第113話 祝福、そして新たな冒険へ
その後、如月彗はダンジョン界隈からだけでなく社会のあらゆる層から叩かれた。
厳しい非難と追求を受けて、泣く泣く謝罪会見を開く。
生命維持カプセルから無理矢理引っ張り出され、会見の席に座らされることになる。
世間の人々は如月の変わりように驚くばかりだった。
以前の彼は良くも悪くも意気軒昂としていたのに、今や集中砲火を受けて、悄然とし、一気に十歳くらい老けたように見えた。
如月はボソボソとした喋り方ながらも、自身の責任を認め、謝罪し、リーダーから辞任することを表明した。
だが、その直後いきなり髪を剃る懺悔パフォーマンスをしたため再度炎上する。
これに呆れたメンバーはついにデュームと如月を見放すことを決意した。
暫定リーダーに就任した草間彰人は、関係者への補償など諸々の手続きを指揮した後、自分を慕うメンバー達と共に脱退。
新たにダンジョン配信グループを立ち上げる。
如月という求心力を失い、主力メンバーも根こそぎ抜けたデュームに再び立ち上がる力はなかった。
デュームは解散する運びとなった。
♦︎
こよみと灯華はスタジオのカメラの前で緊張しながらその時を待っていた。
スタジオ内スクリーンに灯っている配信開始のカウントダウンが、やけに長く感じられる。
「……いくよ」
「……うん」
小さくそう言ったこよみの声は、マイク越しでもわかるほど固かった。
横にいる灯華も背筋を伸ばしたままカメラをじっと見つめている。
退院して間もない彼女の顔には、ロブ・スライムから受けた生傷を保護するガーゼがまだ貼られたままだった。
C・エクスプローラーのスタジオで初めての撮影。
気になるのはやはりコメント欄だ。
SNSにおいてすでにコメント欄を解放することは伝えてある。
こよみにとってはデュームとのイザコザで閉鎖して以来、久しぶりのコメント欄解放だった。
こよみと灯華は不安げに悟の方を見る。
悟は安心させるように「大丈夫」と口パクで伝えてくる。
スタジオのライトが点滅して配信が開始される。
こよみと灯華はたどたどしく話し始めた。
「み、皆さんお久しぶりです。今日はシーエクのスタジオから友達の灯華ちゃんと一緒に配信しています」
「どうもこよみの友達の灯華です」
「しばらくの間、配信休んじゃってて申し訳ありません。普段はコメントなしでお送りするこのチャンネルですが、今日はTwixで宣言した通り試しにコメント欄解放してみます。では、早速いきます」
こよみがそう合図すると、画面にカウントダウンが灯る。
三、二、一。
一拍の沈黙。
そしてコメント欄が、一気に流れ始める。
・待ってた!!!!
・おかえり!!
・生きててくれてありがとう
・こよみちゃん、大会での活躍すごかったぞ
・灯華ちゃん無事でほんとによかった……
こよみは思わず息が詰まった。
かつて、ここは罵声と中傷で埋め尽くされていた。
デュームと対立したあの日から、画面の向こうは敵意に満ち、心を削る言葉ばかりが並んだ。
それが怖くて、こよみはコメント欄を閉じた。
そのことが、灯華との距離を生んだ。
表では、気まずく、すれ違い、何も言えないまま時間だけが過ぎていった。
けれど裏では、灯華は動いていた。
荒らしを止めさせようと、デュームに接触し、調べ、探り、そして大会の不正に辿り着いた。
告発しようとして、逆に襲われてしまったが、結果的にデュームの崩壊に繋がった。
流れるコメントにこよみと灯華を責めるものはなかった。
称賛と、祝福と、安堵。
こよみの視界が、少し滲む。
「みんな……ありがとう」
震えそうになる声を、必死に抑える。
灯華がそっと頷き、前に出た。
「今日は、もう一つ……大事なお知らせがあります」
コメントの流れが、一瞬だけ落ち着く。
「私、蒼井灯華は無事退院することができました。そして――これからは、C・エクスプローラーで活動します」
一拍遅れて、爆発するような反応。
・うおおおおおおお
・待ってましたその言葉!!
・もうシーエク最強じゃん
・二人が入れば無敵だろ
画面越しの熱量が、胸に押し寄せる。
こよみは、コメント欄を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。
怖かった。
また傷つくんじゃないかと、ずっと思っていた。
でも今、ここにあるのは――二人を肯定する声だった。
「……また、ここからだね」
小さく呟いた灯華に、こよみが笑う。
「うん。今度は、二人でいっぱい配信しよう」
コメント欄は止まらない。
祝福と期待が、画面を埋め尽くしていく。
傷ついて、遠回りして、それでも戻ってきた場所で。
二人は、ようやく救われたような気持ちで、配信という名の舞台に新しい一歩を踏み出した。
その日はダンジョンに行くこともなく、雑談やカラオケなど他愛ない内容で終わったが、配信は最後まで好評だった。
♦︎
こよみと灯華の配信が終わると、C・エクスプローラーの配信者達は会議室に集まった。
榛名、真莉、天音、美波、こよみ、灯華の六人がそれぞれ座席に座ることもなく思い思いに過ごしている。
しかし、悟が入ってくるのを見るや目をキラキラと輝かせて集まる。
早く動き出したくて仕方ないといった感じだ。
「おせーぞ悟」
「次はどんな配信企画に挑戦するんですかー?」
「もう潜るダンジョンは決まったんですか?」
「みんな一緒ですよね」
「変な邪魔が入らなければいいけど」
「うん。ちょうど新メンバーも入って人員も増えたことだし。このダンジョンにしようと思うんだ」
悟はドローンのプロジェクター機能を作動させて、壁にダンジョン情報を映し出す。
「飯田橋ダンジョン……ですか?」
「はいはーい。それ知ってるよ。入った瞬間、二人一組にシャッフルされるダンジョンだよね?」
美波が手を挙げて言った。
「そう。別名『縁結びダンジョン』ちょうど六人になったところだし、こういうお遊び企画で互いの親睦を深めるのもいいと思ってね。普段組まない人と組むことで、意外な一面が見れたり、何か配信上で有益なネタが見つかるかもしれない」
「おお。面白そうですね」
「上手くやれば、他のグループとのコラボにも発展させられそう」
「このダンジョンはゴールに到着できた人数によって、手に入れられるアイテムの内容が変わるんだ。因みに六人以上で入って全員到達できた例はまだない」
「前人未到ってわけか。やり甲斐もあるね」
「よーし。それじゃあ早速企画練ろうぜ」
悟達は飯田橋ダンジョン配信に向けて様々企画を練り始めた。
まだ見ぬダンジョンの深奥、新しい可能性を求めて彼らの冒険は続く。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これにて完結とさせていただきます。
いやー、現代ファンタジー難しかったです。
不完全燃焼な部分も多々ありますが、まあそこそこ持ち味は出せたかなと。
またいつか現代ファンタジー・ダンジョン配信、書きたいです。
ウェブ原作は完結しましたが、コミカライズの方はまだまだ続きますので、よければ目を通していただけますと幸いです。
では、またお会いできる日まで。




