第58話 大名行列
講習会が終わった後、悟は榛名達と改めてアイテムリストを確認する。
ダンジョン庁のホームページを検索して、重点アイテムリストの資料をダウンロード。
悟のスマートフォンに映ったその品目を榛名、真莉、天音は後ろからマジマジと見つめる。
「なるほど。よくできてますね」
「補給・回復系のアイテムのランクが高くて、ステータス強化系アイテムのランクが低いって感じですかねー」
「このアイテムを破壊するモンスターの情報提供したのって悟だろ?」
榛名がその力強い瞳で悟の目を見ながら言ってきた。
「うん。そうだよ」
「ぶっちゃけどうなの? このダンジョン庁の方針は?」
「おそらく足りない。この重点アイテムリストの項目もおそらく来期の途中にはさらに増えることになっているだろう。アイテムを事前に調達するだけじゃなく、モンスターのアイテム破壊に対抗する方策も用意する必要がある」
「ダンジョン庁任せではなく、自分達でも何か対策が必要というわけですね」
「よし。それじゃ、早速、事務所に戻って対策練ろうぜ」
悟達が廊下に出ると、すぐに別の部屋からも大勢の人間が出てくるのが見えた。
どうやら別室で行われていた講習会が終わって、冒険者達が出てくるところのようだ。
悟達はちょうど廊下でその一団とぶつかる。
すると見知った顔がいた。
Dライブ・ユニットの要、秀仁、由紀、大吉だった。
「あ、要」
「うおっ。悟!? ……と天音ちゃんも!」
要は悟を見てギョッとし、天音を見て目を輝かせた。
天音はツンと顔を背ける。
「みんな、少し話していくから先に行っててくれ」
悟がそう言うと、榛名達3人は素直に従う。
「はいはいー。失礼しまーす」
「ロビーで待ってるぜ」
真莉と天音が離れていくと、要と秀仁は残念そうにする。
「みんなも講習を受けてたのか」
「ああ。どうせならみんなで受けようという話になってな」
「こいつが一人で受けるの寂しいって言うからよ」
「バカ。そんなこと言ってないだろ」
悟はディーライのメンバーが以前よりも仲良くなっていることに気づいた。
ただ一人、不在のリーダーを除いて。
「蓮也はまだ見つかっていないのか?」
悟がそう言うと、全員諦めと呆れの入り混じった心情を漂わせる。
「ああ、まだ失踪中だ」
「借りてた部屋にもいねーし、いったいどこ行ったんだか」
「困ったもんよ。こっちはいまだに炎上の余波が燻っていて、火消しに走り回ってるっていうのに」
由紀が困ったように頬に手を当てて、ため息を吐く。
「そうか」
悟は床に目を落とす。
「まあ、過ぎたことにいつまでも悩んでても仕方ねーし。蓮也が出てくるまで待つしかないだろ」
要が頭の後ろで手を組みながら言った。
「うむ。俺達も来期のダンジョン更新に向けて動き出さなければいけないしな」
秀仁も腕を組みながら言う。
「そうだね。来期の予兆についてはどう思う? アイテム破壊への対策は何か思いついた?」
「アイテム破壊?」
「講習会で言ってたでしょバカ」
由紀が要の耳を引っ張りながら咎めた。
「なぁに。今まで通りやりゃ問題ないだろ」
「そうだな。アイテムを破壊されるからといってそこまで探索に影響が出るとは思えん」
「あまり気にし過ぎても調子が崩れるしな。ガハハ」
悟は脱力する。
(なんというか……。悠長というか大雑把というか。相変わらずだな)
「そうだ。せっかく悟と再会したんだし、久しぶりに全員で写真撮りましょうよ」
由紀がそう言って、スマートフォンを取り出す。
「ささ。悟も入って」
由紀に促されて悟も輪の中に入る。
「はい。チーズ」
「TwiXにアップしようぜ」
「写真、あとで悟の方にも送っとくね」
「じゃ、またな」
「また、配信企画で行き詰まった時は相談に乗ってね」
要達はそそくさとその場を後にした。
(企画で迷ったら相談に乗って……か)
それがお世辞であり、額面通りの意味でないことは明らかだった。
意訳すると、表向き友好に振舞うからディーライの活動の邪魔すんなよ、といったところか。
悟がスマートフォンに来たTwiXからの通知を開いてみると、由紀からのメンションが来ていた。
先ほどみんなで撮影した写真と共につぶやきが添えられている。
(これで終戦宣言ってわけか。相変わらずこういう立ち回りだけは余念がないな)
悟は呆れ半分感心半分でスマートフォンをポケットにしまうと、その場を後にした。
悟がロビーに行くと榛名達が待っていた。
「お、きたきた」
「ディーライの人達どうでしたぁー?」
「何事もなく終わったよ。向こうもこれ以上ウチとは揉めたくないみたいだね」
「じゃあ、とりあえずディーライとの抗争はこれでお終いですかね」
「あとは蓮也に落とし前つけさせるだけだな」
そんなことを話していると、ドカドカと騒々しい足音が廊下の向こうから聞こえてきた。
なんだろうと悟達が足音の方を見ると、やたら目をギラギラさせた男の後ろにゾロゾロと集団がくっついて大名行列のように行進していた。
「なんだありゃ」
「あっ、如月さんだー」
「キサラギ?」
「如月 彗だよ。デュームのナンバーワン配信者。てか、榛名知らないのー?」
「デュームは草間彰人しか知らねーな。真莉みたいに色んなチャンネルチェックしてねーし」
「それにしても凄い行列ですね」
如月は役所内だというのに後ろに30人は連れてゾロゾロ歩いている。
如月は庁内に響き渡るような大声で話し始める。
「おーう。彰人。お前、講習会で榛名に会ったそうだな」
「ええ、まあ」
「なんでデュームに勧誘しねぇ。榛名、あいつ登録者数100万超えてんだろ」
「いや、勧誘する暇もなくどっか行っちゃったんで」
「バカヤロウ。羽交い締めにしてでも連れて来ねーか。他のグループに取られてからじゃおせーだろ」
「はあ。すんません」
「よし。お前ら榛名を探し出せ。見つけ次第拘束して俺に連絡。庁舎の出入り口固めて逃げ出せないようにしとけ」
「「「「「しゃあーっす」」」」」
(う、うわぁ。なんか暑苦しい人達だな)
真莉は彼らの一糸乱れぬ行進、有無を言わさぬ口調、厳しい上下関係を見ただけで体育会系の波動を感じ、逃げ出したい気分になった。
しかし、残念ながら見つかってしまう。
如月彗は榛名の姿を認めるやいなや、目を異様に輝かせながら、ズンズンとこっちに向かってやってきた。




