第47話 悟の生還
会場にも天音がボスモンスターを倒した様子が映し出される。
「駒沢選手やりました! ボスモンスター討伐達成です」
「……」
「ボスモンスター賞には、他の賞の2倍の得点が加算されます。クロエ・エクスプローラーは、他にも特殊アイテム賞、最速到達賞、最多討伐賞も獲得しており、他の追随を許さない圧倒的なポイントを獲得! よって今大会、第10回ダンジョン・カップの優勝はC・エクスプローラーとなりました!」
「……」
「下馬評を覆す見事な活躍でしたね。田辺さん、今回のシーエクの躍進、どう思われますか?」
「伝説……の始まりですね。私は最初からこうなると思っていました」
「あー、はい。そうですか。ま、なにはともあれC・エクスプローラーの皆さん、おめでとうございます」
会場では、万雷の拍手が鳴り響いた。
「さー、優勝が決まったとはいえ、まだまだ競技は続いています。ダンジョンに残っている選手達の方に目を向けてみましょう」
榛名は壁に背を付けながら、慎重にダンジョンを進んでいた。
せっかく、特殊アイテムを取ったのにここでやられてはつまらない。
なるべく戦闘を避けて、特に強敵との遭遇は必ず避けて、慎重に行く手を見定めながら、ゆっくりダンジョンを進んでいく。
(あれは!)
道の先にランタンの炎とは違う光が見えた。
地上へと繋がる転移魔法陣だ。
榛名は最後に手早く周囲を警戒してから、転移魔法陣に向かって駆け込んだ。
榛名の身柄はすぐに地上へと転送される。
榛名が地上に姿を現した途端、途轍もない歓声が降り注いだ。
「う、わ。すげぇ人」
榛名はスタジアムの人間の多さに圧倒されてしまう。
ずっと地下のようなところに潜っていたせいで、太陽の光と人の声の大きさに眩暈を起こしてしまった。
「榛名!」
先に帰還を果たしていた真莉と天音が駆け寄ってくる。
「おー、真莉、天音」
「おかえりー」
「2人ともめっちゃ賞取ってんじゃん。ドローンに通知来てたぞ」
「榛名こそ。お疲れさま」
「私らの優勝確実か? やりぃ。ユニットの宣伝、大成功だな」
「それより榛名。悟さんがダンジョン内で……」
「えっ? 悟がやられた?」
榛名は思わずダンジョンの入り口の方を振り返った。
悟は閉じたまぶたに太陽の光が刺さるのを感じた。
「う……まぶし」
手で陽光を遮りながらどうにか自分の置かれた状況を確かめようとする。
すると自分を収容しているカプセルの開き口から榛名達3人の顔が見える。
「悟、大丈夫か?」
どうやら自分はカプセルのまま地上に回収され、治癒魔法を施されたようだ。
「ホラ、手、貸して」
悟は榛名が差し出してくる手を掴んで、カプセルから脱出する。
「もう、心配しましたよ」
天音が咎めるように言った。
「ダンジョン内でやられたって聞いた時はどうなることかと」
真莉が安心したように言った。
「最初から自分が戦闘不能になることを想定してこの作戦を立てたのですか?」
「うん、この方法が一番確実で効率がいいと思ったから」
「だからって……、無茶しすぎです」
「あはは。ごめん。ごめん。それで? みんな、賞は取れた?」
「おう、ばっちり取れたぜ。私が特殊アイテム賞」
「私は最速到達と最多撃破!」
「私はボスモンスターを倒すことができました」
「そうか。いや、みんなよく頑張ってくれた。おつかれさま」
悟は天音の方を見た。
「天音。ボスモンスター賞おめでとう。これでDハウスの案件をうちでやらせてもらえる」
「はい。悟さんの体を張った作戦立案のおかげです。本当にありがとうございます!」
「まだ家のことが全て解決したってわけじゃないけど、君の望みである実家からの独立に一歩近づいたね」
「本当に……なんとお礼を言ったらいいか」
「さーとるー。新しい家に住むのは天音だけじゃないんだぞ」
「私達も一緒に住んで、シーエクの新しい拠点として活用ですよ。もちろん、悟さんも!」
「あはは。そうだったね。よっ」
悟はクマの着ぐるみをかぶる。
「みんなまだ仕事は終わってないよ。表彰式は全国テレビに放映される。とびきりのいい笑顔をお茶の間に届けるよ」
「はい」
「ユニットの売り込み大成功だよ」
「今日のトレンド1位はもらったぜ」
「C・エクスプローラーの皆さーん。表彰式を行いますので準備してくださーい」
「はーい。今、行きまーす」
悟達は表彰式の準備に取り掛かった。
だが、まだこの時の悟達は知る由もなかった。
C・エクスプローラーの優勝すらも霞むほどの大炎上が、この後某グループによって引き起こされることを。