第45話 荒ぶる天音
ダンジョンを脱出した真莉は、スタジアムに召喚された。
満員になった観客席から万雷の拍手が送られる。
真莉は可愛くピースして、歓声に応える。
「C・エクスプローラーの本城真莉選手、今、会場に辿り着きました。ダンジョン脱出第一号! 初参加で最速到達賞、達成です」
「……」
「田辺さん、作戦ミスかと思われたシーエクの本庄選手が最速での会場到達を達成しましたが、この件についてどう思われますか?」
「ダンジョン内、ディーライとリトル・ガーディアンの位置はどうなっていますか?」
「えっ? み、見てみましょう」
リポーターがディーライとリトル・ガーディアンの配信画面と現在位置を映すように指示する。
「どうやら両グループとも4階層に到達しているようです」
「決まりですね。ボスモンスター賞を獲得するのは、ディーライかリトガーです」
「はぁ」
「ボスモンスターを倒すためには速さだけでなく、総合的な強さも必要です。4人で固まって進んでいるディーライとリトガーに対し、シーエクはダンジョン内で一人一人が孤立しています。これでは流石にどれだけ運がよくてもシーエク、ノーチャンスでしょう。よほどピンポイントでアイテムを取得できなければ、ボスを倒せるだけのステータスを確保することはできません」
「田辺さん、ムキになってませんか?」
「はっ!? なっ、なってませんよ。いきなり何を言い始めるんですか。私がいつムキになったっていうんです?」
「そうですか」
「そうですよ。失敬な」
「おっと、ここで田辺さんへの質問コメントが来ています。『田辺さん、いつもためになる解説ありがとうございます。ところで、C・エクスプローラーのメンバーの1人、クマさんはマップスキルの使い手ですが、その点はどう思われますか? マップスキルでアイテムの位置を特定すればダンジョンの攻略を有利に進められると思うのですが』」
「ああー。マップスキルね。あれはあんまり使えないんですよ。ダンジョンカップでは」
「おや、そうなのですか?」
「ええ。再三言うようにダンジョンカップは短期決戦、一方でマップスキルはダンジョン情報を取得するのに数時間はかかってしまうので、その間に競技が終わってしまいます」
「なるほど。では、マップスキルでアイテムを集めて、ボスモンスターを倒すのは難しい……と、田辺さんはそうお考えですか?」
「そうですね。もちろんマップスキルもまったく無価値とは言いませんよ? 普段、ダンジョンを事前調査する分には多いに役立つんですけどね。ただ、ダンジョンカップにおいては、パーティーに入れても、1つ枠を無駄にしてしまうだけなのでどのグループもマップスキル持ちはパーティーに入れないんですよね。けど、そうかー。シーエクはマップスキル持ちを入れちゃったかー。これは枠を一つ無駄にしちゃいましたね、シーエク。ますますボスモンスター賞は遠のきました」
「では、ここでシーエクのメンバーの1人クマさんの配信画面を見てみましょう。ん? あ、これは? 何も映りませんね。あっ、ちょっと待ってください。すみません。シーエクのクマさん、どうやらすでに瀕死状態になっているようです。巻き戻してみたところ、開始してすぐにモンスターにやられています。シーエクのクマさん、リタイアです」
「っし!」
田辺は机の下でガッツポーズした。
「ん? 田辺さん、今、ガッツポーズしましたか?」
「いえ? してませんよ? するわけないじゃないですか。変なこと言わないでください」
悟からマップ情報を受け取った天音は、早速動き始めた。
(ボスモンスター討伐か……。責任重大ですね)
悟からの情報によると、天音がボスの間に一番最初にたどり着ける可能性は低い。
Dライブ・ユニットやリトル・ガーディアンの方が先に着く可能性の方がはるかに高い。
それでも天音はボスモンスター賞を第一目標に定めること。
もし、失敗した場合はできる範囲で榛名と真莉の支援に回るように。
ボスモンスターは魔石と回復薬で十分倒せるとのことだった。
天音はフェンリルを召喚して、その背中に乗る。
悟の指定したアイテムに向かって一目散に駆け出した。
(負けるわけにはいかない。今日だけは!)
「皆様、申し訳ありません。今日の配信ではあまりコメント返しできないのに加えて、見苦しい様をお見せてしまうかもしれませんが、ご容赦ください!」
(あの叔父の支配する家から抜け出すためにも、今日だけは負けるわけにはいかない!)
天音は悟のマップ情報に従い、最短で一番近くの階段を登り、アイテムのある場所へと向かう。
悟の指定した場所に行くと、通路の先にゴブリンがいるのが見える。
悟によるとあのゴブリンは大粒の魔石をドロップしてくれるとのことだ。
だが、通路の向こう側から別のグループがやってくるのも見える。
天音は速攻でゴブリンを倒した上で、フェンリルに唸り声を上げさせた。
「げっ。フェンリル!?」
「う、うわぁ」
「退いてください!」
天音が一喝すると、その4人組は慌てて道を開ける。
魔石を手際よく回収すると、天音は次のアイテムのある場所へと急ぐ。




