」
・はーい
・乙ー
・今日も楽しかった
・今季はかなりの配信者が苦戦しそうだな
・他の配信みんな途中で終わってたわ
◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇ ◆◇◆◇
新宿ダンジョンのすぐ近くにある店、ログ・ラウンジ。
ここは配信者御用達のバーである。
今日も今日とて、探索を終えた配信者達が集まって杯を交わしながら、情報交換に勤しんでいたが、店内にはどんよりとした空気が漂っていた。
「どうだった?」
「ダメだ。重点アイテムぜんぜん取れねー。5階層保たず撤退」
「ウチもだ」
「アイテム破壊が思った以上に厄介だったな」
「ああ、今期はみんな苦労しそうだ」
「上位配信者も軒並みPV数低迷してるぜ」
そんな風に不首尾と先行きの不透明さに項垂れる空気が漂う中、軽やかに談笑しながら入ってくる一団があった。
悟達、C・エクスプローラーのメンバーであった。
「いやー、予想以上に上手くいったな」
「ええ、悟さんの作戦バッチリハマりました」
「PVも好調に回ってるよー」
榛名達の話し声を聞いて、配信者達は思わず耳を側立てる。
あのアイテム破壊を受けて、上手くいっただと?
いったいどんな手を使ったんだ?
バーに集まった配信者達は動揺しながらも聞き耳を立てずにはいられなかった。
そんな悟達を迎え入れてくれるのは、白髭の渋いマスターと洗練された女性のバーテンダーであった。
「あら、シーエクの皆さんじゃない」
「席取ってるぜ。こっちこいよ」
白鬚のマスター筧と女性バーテンダー鷺沢。
2人ともダンジョン配信者の接客に手馴れた人気店員だった。
悟達は遠慮なくカウンターの一番いい席に陣取って、2人の接客を受ける。
「マスター、いつ見てもイケオジー」
「鷺沢さん今日も素敵です」
「その顔つきを見る限り配信は上手くいったようだな」
「ああ。上々の成果だよ」
「助かるわー。今日は客入りが少なくて商売上がったりだったのよ」
「お前らが来なけりゃ今日は赤字になるところだったぜ」
筧と鷺沢はそのまま悟達の席につきっきりになる。
一番配信が上手くいったグループにダンディーなマスターと綺麗なバーテンのお姉さんが、他の客よりも多めにサービスしてくれるというシステムである。
みんなダンジョン探索を頑張るので、なかなか上手く考えられたシステムだなと悟は感心していた。
「へい、マスター。テキーラ一杯」
榛名が威勢よく注文した。
「コラ。まだ未成年だろ」
悟は榛名の頭をコツンと小突く。
「ええー。いいじゃん今日くらい」
「つーか、テキーラなんて飲めないだろ」
「酔い潰れても悟が連れ帰ってくれるじゃん。ベッドまでさ♡」
榛名はお姫様抱っこを望むかのように両手を広げる。
榛名のまだ未成熟な身体が悟に向かって無防備に晒される。
悟は一瞬だけ見た後、興味のないフリをしてそっぽを向く。
「ダメダメ。そんなことしても世話してやんないぞ」
榛名はむぅとほっぺを膨らませる。
「マスター、全員ソフトドリンクで。食べ物は好きなの頼んでいいよ」
「じゃ、ステーキで」
「高級ポッキーパフェ食べたーい」
「私は高級あんみつお願いします」
「おう。待ってろよ」
すぐにマスターが料理して、榛名達のテーブルに料理とデザートを運んできてくれる。
その間も鷺沢が気の利いた会話をしてくれたため、悟達は寛いだ和やかな雰囲気に身を委ねることができた。
「重点アイテムとか言うのが定められたんでしょ? 結構取れたの?」
「おう、大粒の〈魔石〉いっぱい取れたぜ」
「〈ポーション〉や〈浄化水〉もバッチリです」
「すごーい。3人とも流石だねー」
「悟さんが予め準備してくださったおかげです」
「お、プロデューサー大役をこなしたんだ。悟さんも流石ね」
「悟さーん」
真莉がちょいちょいと肩を突いてくる。
「ポッキー、一緒に食べましょ。あーん」
真莉がポッキーの端を口に咥えながら差し出してくる。
悟に向けられたポッキーの先っぽには甘そうなアイスクリームが付いていた。
そして尻尾にはさらに甘そうな真莉の唇が待っている。
真莉の唇はリップ塗り立てなのかテラテラと輝いていた。
悟はポキっとポッキーを折って、受け取る。
「半分だけもらうよ」
真莉はむぅとほっぺを膨らませる。
「もー。いけずだなぁ」
(でも、そんなところも好き)
天音はウトウトとしていた。
「天音、大丈夫?」
「すみません。なんだか眠くなってきました」
「今日は青フクロウをいっぱい使ってたもんね。寝ててもいいよ」
「では、失礼します」
コテンと天音は悟の肩に頭を乗せる。
艶やかな黒髪からはシャンプーの香りらしきものが漂ってくる。
(車でっていう意味だったんだけどな)
天音も悟の匂いにウットリする。
(はー。悟さんいい匂い。落ち着く)
天音はこう見えて匂いフェチだった。
「悟さんも眠くなったらここで寝ていいですよー」
真莉が自らの太ももを指し示す。
悟はミニスカから伸びるピチピチした真莉の太ももを一瞬チラリと見てしまうが、どうにか理性を保つ。
「やめとくよ。配信以外で負担かけたくないしね」
(悟さん。私のこと大切に思ってくれてるんだー。キャー)
真莉は好きな人からはどんな扱いを受けても好意的に受け取ってしまう恋愛脳だった。
「悟さん、せっかくだから一杯どう?」
鷺沢がお酒を勧めてくる。
「車の運転があるからなー」
「代行運転サービスあるぜ?」
「じゃあ、一杯だけもらおうかな」
「私がお注ぎしましょうか?」
天音がパッと目を覚まして言った。
「天音ちゃん、これは私のお仕事だから取り上げないで」
鷺沢がそう言って牽制すると、天音はむぅとほっぺを膨らませる。
悟は奥ゆかしい天音と洗練された鷺沢とどっちから酌を受けるか葛藤したが、ここは鷺沢から受けることにした。
「鷺沢さんも一杯どうですか」
「あら、いいの? それじゃ遠慮なく」
鷺沢はシャカシャカとシェイカーでお酒を作って、2人分のカクテルをグラスに注ぐ。
「それじゃ悟さん。かんぱーい」
「乾杯」
悟は鷺沢とグラスをカチンと合わせる。
鷺沢は意味深なウィンクをしてくれた。
(うーん。俺もせめてあと10年若けりゃなぁー)
筧は若者達の恋愛模様を微笑ましく見守りながらも、哀愁を感じずにはいられないのであった。
悟達の探索がうまくいったと聞いて酒場は騒めいていた。
「くっ、流石だな。シーエク」
「あのアイテム破壊を掻い潜って重点アイテム手に入れたのか」
「PVは?」
「めちゃ伸びてる。3人とも100万再生いきそう」
「やっぱ重点アイテム取れると再生数伸びるんだな」
「今回、再生数を稼げたのはシーエクとデュームだけか」
そんなこんなで話していると、大所帯が店にドカドカと靴音を鳴らしながら入ってくる。
デュームの配信者達だった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
本日よりコミカライズの方、シーモア様以外でも配信開始いたしました。
特にピッコマ様の方では無料で結構読めますのでおすすめです。
よければ読んであげてください。
今後ともよろしくお願いいたします。




