第48話 浅慮の果てに
「喰らえ。〈聖刃〉」
蓮也の放った光の剣は、雅人に直撃する。
「クソがっ」
雅人の体力はゼロになり、生命維持装置が発動して、カプセル入りとなる。
「へっ。一昨日きやがれ」
リトルガーディアンの他のメンバーもすでにカプセル入りしていた。
一方で、Dライブ・ユニットのメンバーは全員体力・魔力を削られたものの、瀕死の重傷は負わずに済んでいた。
「ふー。どうにか倒せたな」
「ったく、手こずらせやがって」
秀仁と要も骨のある相手を倒すことができて一息つく。
「で、倒したのはいいけどこっからどーすんの?」
「そうだな。流石に消耗してしまった。この状態でボスモンスターに挑むことはできないぞ」
要と秀仁が蓮也にお伺いを立てる。
「なに。このくらいの消耗どうってことねーよ。だよな由紀? 回復頼む」
「は? 無理よ。そんな魔力残ってないに決まってるでしょ?」
「……えっ?」
一瞬嫌な沈黙が場を支配する。
「ったく。治癒師のくせに魔力残量の管理もしてねーのかよ。しゃーねー。秀仁、何か回復薬錬成して……」
「無理だ。材料がない」
「じゃあ、要、材料を探すモンスターを……」
「無理だって。戦闘用のモンスターしかテイムしてねーし。それだってさっき使い果たした」
「は? じゃあ、何か? 誰も対策考えてねーってこと? こんだけ派手に戦闘しといて?」
(いや、オメーがいきなり喧嘩し始めたんだろ)
要は心の中で突っ込んだ。
「ったく、どいつもこいつもしょうがねーな。とにかく、回復アイテムを探して、それからボスモンスターに……」
・もうボスモンスター倒されましたよ
「えっ?」
流れてきたコメントに蓮也は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「どうした蓮也?」
「もうボスモンスター倒されたってコメントに……」
「マジ!? あ、俺のリスナーも言ってるわ。天音ちゃんがボスモンスター倒したって」
要が自分のドローンを見ながら言った。
「どうやらそうみたいだな。こっちでも同じコメントが見受けられる」
「しゃーねぇ。こうなったら最多撃破賞を……」
「それももう獲られてるぞ。あの真莉という娘が取ったみたいだ」
「じゃあ、特殊アイテム賞を……」
「それももうない。榛名が獲ったみたいよ」
由紀が言った。
「あ、最多アイテム賞もカメレオンRPGの奴らが獲りそうだってよ。あれ? もう獲れる賞なくね?」
全員が蓮也の方を問い詰めるように見る。
コメント欄には早くも敗戦を慰めるムードが流れていた。
・蓮也さん、ドンマイです。
・あんまりくよくよせず次行きましょ。次。
・リトガーの奴らさえ邪魔してこなければなー。
・ディーライなら来年、優勝できますよね。
蓮也の頭の中で例の声が囁いてくる。
(ドウシテ コイツラハ オレニ イケンスルンダ)
(ドウシテ コイツラハ オレヲ オサエツケヨウト スルンダ? ナンノ ケンリガ アッテ ソンナコトヲスル?)
(オマエラハ ソンナニ エライノカ?)
(コイツラヲ ケサナイト)
その時、1つのコメントが蓮也の目に飛び込んできた。
・後先考えずに行動するからそうなるんですよー。もっと先のこと考えて探索しないと。
突然、蓮也はドローンに向かって蹴りを放ち始めた。
「蓮也!?」
「おい、蓮也どうしたんだ?」
「シュッシュッ。おい、なんだお前? キッモ。キッショ。コイツ絶対クラスでボッチだろ? いじめられてたのか? シュッシュッ」
蓮也はドローンに蹴りを放つが、ドローンは自動で回避する。
「おい、お前。俺みたいにダンジョンに潜れんのか? ん? できんのかよ? お? できるなら、やってみろよ。喧嘩なら買うぞ? ん?」
蓮也はハイキックを放ち続けるも、最新鋭のドローンはその高度なセンサーと飛行能力で上手く回避しながら、蓮也を撮り続ける。
「おい、やんのか? 来てみろよ。お? こいよ。ホアッ」
蓮也はついに聖剣を振り始めた。
「おい、蓮也よせ」
「ライブ配信中だぞ」
「何やってるんださっきから。なんでドローンに向かってハイキックを放ち続けるんだ」
「やめなさい!」
「ちょっ、おい、誰かカメラ止めて」
要と秀仁が2人がかりで蓮也を押さえ込む。
由紀はすべてのドローンのスイッチを切った。
「おい、どうしたんだ蓮也」
「らしくねーぞ。何キレてんだよ」
「はー、はー、はー。ヒュー、スウ。いや、すまない。コメント欄に差別発言をしている奴がいるのを見かけて。ついカッとなってしまった」
「そ、そうか」
「落ち着けよ。いちいち挑発に乗ってたらキリねーぞ」
「煽ってきた奴の思う壺だろ」
「たくさんのリスナーが見てる前で、何やってんのよ」
「1人のクソな奴のために全員をガッカリさせちまったら、元も子もねーだろ」
「ああ。すまない」
こうしてとりあえず配信を止めたものの時すでに遅し。
蓮也の暴言と狂態はすっかりカメラに収められており、凄まじい勢いで拡散された。
今回ばかりは流石のディーライ信者も擁護することができず、むしろ炎上に加わった(いつも炎上する際、犠牲になっていた大吉がいなかったのも災いした)。
これまでギリギリのところで踏みとどまっていた蓮也とディーライだったが、これ以降は坂を転げ落ちるように転落していく。