第101話 着実な前進
(これが品川ダンジョン……)
天音はダンジョンに入るなり周囲を見渡した。
コンテナや木箱が無造作に積まれた空間。
「よーし。いっくよーん」
「あっ、ちょっと待ってください真莉」
天音が声をかけるも少し遅かった。
真莉のすぐ鼻先を矢が掠める。
「う、うおおっ!」
真莉は青ざめながら飛び下がる。
天音が矢の飛んできた方向を見るとコンテナの間から顔を覗かせるゴブリンが弓矢を構えていた。
(あそこか)
「ポケットラ。真莉を守って」
天音がポケットラを召喚すると、真莉を庇うように立ち塞がり飛んでくる矢を手で掴む。
ポケットラはグイングインと肩を回して矢を投げ返すが、ゴブリンはサッと身をコンテナの影に隠して退却する。
ポケットラはチッと舌打ちする。
そのうちに真莉は慌てて物陰に身を隠した。
「あ、危なかった」
「大丈夫ですか?」
「うん。サンキュー天音。助かったよ」
「けれど、敵は逃してしまいました」
下手に追いかければ、逆に狙撃されそうだった。
(これは思ったより進むのに手間がかかりそうですね)
「さぁー。始まりました。スペル・リンク・フェス! 各選手、ダンジョンの中に入り、派手なスペルカードの応酬が始まるかと思いきや、それ以前にモンスターの遠距離攻撃を前にほとんど進めません!」
「これが品川ダンジョンの難しさですね。遠距離攻撃をしてくるモンスターと障害物の多いダンジョン。迂闊に進めば突然現れたモンスターの的になってしまうので、敵襲を警戒しながらジリジリと進むしかないのです。加えて脱落システムがあります」
「脱落システム……ですか?」
「そうです。品川ダンジョンは深層に行くためにはダンジョン内に配置された転移魔法陣を利用する必要がありますが、この魔法陣は一度使うとしばらくの間、帰還の魔法陣に変わってしまうんですよね」
「へえ。そうなんですか」
「ええ。ですから、他のチームが転移魔法陣を踏む前に自分達が踏まなければ、ダンジョンから強制排除されていきます」
「なるほど。それで脱落システム、要はサバイバルレースになるということですね」
「そういうわけです。この火力がなければ進めない火力重視のシステムと他チームより先に魔法陣を踏まなければならないサバイバル要素。これが品川ダンジョンの特徴です」
「さあ、そんな難しい品川ダンジョンですが、比較的速い探索速度で進むチームが三つ。おぉーっと、これはいずれもデュームのチームだぁー」
「うむ。いいですね。デュームの如月班、草間班、そして大会直前に編成した水島班。いずれもがっちり6人で固まって、周囲を警戒しながら、着実に進んでいます。これならたとえ敵の襲撃に遭っても……、おっ、ちょうどきましたね」
「おお。草間彰人あっさりと弓矢のゴブリンを仕留めましたね」
画面には物陰から現れたゴブリンの射撃に対して、6人で迎撃して撃ち勝っている様子が映っていた。
「ええ。このように火力を集中していれば、遠距離攻撃に対してもきっちり対応できるのです。いいですよデュームの3チーム、これは好成績期待できるんじゃないですかね」
「一方で、C・エクスプローラーの3チームはというと……やや出足が遅い印象を受けます。田辺さん、この3チーム、どう思います?」
「ふー。その3チームについて話すのはもうやめましょう。スタート時の配置について解説した時から、彼らに対する私の見解は何一つ変わりません」
「さぁー。田辺さんはC・エクスプローラーの失格を予想。果たしてどうなるのでしょうか?」
真莉と天音は壁に隠れながら矢弾をやり過ごしていた。
先ほどから敵の弾幕が激し過ぎて身動きが取れない。
炎弾も放たれていて、弓矢だけでなく〈魔装銃〉を装備したモンスターも合流しているようだ。
(上手く火力を集中されてしまいましたね)
「真莉。あとどのくらいかかりそうですか?」
「あとちょっと。これをこうしてっと」
真莉はあらかじめ目星をつけておいたダンジョン内のアイテム、先ほど拾い集めてきた〈魔石〉を一箇所に集めて錬金槌で錬成する。
すると爆弾が完成した。
「これでよし! ポケットラさんやっちゃってください」
ポケットラはコクリと頷くと爆弾を受け取ってその剛腕で敵に向かって投げつける。
コンテナの積み重なったはるか向こう側で轟音が鳴り閃光が弾ける。
真莉と天音、ポケットラは耳を塞いでその場にうずくまった。
ズズンと何かが崩れる音の後、パラパラと破片が飛び散ったかと思うと、足元に流れ込む粉塵。
そしてモンスター達の鳴き声が響き渡り、弾幕は止んだ。




