第44話 貴い犠牲
会場では、大スクリーンでの中継とリポーターによる実況が続いていた。
「さあ、各グループ、強化アイテムを取得してどの入賞条件を狙うか駆け引きが激しくなってきました。現在、確定しているのはC・エクスプローラー、坂下選手の特殊アイテム賞のみ。次に入賞条件を満たすのは果たしてどのグループになるのか。おっと、ここで情報が入ってきました。3階層に到達した探索者が現れたとのことです。リトル・ガーディアンとDライブ・ユニット、この2組がほぼ同時に3階層に到達しました。解説の田辺さん、ついにダンジョンの折り返し地点、3階層に到達するグループが現れてしまいましたが、これをどう見ますか?」
「はい。これはもう決まりましたね。最速到達賞は、リトル・ガーディアンかDライブ・ユニット。この2組に絞られました」
「おや。もう、最速争いの勝負は決まったと。田辺さんはそうお考えですか?」
「はい。これはもう100%決まりですね。再三申し上げますが、ダンジョン・カップは短期決戦。例年、3階層に一番速くたどり着いたグループが優勝しています。今年もその例に漏れなくこの2組のどちらかが優勝するでしょう。ダンジョン解説歴10年の私が断言します。他のグループは別の賞を取りに行った方がいいでしょう」
「おおーっと速くも田辺さんから優勝決定の宣言が出たぁー。これは速くも決まったか。ん? あ、失礼しました。先ほど1名の選手が6階層に到達したとのことです」
「……? リトル・ガーディアンかディーライの選手ですか?」
「いえ、まったく違うグループです。情報によると、C・エクスプローラーの本城真莉選手が6階層に到達したとのことです」
「……」
「田辺さん、予想に反してシーエクの本城選手が最速到達賞を獲りそうですが、どのように見られますか?」
「……」
「開始当初、田辺さんはもうシーエクに優勝の目はないとおっしゃられていましたが、蓋を開けてみると、2つ連続でシーエクの選手が入賞条件を満たすことになりました。ダンジョン内で今、何が起こっているのでしょう?」
「……」
「おっと、ここで本城選手のリプレイ場面が会場に流されるようです。見てみましょう」
真莉が〈転移の護符〉を取得して、階層を転移している様子が映される。
また、〈花爆弾〉で多数のリザードマンを撃破している様子も映される。
「んん? 真莉選手、どうも30体以上のモンスターを倒したようです。これは最多撃破賞もありえるんじゃないですか?」
「ふー。またもやシーエク、運がよかったですね」
「えっ? これって運なんですか?」
「運ですね。5回連続で〈転移の護符〉を引くなんて運以外あり得ません」
「では、〈花爆弾〉でリザードマンの群れを倒したのも運ということですか?」
「……」
「さぁー、2回連続で田辺さんの予想を裏切る展開! 今年のダンジョン・カップは何かが違う。どうなるのか目が離せません!」
真莉は6階層に到達し、最速でゴール地点に到達しようとしていた。
「ええっ? 〈転移の護符〉が運? 誰が言ってるのそんなこと」
・解説の田辺が言ってたよ
「何それ。面白い人だねー。ウケるー。誰か田辺さんに教えてあげてよ。運じゃなくて、悟さんのマップスキルのおかげだって。ん?」
真莉は通路の途中にある一際大きな扉の前に来た。
「ここがボスの部屋か。みんなー。ボスの部屋前にたどり着いたよー。ただ、悟さんからの指令は最速到達賞だから今回はパスだね」
真莉はアイテムボックスから〈花爆弾〉を出して、即席で錬成した箱に入れ、扉の側付近に安置しておいた。
そして榛名と天音、悟のドローンにメッセージを入れておく。
「こうして置いておけば、榛名と天音も使えるからね。気が利く真莉ちゃんだよ。さて、それじゃあゴールに行こっか」
真莉は階段を上がってダンジョンから脱出した。
無論、ダンジョン内にいる探索者中最速のゴールである。
遡ること数時間前。
榛名・真莉へのマップ情報を送信し終えた悟は、天音にも情報を伝達しようとしていた。
(榛名が特別アイテム賞、真莉が最速到達賞。となれば、残るは最多撃破賞、最多アイテム取得賞、ボスモンスター賞……)
天音の降りた場所付近のマップ及びゴールまでのルートを見たところ、アイテムもモンスターもそこまでいない。
(うーん。アイテム賞もモンスター賞も厳しいか。となると、ボスモンスターしかないな)
ボスモンスター賞を狙う場合、最速でゴール付近のボスの間まで辿り着かなければならない。
というのも、ボスの間は早い者勝ちなのだ。
1つのグループがボスと戦っている間、別のグループはボスの間扉の前で待っていなければならない。
そういうわけで、今から天音にマップ情報を送っても間に合わないかもしれない。
特に天音は指令に忠実な一方で、指示待ちする傾向があった。
(だが、しのごの言っていられない。先行者がボス討伐に失敗するのを期待して、天音にはボス討伐にチャレンジしてもらおう。おそらくそれが一番入賞確率が高い。ボスモンスターの種別は?)
悟はボスの間にいるモンスターを調べた。
すると立髪猿であることがわかる。
(立髪猿か。これはラッキーだな)
立髪猿は獅子のような立髪をもつ巨大な猿である。
ライオンの立髪と爪、猿の身軽さを併せ持つ厄介なモンスターだが、フェンリルの強さと速さなら十分対抗できる。
天音と相性のいいボスモンスターだと言えた。
フェンリルを強化して、回復アイテムをある程度持てば倒せるはずだ。
(天音がアイテムさえ取得できれば……)
悟は天音のドローン向けにボスモンスター賞を狙う旨とそのために必要なアイテムの位置情報を送った。
その際、真莉のように余分な情報は送らない。
天音には必要最小限の注意事項だけ送って、目標に集中させることが重要だった。
(これでよし。とりあえず今の段階でできるのはここまでかな。あとは時間の許す限り状況の変化に対応して……ん?)
「ふー、もう来ちゃったか」
悟は複数体のゴブリンに囲まれていた。
「できればもう少し待って欲しかったけど、仕方ないね。なるべく苦しまないように一撃で済ませてくれよ」
ゴブリン達が飛びかかってくる。
(あとは頼んだぞ、みんな)
棍棒の一撃を受けた悟は、戦闘不能になった。
瀕死の重体を負って、生命維持カプセルに収容される。




