第100話 突入時の注意
悟は品川ダンジョンに侵入する最後の準備をしながら、他の参加者も見回していた。
リトル・ガーディアンやカメレオンRPGといった前回のダンジョン・カップでのお馴染みのメンバーもいれば、知らないグループも結構いた。
渡された資料によると、今回の参加者は合計10グループ、20チーム。
1チーム六人までのルールなので、人数の多いグループは2チーム以上出している。
デュームは大会主催者として3チーム出している。
品川ダンジョンへ突入できる転移魔法陣はおよそ30。
大会参加者は競技が始まるまで転移魔法陣の周りをブラブラして交流していた。
悟も榛名達と一緒に何ともなしに競技が始まるのを待っていた。
すると、とあるグループが声をかけてくる。
「よう。悟!」
「要、秀仁」
由紀や大吉などもいる。
D・ライブユニットのメンバーもスペル・リンク・フェスに参加するのだ。
「D・ライブユニットもこの大会に参加していたのか」
「おう。今日は負けないぜ」
「〈スペルカード〉の準備は万端?」
「もちろん。見ろよ。ジャーン」
要が取り出したカードは確かに〈スペルカード〉だった。
ただし、攻撃付与の〈スペルカード〉だ。
「要、それアイテムの耐久付与じゃないよね」
「えっ? 〈スペルカード〉って他にもあんの?」
「えーっとね。今、話題になってる〈スペルカード〉っていうのは敵のアイテム破壊を防ぐもので……」
悟は一応〈スペルカード〉の種類と使い方について説明した。
「ま、なんか色々あるんだな」
「じゃあ、私達は準備があるから」
「う、うん」
「ディーライの奴ら相変わらずだったな」
榛名が呆れたように言った。
「どうせこんなことだろうと思いました」
天音が言った。
「大丈夫ですかね。また、炎上するんじゃ」
「まあ、今回はカボチャ頭の悪魔が出て、どこも苦戦するだろうからディーライだけ極端に被害を受けるってことはないと思うよ。逆に付け焼き刃で〈スペルカード〉を導入するより案外、いいとこまでいけるかも」
今回のスペル・リンク・フェスはダンジョン・カップ同様、転移魔法陣からランダムにダンジョンに突入するものだった。
「さあ、転移魔法陣の準備ができたようです。各選手ダンジョンに侵入するための配置についていきます」
リポーターが会場の人間へのアナウンスも込めて、実況した。
「田辺さん、このダンジョンへの突入について、ポイントを教えていただけますか?」
「ダンジョン突入の魔法陣選択については何も特筆すべきことはありません。どの魔法陣を選んでも各自ランダムに初期位置に召喚されるだけなので。問題はその後のルート選択とアイテム選択をどれだけ正確にできるかです」
「なるほど。では、スタート地点はそれほど重要ではなく、その後が大事だと?」
「そういうことですね。強いて言うなら、きっちり6人で同じ魔法陣から入ること、でしょうか」
「6人全員で? なぜ6人全員で入る必要があるんです? 今回のスペル・リンク・フェスはレース方式ですよね? メンバーのうち一人でも早くたどり着いたチームが優勝するという純粋に速さを競い合う競技。それならバラバラに入っても問題ないのでは?」
「おっしゃる通り、今回のスペル・リンク・フェスはザバイバルレース方式。単純にダンジョンの深層に辿り着いた順位を競い合うものです。一人でも辿り着いたチームが優勝します。しかし、スピードにばかり拘っていると足を掬われることになります。前述のように品川ダンジョンは火力重視のダンジョン。そのためにもどれだけの火力を集中させることができるかが鍵です。つまり人数をきっちり揃えることが重要なのです」
「なるほど。とにかく突入時はきっちり全員でダンジョンに入ること。それが大事ってことですね」
「そういうことですね」
「さあー。それではまず各チームきっちりダンジョンに入れるか。見ていきましょう。あれ? 6人で魔法陣に乗っていない人達がいますね」
「おや。本当ですね。あれは……C・エクスプローラーのメンバーでしょうか?」
悟達はそれぞれ2人ずつ3チームに分かれて魔法陣の上に立っていた。
「田辺さん、どういうことでしょう。この品川ダンジョンは6人全員できっちりダンジョンに突入するのが重要なのではなかったのですか?」
「ふー。やってしまいましたね。シーエク。これは前回のダンジョン・カップで味をしめたのでしょう」
「そういえば、前回のダンジョンカップでもシーエクは分散してダンジョンに入っていましたね」
「いわば間違った成功体験が生み出す失敗というところでしょうか。過去の成功体験に囚われると、それが逆に仇となって柔軟性を失ってしまうのです」
「つまり、シーエクは作戦失敗だと?」
「ええ。今回の大会、残念ながらシーエクに優勝の目はありませんね」
♦︎
「どういうつもりだ榛名」
彗が隣の魔法陣に立つ榛名に対して眉を顰めながら問いかける。
「このダンジョンはどれだけ火力を集中できるかが鍵だ。事前に資料は渡しておいたはずだろう? 勝負を捨てるつもりか?」
「まさか。むしろ必勝のための作戦だよ」
「何?」
「あんたらこそ大丈夫なの? カボチャ頭の悪魔の対策しなくってさ」
「ふん。そんな揺さぶりをかけても無駄だぞ。このダンジョンではカボチャ頭の悪魔が出現した報告はない」
「どうかな? いつも通りにいくとは限らないぜ」
榛名と美波は悟とのやり取りを思い出す。
♦︎
「分散する?」
「うん。カボチャ頭の悪魔が現れると、デュームは壊滅する。それに備えてダンジョンの突入時に身軽に動けるよう二人一組で入る。榛名と美波。真莉と天音。僕とこよみ。相性や慣れを考えてこの組み合わせでいこうと思う」
「でも、それだと火力が集中できなくてダンジョンの攻略に支障が出るのでは?」
「その時はその時でまたマッピングスキルで火力を高くするアイテムの場所を教えるよ」
「また、悟さんに負担がかかってしまいますね」
「無理しないでくださいね悟さん」
天音と真莉が心配そうに言った。
「はは。ありがとう。でも、大丈夫だよ。今回はこよみもいるしね」
「あ、えっと。がんばります」
こよみはテンション低めに言った。
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(悟の考えた作戦だ。信じて突き進むぜ)
「さぁー、いよいよ10秒前です」
リポーターの声が会場まで聞こえてくる。
「会場の皆さん、一緒にカウントダウンしましょう。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0! スペル・リンク・フェス、スタートです!」
魔法陣が煌めいたかと思うと、参加者達が吸い込まれていき、やがて魔法陣の上には誰もいなくなった。




