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【コミカライズ開始!】追放されたダンジョン配信者、《マッピング》スキルで最強パーティーを目指します  作者: 瀬戸夏樹


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第39話 駒沢家の事情

 玄関の引き戸を開けて自宅に帰った天音は、靴を脱いで床に上がった。


 脱いだ靴はきちんと揃えておく。


 木造の古い家なので、歩くたびにギシギシと鳴るが造りはしっかりしている。


 何より天音はこの音が好きだった。


 しばらく家の音に浸っていた天音だが、障子の向こうの暗がりの部屋から耳障りな音が響いてきた。


「やっと帰ってきたか」


 天音は聞こえなかったふりをして通り過ぎようとした。


 だが、暗がりから聞こえてくる声を聞いて足を止めざるをえなくなる。


「まったく。娘がこんな夜遅くまで出歩く不良になったとあっては、死んだ兄さんも浮かばれんな」


 天音はジロリと不愉快そうに声の主の方を見る。


「今日は配信のお仕事をしていたんです。お手伝いさんにも言っておいたはずですが?」


「配信ねぇ。いつまでそんないかがわしいことを続けるつもりなんだ。仮にも駒沢商事の娘なんだからあまり恥ずかしい真似はしないで欲しいんだが」


「収益化できれば、活動には口出ししない。そう約束したのは叔父様ではありませんか」


「家に迷惑をかけないという条件付きでな」


「迷惑? 私がいったいいつ叔父様に迷惑をかけたって言うんです?」


 天音はつい喧嘩腰になる。


「なんだその態度は。そっちがその気なら、その配信業とやらを禁止してもいいのだぞ」


 天音はぐっと言葉を詰まらせる。


 今、配信業を禁止されたら、せっかくここまで色々世話してくれた悟に対して申し訳が立たない。


 天音はなんとか堪えて、その場を立ち去ることにした。


「待て。まだ話は終わっていないぞ。どこに行く」


「今日はもう疲れてるんです。明日にしてください」


 天音は自室に避難する。


 幸い、この屋敷は広かったので不快な同居人のこともあまり気にしなくて済んだ。


 天音は自室に入ると、入念に鍵をかけてからようやくくつろいだ気分になる。


「ふぅ」


 天音は机に腕枕をして沈み込む。


 せっかく榛名や真莉、そして悟と一緒にいて楽しかった時間が台無しだ。


 天音の父親が死んでから駒沢家はずっとこの調子だった。


 元々は天音の父親が継いでいたはずのこの家だが、現在、事実上天音の叔父が乗っ取っている状態だ。


 叔父は元々は天音の父親の会社で役員を務めていた。


 事業に失敗して食い詰めていたところを哀れに思った父が役員として雇ってあげたのだ。


 それにもかかわらず、父が死んだどさくさに紛れて会社を乗っ取り、思い出が詰まったこの家にまで居座り、乗っ取ろうとしている。


(恩知らずの恥知らずめ。あれだけ父様に助けてもらっておきながら)


 天音と彼女の母親はずっとこの状態に耐えていた。


 天音は早くこの家から出て行きたいと思っている。


 天音が配信を始めたのもそのためだ。


 天音はパソコンを起動して、自分のチャンネルを表示する。


 今日の動画は150万再生を突破しようとしていた。


 だが、天音はまだ要保護状態。


 独立して一人暮らしするには保護者の同意が必要だった。


 父親が死んで以来、天音の母はすっかり気が滅入ってしまって、叔父の言いなりになるばかりだった。


 何事にも叔父にお伺いを立てて、天音の進路や扱いに関しても全て叔父の意思が反映されている状態だった。


 ダンジョン配信に関してもだいぶ反対されてやり合った末に渋々許可をもらえたのだ。


 それも最近になって、また何かと口出しするようになってきた。


 この分だと、また干渉され始めるのも時間の問題だろう。


(でも、これだけは守らないと)


 ただ……、ユニットを組むとなると駒沢家だけの問題ではなくなる。


 榛名や真莉、悟にも迷惑をかけてしまうことにもなりかねない。


 自分の家の問題で仲間であるあの3人に迷惑をかける。


 それだけは嫌だった。


 ただ、あんまり家庭の事情は悟達に話したくない。


(どうしようかな。どういう風に断ろうかしら)


 天音はこういう時の上手い口実とか言い訳を考えるのが苦手だった。


 そんなことを悩んでいると、通知音と共にメールが届く。


(あ、悟さん)


 思い悩んでいた天音は頬を綻ばせた。


 今日の配信についてお祝いのメッセージと今度は必ず4人揃ってどこかへ出かけようという旨の記述があった。


 榛名、真莉と一緒にカラオケで撮った動画が添付されている。


「天音ー。ランキング1位おめでとー」


「羨ましいぞー」


(みんな)


