第60話 〈耐久付与〉のアイテム
「お前があの予兆を発見しただと?」
如月彗は一瞬驚いたもののすぐに太々しい態度に戻る。
「ふん。面白い。ならば聞いてやろう。アイテムを破壊するモンスターに対して、いったいどんな対抗策があるというんだ?」
「それは企業秘密だから言えない。ただ、マップスキルで解決するとだけ言っておくよ」
悟がそう言うと如月は呆れたような顔をする。
「まだマップスキルに拘っているのか」
「そうだよ? なんでそこまでマップスキルを過小評価するのか分からないけれど」
悟と彗はしばらくの間、睨み合う。
「あの、すみません。ここは公共の場所なのであまり騒ぐのは……」
恐る恐る近づいてきた職員がそう声をかけるとデュームのメンバーがずらっと職員の前に並び、壁をつくって一斉に声を張り上げる。
「「「「「っさーせんっしたぁー」」」」」
「ひぃっ」
(ヒイイ。何でいちいちデカい声で誤魔化そうとすんのよ)
真莉は思わず耳を塞ぎたくなった。
彗はなおも食い下がろうとしたが、流石に職員が出てきてトラブルになるのはまずいと思ったのか、引き下がる。
「ふん。まあいい。どうやって君がマップスキルで攻略するつもりなのか、お手並み拝見させてもらうよ。おい、お前らいくぞ」
「「「「「はい」」」」」
再びデュームの連中は大名行列を作って、如月を先頭に庁舎から出ていく。
悟達は修羅場が過ぎ去って、ホッと一息ついた。
「ふー。やっと行ったか」
「なんなんだあいつら。すげーゴリゴリ来たけど」
「圧強すぎだよー。よくあの連中いなせたねー榛名」
「ディーライのチャラチャラした感じもどうかと思いますが、デュームさんもちょっと度を越した体育会系ですね」
「絶対無理。昭和の波動を感じたよー」
「さて、変な絡まれ方して疲れたし、一旦ゆっくり寛げる場所に移動しよっか」
「はーい」
「賛成です」
悟達は事務所に戻って仕切り直す。
「それじゃ改めて来期の対策について打ち合わせするよ」
悟は事務所の一室、ホワイトボードを背に3人を前にして会議を始める。
「まずはみんなの考えを聞こうか。モンスターのアイテム破壊にどうやって対抗する?」
3人は各々自分のアイディアを述べる。
「アイテムを破壊される前にモンスターを倒す!」
「破壊される前にアイテムを取得するー」
「破壊されそうなアイテムを事前に持ってからダンジョンに入る、という方法もありますね」
(ふむ。3人ともちゃんと自分でも対策考えてるな)
悟は3人の成長を実感した。
「うん。どれもいい答えだね。ただ、いずれの方法にも速さが求められる。初期位置で敵の方がアイテムに近ければまず先手を打たれる。もしくは敵が複数いて倒すのに時間がかかればそのうちにアイテムを破壊されてしまってアウトだ」
「じゃあどうすんだよ」
「このスキルを使う」
悟はホワイトボードに〈耐久付与〉という項目を書き出した。
「〈耐久付与〉?」
「知らないスキルだー」
「いったいどのようなスキルなのですか?」
「その名の通り、アイテムの耐久力を上げる魔法だよ。この魔法を施されたアイテムは一定時間耐久力が上がり、モンスターの攻撃に晒されても破壊を免れることができる」
「なるほど。アイテムそのものの防御力を上げることでモンスターのアイテム破壊を防ごうというわけですね」
「ってもそんなスキル使える奴、今ウチにいねーぞ」
「うん。だからアイテムを使う。アイテム〈スペルカード〉」
悟はアイテムボックスの中からカード状のアイテムを取り出した。
「これは〈スペルカード〉と呼ばれるアイテムだ。呪文スキルのない者でもカードに封印された呪文を一定回数だけ使うことができる。来期のダンジョン配信ではこのアイテムを軸にそれぞれダンジョン攻略の戦略を立てるよ」
「おおー。そんなアイテムが」
「よっし。それじゃ、早速〈耐久付与〉の〈スペルカード〉集めようぜ」
悟達は来期のダンジョンが現れるまでに可能な限りアイテム〈スペルカード〉を収集した。
やがて独特な揺れ方のする地震が主要ダンジョン周辺で起こったかと思うと、ダンジョンの更新が始まる。
各ダンジョン内では凄まじい地殻変動が起き、入り口は玉虫色に怪しい光の壁に阻まれて、探索者達の侵入を阻んだ。
ダンジョン庁は一時的にダンジョンへの立ち入りを禁止する。
翌日には、各ダンジョンはそれまでの姿から様変わりし、新たな迷宮が出来上がり、新たなモンスターとアイテムが配置された。
こうして探索者達の前に新たな冒険の扉が開かれるのであった。




