第64話 アンノウン
ティアゾーンでの攻防を制した悟達は、誰に邪魔されることもなくアイテムを漁っていた。
「おおー。〈魔石〉いっぱいあるぞ」
「こっちは〈ポーション〉がいっぱいあるよー」
「〈浄化水〉もあります。いらないアイテムはここに置いていって、重点アイテムに入れ替えましょう。もうダンジョンもあと少しですし」
(そう。ダンジョンもあと少しだ)
榛名、真莉、天音がアイテムをせっせと検分している間、悟はマップスキルでこの後のルートについて調べていた。
ただ、この先には一筋縄ではいかない相手が待ち構えているのを悟は察知していた。
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?(モンスター)
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?
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?(装備)
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?
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(アンノウン。僕のマップスキルでも識別できないモンスターと装備。それがこの先に待っている)
悟は数限りないアイテムとモンスターをマップスキルに登録してきた。
その悟でも識別できないということは、完全なる新種と見て間違いないだろう。
おそらく、今回のダンジョン更新の要、アイテム破壊にまつわる更に厄介なモンスターが待ち受けていると見て間違いない。
悟がそんなことを考えていると、真莉がアイテムを見ながら「うーん」と悩んでいるのが見えた。
「真莉、どうした?」
「あっ、悟さん。実はちょっと迷っていてですね。このアイテムを武器にするか、〈スペルカード〉の素材にするか」
「なるほど」
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〈魔鉄〉(耐久・特)
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特別(耐久値)の高い魔力の通っている鉄。
この鉄で装備武器を錬成すれば、特別耐久値の
高い装備が作れる。
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(確かにこれを素材に〈スペルカード〉を作れば、耐久付与(強)のものができそうだな。ただ、本来の〈魔鉄〉の使い道である装備武器の素材にした方がレア度の高いものが錬成できそうだ)
真莉はすでに凄腕の錬金術師であり、錬成する前から素材を見ただけで何のアイテムを錬成できるかある程度見当がつくようになっていた。
すでに彼女にはこの〈魔鉄〉を素材にして完成した武器の姿が見えているのだろう。
「〈スペルカード〉はもう十分にあるし、ここは耐久力の高い装備にしておこっか」
「はい」
真莉は〈魔鉄〉を〈錬金槌〉で叩いて、忍者漫画に出てきそうなデカい手裏剣型武器〈ハガネ風車〉を錬成する。
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〈ハガネ風車〉
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非常に耐久値の高い手裏剣型の武器。
投げれば手元に戻ってくる。
不思議と初心者でも簡単に扱える。
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「みんな見て見てー。レアアイテム〈ハガネ風車〉できたよー」
・おっ、〈ハガネ風車〉ええな
・欲しい
・レア度高いから売れば高値になるやろな
・流石やね真莉ちゃん。金策もバッチリやね
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ティアゾーンを抜けた悟達はダンジョンの最奥にまで辿り着いていた。
第11層。
扉の前からは物々しい魔力を感じる。
おそらくこのダンジョンのボスが待ち構えているのだろう。
悟の捉えたアンノウンの位置情報とも合致していた。
「みんな」
「「「?」」」
「この先にはアンノウンがいる。僕のマップスキルでも識別できない敵だ」
・(; ・`д・´) ナ、 ナンダッテー!! (`・д´・ ;)〜
・ゴクリ
・クマでも識別できないとは
・いったい何が待ち構えているんだ
「悟のマップスキルでも識別できない敵か……」
「完全な新種ってことですね!」
「むむ。アイテム破壊にまつわる攻撃をしてくるのでしょうか」
「おそらくね。そこでここは僕が先に行こうと思う」
「悟さんが!?」
「ちょっ、大丈夫なんですか?」
「敵は未知数なんだろ?」
「ああ、だからアイテムボックスの中にある重点アイテムはここに置いていくよ」
悟はアイテムボックスの中にある魔石、ポーション、浄化水を取り出して床に置く。
「アイテムよりも悟さんの身が心配なのですが……」
「敵は未知数なんだろ? 私か真莉が行った方がよくない?」
「いや、未知数だからこそ。一番やられても問題ない僕が行くよ。間近で見てマップスキルに登録しておきたいしね。敵の攻撃をよく見て、それぞれの判断で戦闘に加勢してくれ」
3人は一瞬、顔を見合わせるもすぐに承諾する。
「わかった。先鋒は任せるよ」
「やばそうだったらすぐに戻ってきてね悟さん」
「ああ、それじゃ行ってくる」
悟は金属製の重厚な扉を手で押して中に入る。
すると、カボチャ頭の悪魔が待ち構えていた。
(これがこのダンジョンのボスか)
カボチャ頭はふわふわと空中に浮いて、見慣れぬ杖を握っている。
杖の先にはランタンのようなものがぶら下がっていて、煌々と燃えるような光を放っている。
(おそらくあの杖がこのモンスターの持つ力の根源にして、未知の能力。できればあの杖を破壊。それができなければ最低でもあの杖を使わせて榛名達に情報を送る)
悟は〈魔装銃〉を抜いて相手に向けた。
瞬間、カボチャ頭が呪文を唱えて杖を光らせた。
(来る!)
悟は銃で杖を狙い撃ちしようとする。
が、その瞬間、魔法の光が飛んできて悟の銃、そして悟の手元に直撃する。
(!? これは……)
回避不能の魔法攻撃だった。
ゴブリン・メイジの放った〈デストラ〉の魔法にも似ていたが、何かが違った。
(ダメージはない。まさか!)
「アイテム、〈スペルカード〉」
悟がそう唱えても手元にアイテムが来ない。
(やっぱり! アイテムボックス内のアイテムがすべて破壊されてる!)
カボチャ頭はケタケタと笑いながら、悟の方に近づいてくる。
ランタンに灯った炎は勢いを増している。
「くっ」
悟は咄嗟に回避行動を取ろうと入り口の扉とは反対方向に走り出した。
するとカボチャ頭は悟を追ってくるが、その背後に詰め寄る影が一つ。
榛名だった。
しかし、カボチャ頭は寸前で察知して、空中ででんぐり返りし、また呪文を唱えた。
「うえっ!?」
榛名の手元でも銃がバラバラになった。
(完全に死角を取ったと思ったのに。ヤバ……)
「悟さん、榛名。しゃがんで!」
真莉の声に二人はサッと地面に伏せる。〈ハガネ風車〉が飛んでくる。
カボチャ頭は十分な余裕をもって、呪文を唱えた。
〈ハガネ風車〉に魔法が直撃するも、
〈ハガネ風車〉は破壊されない。
「!?」
カボチャ頭はギョッとする。
が、魔法を唱えるのに意識を向けていたため、〈ハガネ風車〉をかわすことができない。
〈ハガネ風車〉はカボチャ頭を両断し、真莉の手元へと戻ってくる。
カボチャ頭は消滅し、あとにはランタン付きの杖だけが残った。




