アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (3)
「何で、こいつらをゾンビにした?」
あたしは、奴に、そう訊いた。
「はあッ?」
どうやら……何も判ってねえようだ。
ほとんど会った事はねえが……あたしと奴は……似た力を持って生まれ……同じ師に育てられた。
あいつが、どんな人生を辿ってきたのかは良く知らねえ。
ただ、あたしとあいつの人生は……全く違ったモノになり……そして、今、敵同士になった。
「こいつら、関東難民だろ……あんたと同じ……」
「な……? 誰だ、お前? まさか……私の……」
「ああ、多分だが……同門だ。そして……あたしも関東難民だ」
「関東難民の私が、同じ関東難民をゾンビにしたとして……何の問題が有る?」
「あんたも力が無けりゃ……踏み付けにされる側だったかも……」
「馬鹿か? こいつらには力が無かった。私には力が有った。それが、私とこいつらの運命を分け……」
「ふざけんじゃねえッ‼」
あたしらと同じ関東難民らしい……レンジャー隊の副隊長兼パワー型は……飛び出そうとするが……相棒が、それを制止し……。
「やれやれ……悪党というのは、いつもこうだ。たまに頭がそこそこ回る奴も居るには居るが、人間としては中身が空っぽのつまらん連中ばかりだ。人間として薄っぺらい糞野郎が悪事をやるんじゃなくて、人間というのは、悪事をやってる内に、薄っぺらい糞野郎になってくらしいな」
「言ってくれるな……。だが、お前にこの事態を打開出来る方法でも有るのか?」
相棒の辛辣な評価に、奴は半笑い気味で応じた。
「おい、私が万が一、こんなダサくて薄っぺらな奴になったら……お前が私を元に戻してくれ」
相棒が私にそう言った。
「ああ、安心しろ。お前が、こんなクソ安っぽいサイコパスもどきになったら……殴ってでも元のガチのサイコ野郎に戻してやるよ。じゃ……そろそろ……」
あたしは、左手で、師匠の形見である脇差を改造したコンバットナイフを抜く。
『慈悲忿怒 譬如車輪』
『闕一輪時 不得人度』
『意荒時 三宝荒神』
『意寂時 本有如来』
刀身に刻まれた文字……あたしは師匠から……この言葉にあたしの本当の力を引き出すヒントが有ると言われた。
多分、奴も同じ事を言われたんだろう。
あたしは……この言葉の意味を……この局面で理解出来たらしい。
運命なのか……あたしの手柄なのか……それとも、あたしが、これまでの人生で巡り会ってきた連中の御蔭なのか……。
まるで、人間の運命を操ってる神様か何かが居て、あたしとあいつ……どっちかが「悪堕ち」ってヤツをやらかした時の抑止力だか何だかの為に、もう片方を用意してたみて〜だ。
だせえ言い方だが「もう1人のあたし」を止めなけりゃいけねえ時に……あたしの本当の力が目覚めたみて〜だ。
「来な……さっさと終らせようぜ……」
「面白い」
まず、奴は……金剛夜叉明王の印を結ぶ。
周囲に満ちる邪気が浄化され、奴の力として取り込まれる。
次に軍荼利明王の印。
奴の潜在能力が全解放される……。
元から……すげえ力の持ち主だったのが……更に、その力が底上げされ……。
そして……。
「ノウマク サンマンダ バザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カンマン」
「おい……マズくねえか?」
副店長の声……。
けど……。
「いや……」
相手を呪縛しつつダメージを与える倶利伽羅龍。
単体の相手にデカいダメージを与える金剛剣。
複数の相手に同時にダメージを与える広範囲攻撃の迦楼羅焔。
不動明王を本尊とする3つの呪法が同時に放たれ……。
「待ってた……この時をな……」
そして……。
攻撃が放たれると同時に……まず、あたしは、釈迦如来の印を組み、頭の中で釈迦如来を表わす梵字を思い浮かべる。続いて弥勒菩薩。次は千手観音。
あたしの守護尊である金剛蔵王権現についての伝説……。
釈迦・弥勒・千手観音の3体の仏や菩薩が1つになって生まれた怒りの神……。
同時に、悪魔すらも力づくで救おうとする慈悲の仏。
「ん?」
「何だ?」
「どうしたんだ、一体?」
あたしの3人の仲間は……キョトンとしている。
「ぐはッ?」
地面に倒れ伏したのは……奴だった。




