第42話 無敵飴
ダンジョンに降り立った探索者達は一様に周囲を警戒することから始めた。
だが、そんな中周囲には目もくれず自身のスキルを発動する者が1人いた。
「〈マッピング〉」
悟はダンジョンのマップ情報を即座に取得する。
「1Fのマップ情報取得。2階のマップ情報取得。3階のマップ情報取得。……6階のマップ情報取得。全階層のマップ情報取得完了!」
側にいたリトル・ガーディアンの1人は、悟のマップ情報取得の速さに目を見張る。
(速い! 全階層のマップ情報を10秒足らずで取得しやがった)
「周囲に敵なし!」
「よし。進むぞ」
「おい、アイツはいいのか? 放っておいて……」
進もうとする雅人にリトル・ガーディアンの1人が聞いた。
「ほっとけ。武装もせずに1人でダンジョンに入る奴が悪い。行くぞ!」
(俺が言ったのはそういう意味じゃないんだがな)
リトル・ガーディアンの面々はダンジョンを進んでいく。
Dライブ・ユニットもそれに続いた。
悟はその場に止まってマップ取得作業を続けた。
「榛名達の位置は? よし。捉えた」
(みんな無事にダンジョンに降り立ったみたいだな)
時々、ダンジョンに入った直後、出会い頭でモンスターとの遭遇に苛まれることがあるが、今回は3人ともそういった不運には陥らなかったようだ。
3人の降り立った地点の離れ具合もいい感じだった。
「まずは榛名。火力系のアイテムは? ちっ。付近にないか」
榛名の職業は言わずと知れたガンナー。
火力を担当して、最多モンスター討伐賞を取って欲しかったのだがアテが外れた。
「なら、スピード系は? あった!」
榛名の降りた場所、すぐ近くに探索スピードを上げるアイテム〈無敵飴〉を持ったモンスターがいる。
しかも、特殊アイテム賞の落ちている場所も比較的近い。
悟は榛名のドローンに向けて、〈無敵飴〉と特殊アイテム賞の場所を送信する。
(! 悟からの情報来た!)
すでに走り始めていた榛名は、ドローンに悟からの情報が来たのに気づいた。
一旦、足を止めてマップ情報を見る。
(ん? 〈無敵飴〉? 火力系のアイテムじゃないのか? あっ。でも、特殊アイテム賞が近くにあるのか。よし。わかった)
榛名は情報を手早く確認すると、再び走り出す。
榛名と同じスタート位置には、カメレオンRPGの面々が降り立っていた。
(こいつの配信はいつも見ているぜ。火力とスピードでどうにかするタイプだ。だが、メンバー全員でバラバラになったのはやりすぎたな)
しかも、榛名は走り出したら止まらないタイプ。
競技が始まると何も考えず突っ走るに決まっていた。
カメレオンRPGからすればこれほど与しやすい相手はいない。
(悪いが、後ろにつかせてもらうぜ)
リトル・ガーディアンとDライブ・ユニットがボス討伐賞を宣言している以上、3番手の実力者であるカメレオンRPGは別の賞を狙った方がいいだろう。
そして、火力とスピード自慢の榛名と同じスタート地点。
途中まで榛名の火力にタダ乗りし、機を見て一気に抜き去る。
(狙うは最速到達賞だ!)
カメレオンRPGのリーダー、陸人はそんな算段をしながら榛名の後を追っていると、煌びやかなアイテムがひしめく部屋にたどり着いた。
「しめた。ティアゾーンだ!」
多種多様なアイテムを取得できるティアゾーン。
最序盤でこのティアゾーンを引き当てられたのはすこぶる幸運なことと言えた。
「分かってるな? スピード系のアイテムを優先して確保だ」
カメレオンRPGの面々は当然のようにアイテムを手早く調達する作業に入る。
しかし、榛名はそれらアイテムを無視して突っ走っていく。
「おい、あいつ……」
「バカか? 火力系がアイテムもなしにどうするつもりだよ」
陸人は思わず通路に首を出して榛名の行方を目で追ってしまう。
ティアゾーンの部屋を抜けた榛名は、ゴブリンの群れに遭遇する。
(ゴブリン! 悟からの情報に出てたのはあいつらか!)
「行くぜっ」
榛名はゴブリンを射程に捉えるや撃ちまくった。
魔力を使い切るくらいの勢いで。
(何やってんだこいつ。ただでさえ1人なのにこんな序盤でザコ相手に魔力を使い切って。……ん?)
倒したゴブリンのドロップアイテムの中にキラキラ光るキャンディが含まれているのが見える。
(なっ。無敵飴!?)
榛名は無敵飴を拾って、包みを取り、早速口に含む。
無敵飴は口に含んでいる間、無敵状態になるアイテムだ。
榛名の全身が光り輝き、どんな攻撃も受け付けない無敵状態になる。
ゴブリンの後に現れた真打ちオークの群れも蹴散らして、特殊アイテム賞〈オリハルコンの聖杯〉がある場所まで急行した。
蝋で固められた扉を破壊し、室内に安置された〈オリハルコンの聖杯〉を手に入れる。