 天音は体の底から元気が湧いてきて、即座にメールを返信した。


「ありがとうございます。今回は打ち上げ参加できなくて申し訳ありません。ほんとはすっごく行きたかったんです。家の者さえ迎えに来なければ。次回は絶対に行きますので。また誘ってください」


 天音はメールを送信すると、一抹の寂しさに襲われた。


 が、すぐに電話がかかってくる。


 悟からだった。


 天音は反射的に電話に出てしまった。


「はい。もしもし」


「もしもし天音? 今、電話かけて大丈夫かな? メールすぐ返ってきたから。もし、お家の方、大変だったら急ぎの用事ではないんだけど」


「いえいえ。全然大丈夫です。家に帰ってみたんですけれど、やっぱり大した用事もなかったみたいで」


「そうか。それならよかった」


「せっかくお誘いいただいたのに、先に帰ってしまって申し訳ありません」


「いや、気にしないで。家の人が帰れって言うなら仕方がないよ。聞くところによると、少し複雑な家庭環境だそうだね」


「……はい」


「よかったら聞かせてくれないかな? 君が何を悩んでいるのか。マネージャーとして知っておきたいんだ」


 天音は胸がじんわり熱くなるのを感じた。


 それと共に本当は誰かに家の悩みを聞いて欲しかったことにも気づいた。


 天音は悟に駒沢家の事情と自分の辛い気持ちを洗いざらい話してしまう。


 できれば、叔父をこの家から追い出したいこと。


 それが無理なら家から出て行きたいこと。


「そうか。それは確かに辛いね」


「はい」


「お母さんが納得しているなら、叔父さんを追い出すのは難しいね。ちょっと僕の手にも余ることだ」


「いえ、聞いてくださりありがとうございます。私はもうそれだけで……」


「あっ、でも待って。役に立つかどうかわからないけど、今度のダンジョン・カップの賞品に設定されている案件が君の希望に適うかもしれない。資料送っとくからちょっと見てみてよ」


「はあ。案件ですか」


 天音はあんまり気が乗らないながらも送られてきたメールに添付されている資料を開いた。


(悟さんには悪いけれど、今、ユニットなんて組むとみんなに迷惑をかけちゃうかもしれないし……!?)



 ――――――――――――――――――――

 Dハウス株式会社の案件

 ――――――――――――――――――――

 家一軒プレゼント!

 ダンジョン・カップで上位に入賞した3名以

 上のユニット向け。

 Dハウス株式会社の物件を3年間家賃無料で

 ご利用いただけます。

 3名以上で住み、週一回以上屋内を配信する

 ことが条件。

 もし、宣伝効果で新規契約数が10件以上に

 上った場合、家そのものを差し上げます。

 ――――――――――――――――――――



(…………えっ!? 案件で家もらえるんですか!?)


 天音は食い入るように画面を見つめる。


(あ、違った。3年間家賃無料になるのか。でも……)


 家から出られるかもしれない。


 それは突如降りてきた一筋の希望だった。




「ユニットを組みましょう」


 翌日、学校近くの喫茶店で天音は榛名と真莉を前にそう言った。


「えっ?」


「急にどうしたんだよ」


 いつになく決然とした口調の天音に驚く真莉と榛名。


「天音。君の口からみんなに事情を説明して」


「……はい。実は私の実家は叔父に居座られていまして……かくかくしかじか……」


「なるほど。そんな事情が」


「そこで悟さんが紹介してくれたこの案件なんですけど……」


「えーっと何々? Dハウス株式会社か。えっ? 何これ。家もらえるの?」


「いや、違うぞ。レンタルだ。あっ、でも」


「はい。実家を出られるかも」


「やったじゃん」


「てか、特約事項見て。宣伝効果次第では、家と土地もらえるって書いてるわよ」


「マジ? 配信するだけで?」


「しかも見てください。結構立地もいいんですよ。ダンジョン配信の拠点にできるかも」


「もう、この物件うちの事務所にしちゃう?」


「つーか秘密基地作ろうぜ」


「秘密基地ってあんた。小学生じゃないんだから」


 真莉は呆れ気味になるものの、案件獲得には乗り気だった。


「私も錬金術の練習する施設欲しかったんだよねー」


「射撃場に改造とかできるかな?」


「フェンリルさんを寝かせる部屋も欲しいですね」


「でも、固定資産税かかるから家賃無料の方がコスパよくないか?」


 榛名が言った。


「うーん。いざとなれば売却するのも手だけど。売却までにかかる期間と費用次第ね」


 真莉が案件に提示されている物件情報と睨めっこしながら言った。


(みんなしっかりしてるな)


 悟は普通に感心してしまう。


「よーし。とにかく、ダンジョン・カップではこの案件絶対取ろうぜ」


「ユニット結成だね」


「はい。みんなで頑張りましょう」


 こうして3人はダンジョン・カップに向けてユニットを結成するべく動き始めるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 恩知らずの恥知らずな輩に天罰が降るのを期待してしまいます!
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