ニルリティ/高木 瀾(らん) (2)
「ねえ、あたしらとか、ドローンとか、一瞬で消えてなくならない? あれの情報処理パターンって、人間とは違うんでしょ?」
当然の指摘をしたのは「ミカエル」。「本業」は久留米高専の機械科の学生。機械制御関係の講義の一部として、当然ながらニューラルネットの基礎論を学んでる……筈だ……えっと、何年目に受講するかは良く知らないけど。
「そうなの?」
「そうだ。人間の脳や神経系を模してるとは言え……初期状態も学習データも人間とは違う。『人間のに似たモノになる』程度は言えても、人間の目ならごまかせるモノでごまかせるとは限らないし、逆に、人間の目ではごまかせないモノに騙される事も有り得る。現に人間だって、色覚の特性が平均より大きく外れていれば、迷彩模様で騙せない場合さえ有る」
私は「水神」の質問に、そう答えた。
「判った。少しも大丈夫じゃないって事ね」
「もっとも、あれの制御AIは、ここ一〇年更新されてない。機体そのものの制御プログラムや制御AIを『育てる』為のプログラムのソースコードは、富士の噴火で失なわれたんで、改良は困難だ。そして、今までの記録を分析する限りでは、人間向けの迷彩も、あいつの視覚センサや視覚系の情報処理も、かなりの程度で騙せる」
「じゃ、あたしらが、数少ない不幸な例外にならない事を願うしか無いね」
「AIって、もっと論理的なモノじゃなかったのか?」
「二〇世紀に書かれたSF小説と現実をゴッチャにするな。今、主流のAIは、人間の理性や合理性じゃなくて、言語化しにくい勘や経験則を再現したモノだ」
「そうなのか?」
阿呆な事を言ってる金翅鳥の本業は……福岡市に有る西南大学の大学生。文系だが、IT関係の共通科目で「可」より上の成績を取ってたなら……絶対に何かズルをしたに違いない。ネット上にいくらでも転がってるフリーのAIサービスにレポートを書かせる手は、その手のAIの文章の癖を見抜くAIまで有るんで、もっと原始的な手を使ったんだろう。同じ講義を1〜2年前に受けた先輩のレポートをビミョ〜に変えて出すとか。
私達は、今、いわゆる「都市迷彩」模様のシートで身を隠し、空を飛んでいるのは、これまた、いわゆる「海洋迷彩」「航空迷彩」模様のドローン。
しかし、沖を航行している船に乗ってる国防戦機の視覚センサと制御AIを騙せているかは……待て……。
「あ……あれ……船か?」
ここに居る4人が被ってるヘルメット内の網膜投影式モニタにドローンが撮影した映像が表示されている。それを見て、金翅鳥が私が感じたのと同じ疑問を口にした。
「船と言うより……艀だな」
「はしけ?」
「筑後川あたりで見た事無いか? 短距離用の簡易船だ。海なんかだと……沖に居る船と港の間の荷物の運搬なんかに使う」
デカい金属製の板が海に浮いたような外見。
乗組員は見当たらず……半自動航行か遠隔操作だろう。
「そんなモノが、熊本のどっかから大牟田まで来たの? あんなデカブツを積んで?」
「失なっても惜しくないような船……と言うか簡易船。人間の乗組員は居ない。積んでるのは、攻撃力はそこそこ以上で、まだ、使い道は有るとは言え……『裏』の中古市場では価格が絶賛暴落中で、攻略法が確立済みの一〇年以上前の型式の戦闘用パワーローダー」
「何かのパターンが見える気がするけど……何て言うか、最後のピースが……見付かんないみたいな……えっと……」
「私の推測が正しいなら……水神、あの艀の周囲に壁を作ってくれ。出来れば……3重か4重で、水の壁と氷の壁の複数種類の」
「何か、危険な事考えてるよね?」
「まあな」
ここに居るのは「神様系」が3人……通常の「魔法使い系」より人数が遥かに少ない「神様系」が何人も揃ってるのは……幸運なのか、不運なのか。
一般的な「魔法使い」より遥かに強力だが、強力過ぎて運用の幅が異様に狭い。
ゴ○ラに町中で一般人の護衛をやらせても巧く行くかを考えれば……強いのと使い勝手が良いのとは別問題だと判る筈だ。
「ミカエル。壁が出来たら、ありったけの熱で攻撃」
「他に言う事は?」
「衝撃に備えろ」
「ほら、やっぱりだ」
「でも、やってみるか」
相手からしても、何が起きてるか判らないだろう。
艀の周囲の海水が吹き上がり……筒状の水や氷の壁がいくつも出来る。
「こっちの準備は出来た。やって」
「了解」
そして次の瞬間……炎と衝撃波の柱が艀が有った場所に出現。
轟音はヘルメットのセンサが一時的にシャットダウンしてくれた御蔭で……何事も無かった。
そして……。
「すごい……」
「何が起きてるかは……敵には判んないが、こっちの意図は敵にも判っただろうな……」
爆風の大部分は、水や氷の壁と海面そのもののせいで、上の方に行くしか無かったようだ。
「どんだけの爆薬を積んでたんだ、あれ?」
「さて……」
4m級の……型落ち品のパワーローダーそのものを爆弾にしたらしい。
艀に乗っていた「国防戦機」の装甲を貫ける武器はいくらでも有るが……下手にそんなモノで下準備無しに攻撃したら、半径数百mか、場合によっては直径1㎞以上の範囲が焼け野原と化していた。
そして、仕掛けがバレたらバレたで……まだ、身長約4mの人型爆弾の使い道は有る。
脅しだ。遠隔操作で爆発させる事が出来るのなら……起爆スイッチを押すかどうかに拘わらず、駆け引きの駒としては有効だ。
「ねえ……何で、判ったんだよ? 向こうがあんな真似してるって?」
「久留米の警察署で戦った時から予想は付いてた……あいつは、人を小馬鹿にする時のセンスが、私に似てた」
「サイコ野郎ぶりは、お前と同じ。魔法系の能力は、お前の相棒の上位互換か……」




