第51話 釈明配信
蓮也が釈明配信をする。
このアブ・プロダクションによる告知は瞬く間にネット上を駆け巡った。
そして物議を醸した。
謝罪ではなく釈明という時点で「この期に及んでまだ言い訳するのか」と往生際の悪さを非難する声がある一方で、「いやいや蓮也のことだから流石にそこまで頭悪くないだろう」、「釈明と言っているが、事実上の謝罪なのでは?」といった蓮也の理性と反省に期待する意見も見られた。
いずれにしても釈明配信に対する注目度は否応なしに高まった。
実際に動画が配信される前から、SNS空間には配信内容を予想する声があふれ、設けられた配信枠には待機時間の時点ですでに同接1万人を超える有様だった。
・いったい何を釈明するつもりなんだ。
・つべこべ言わずはよ謝罪せーや
・だからこれからやるんだよ。黙って見とけや
・ここから逆転できたらある意味伝説だなw
・おっ、始まるみたいだぞ
・ワクワク
画面に黒いスーツを着て、髪を七三に分けた蓮也が映った。
いつになく神妙な顔つきで俯いている。
「みんな今日は配信に来てくれてありがとう。このチャンネルでこんな話をするのが適切かどうか分からないんだけど、みんなに伝えたいことがあるから、あえてこの話題を動画に出すことにするよ。現在、ネット上で起こっている炎上騒動。並びにダンジョン・カップで起こった一連の騒動。これらの騒動には、裏で糸を引いている奴がいる。そいつの正体は……スゥー、フゥー(一呼吸置く)。そいつの正体はディーライを裏切った奴、いや、今なお現在進行形でディーライを裏切り続けている奴。名前は出さないけど、名前を出してはいけないあいつが、また俺達を攻撃している。最近、体の調子も悪くて、精神的にも辛くなっていて、マジでキツくって、動画の内容にも精彩を欠いてて、みんなには本当に申し訳ないと思っているんだけど。詳細についてはいえない。けれども、最近の動画のクオリティが下がってきているのも、この裏切り者の件が関係していて。くっ(辛そうに顔をしかめる)。動画を作る意欲とかも著しく下がってきて、配信者やめようかなと思ったこともあったんだけど。やっぱ……俺が悪いのかな。俺の力が足りないばっかりにこんな風に嫌われて足下掬われるようなことばっかりされるのかな。これからCDデビューもあって、毎日配信も続けなきゃいけないし、地獄のようなスケジュールだけど。この仕事は誰かに代わってもらうわけにはいかないし。正直キツいけど、俺が、どうしても俺がやらなきゃいけないんだっ。本当はこんな姿みんなに見せるべきじゃないんだけど、ほんとみんなごめん。一年中、毎日毎日休みなく働いて、寝る間も惜しんで企画のことばっか考えて、どうすればリスナーのみんなに喜んでもらえるかなって、そればっかりで、正直もう体もボロボロで、なのに、なんでこんなことされんのかな。いや、俺が悪いのはわかってるんだ。わかってるんだけど、うっ(涙ぐむ)。俺はずっとリスナーを楽しませることばかり考えて。だから悪かったのかな。リスナーを騙すようなことはよくないって、リスナーを馬鹿にするのはよくないって、そう言ったらあいつは……くっ。そのおかげもあって、登録者数100万人も超えたし、若くしてダンジョン配信者としてトップレベルの一角まで上り詰めたし、配信者の中では最短速度での登録者数の伸びで表彰されたりして。それできっとあいつは俺のそんな成果に嫉妬してたんだろうな。あいつ仕事もプライベートも何一つ上手くいってなかったから。だからってさ。金だって100万くらい貸してたし。別にいいけどさ。100倍くらい稼いでるからいいんだけど。ホント辛くって。最近、アンチにも配信荒らされるし、自宅まで凸するぞって脅されるしさ。俺が何したって言うんだよ。ほんとなんでこう何もかもうまくいかないんだろうな。俺の人生ってなんでこうなるんだろうな。いっつも良かれと思ってやったことが裏目に出て。くっ……ふぅ。みんなごめんな。本当はこんな姿見せるつもりじゃなかったんだけど。こんなんじゃ配信者失格だな。まあ、そういうわけで今は色々あって落ち込んでるけど、きっと俺は立ち直るから、少しの間待っててくれよな」
・蓮也さん(´;ω;`)
・元気出してください蓮也さん
・炎上なんかに挫けないで
・アンチに負けないでください蓮也さん
・いや、おかしいやろw
・ポカーン
・まさかの被害者ムーヴw
・いや、謝罪せんのかーいw
・我々はいったい何を見せられているのだろうか
・なんなんすかこれ。これが釈明?
・蓮也さん、流石にこれはないわ
配信を見ていた真莉は頭を掻き毟った。
「なんなのよこいつはぁ!?」
あまりにイライラしたせいで、画面に向かって声を荒げてしまう。
「悟さんの悪口らしきことをいい始めたと思ったら、延々ダラダラ被害者ヅラお気持ち表明と、言い訳に、自慢からのマウンティングし始めて。こいつは何が言いたいんだよ、いったい!」
「なんとも要領を得ない内容でしたね」
天音もため息をもらす。
「釈明というから何をいうのかと思ったら、まさかこんなことを言うためにわざわざ配信枠を取るとは」
すぐそばにいる悟と榛名も「流石にこれはないわ」という顔をしていた。
「ほんとイライラするわぁ。聴きながらPC叩き割りたくなったわよ」
「これでまた、蓮也さんがトレンド1位になってしまいますね」
天音は頭痛を抑えるようにこめかみに手を当てながら言った。
「こっちは案件で家を売らなきゃいけないってのに。いつまでも邪魔してくれるぜ」
榛名は腕を組みながら神妙な顔をして言った。
蓮也の配信はわずかな同情を得ただけで、火に油を注ぐ結果となり、炎上はさらに続いた。
ディーライと蓮也はトレンド1位を保ち続け、スポンサーの撤退表明が相次ぎ、アブ・プロダクションは慌てて蓮也の無期限活動休止と書面での謝罪を発表した。
蓮也はSNSや配信チャンネルへのアクセス権を取り上げられ、Dライブ・ユニットのすべての活動から締め出される。




