アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (4)
寝る前に食事と風呂。
食堂と個室のどちらでも食事は出来るけど……今回は食堂を選んだ。
ショッピング・モールのフードコートを小さくしたような場所だが……電子機器は個室外に持ち出し禁止なんで電源が使える席は当然無い。
入院なんてのは、生まれて初めてだけど、想像してた通りの「病院の食事」。
食べ残した場合には、食べ残した理由なんかを簡潔に書いてくれ、と言われて用紙とボールペンを渡された。
用紙の方を見ると、飯・味噌汁・主菜・副菜・小鉢ごとに食べ残した場合の理由を書くようになっていた。
味は……うん、まあ、こんなモノか。
想像してたよりは上だけど、すげ〜美味い訳でもねえ。
「何で、いつも、こうなんすかねえ……」
ん?
近くの席から……聞き覚えが有る……二〇代ぐらいの女の声。
「いつもって?」
今度は、少し年上の……これまた、どっかで聞き覚えが有る、な〜んとなく気が弱そうな男の声。
「何で、いつも、あたしらばっかり生き残るんすかねえ……。あん時、死にぞこなった、この4人ばっかり……」
「前向きに考えよ〜よ……」
「何をっすか?」
「えっと……」
「隊長、『前向きに考えよ〜よ』とか言っときながら、何をどう前向きに考えんのか、何も考えてなかったでしょ……」
「ごめん……」
「ところで、殉職者の葬式ですけど……」
「支局長が行ってくれるそうです。俺達、同僚が死に過ぎて、感覚が麻痺してるから、恐くて葬式に行かせられないって……」
「あ〜……そう言や、先月もやっちゃったよ。平田と小川と上田の葬式でお悔やみ言った途端に遺族にすげ〜表情で睨まれた」
「えっ? 3人の葬式全部でですか?」
「うん、後で考えても、何で、遺族怒らせたのか、さっぱり判んない。3つともね……」
「あっ…っ、ちょっと待って下さい、どいつが平田で、どいつが小川で、どいつが上田でしたっけ?」
「あのさ……」
「でも、あいつら配属された翌週には3人そろって殉職したんで、名前がウロ覚えなんですよ……」
「いけね……俺、葬式のお悔やみで名前を言い間違えたかも」
「だから殉職者の遺族怒らせるんですよ」
「まぁ、それでも、遺族に殴り掛かられたり、塩撒かれたりする頻度は減って……ん?」
……ん?
この4人、まさか……。
4人の内、1人だけは女……。
その女が着てんのは……瀾が毎晩抱いて寝てるヌイグルミの恐竜の内の一匹「スーちゃん」がプリントされたスウェット……。
それも、地域限定発売だった久留米絣の丹前を着てるヤツ……。
おい、まさか……瀾の身内の警察関係者って……対異能力犯罪広域警察のレンジャー隊の奴かよ?
昨日と今日、現場で出会した……。
そして、その4人が、急に黙り込んで視線を向けた先には……。
おい、何であいつまでここに居る?