ニルリティ/高木 瀾(らん) (3)
『状況は概ね把握した。近隣の魔法使い系や心霊能力者系が多いチームに確保した奴を預かってもらえないか問い合わせ中だ』
後方支援チームから無線連絡が入る。
ホラー映画では、心霊現象が起きると携帯電話が通じなくなるってのが定番パターンだが、幸いにも現実には、そんな事は稀で、後方支援チームとの無線経由のやりとりは、通話でもその他のデータ通信でもやりたい放題だ。
『あと、緊急事態。下見て』
「何だ、ありゃ?」
「そっちのカメラの映像を、こっちのモニタに転送してくれ」
私は、「工房」からテストを頼まれた「新製品」を薬で眠らせた元凶らしいデブに打ち込みながら相棒にそう言った。
「すまん、そのやり方、まだ良く判んない」
「仕方ないな……」
相棒にやり方を教えるより、自分で見た方が早そうだ。
私は窓に向い……。
「こっちでは良く有る事か?」
「良く有ってたまるか……と言える時代が続く事を願うしか無いな」
機動隊に……対異能力犯罪広域警察のレンジャー隊が、ゾロゾロ。
私達が、ここまで乗って来たATVと三輪バイクが遠隔操作で、そこら中を走り回りながら……警官達を威嚇。
その様子を警察にコネが有る動画配信者達が撮影していた。
洒落にならん時代になってしまったようだ。
動画配信者の中でも一番駄目な奴らが警察が広報の下請をするようになったらしい。
「拡声器ON。状況を伝える。我々が到着した時点で確認出来た生存者は1名。今は眠っている。そちらで魔法災害・心霊災害に対する十分な対応が可能なら、その生存者を引き渡す。担架を持って、ここまで来い」
「いいのか? お前にしては普通だな」
「拡声器OFF。何だ、その不安そうな声色は?」
「サイコ野郎が普通の事やったら、逆に不安に決ってるだろ」
「ああ、そうだ。『工房』からテストを頼まれたマイクロ・マシン・タトゥーを生存者に施した。正常に動作してるか確認してくれ」
私は、後方支援チームに連絡。
『位置把握OK』
「じゃあ、マイクロ・マシン・タトゥーのGPS発信機機能が正常に動作してるかの確認を続けてくれ」
「おい、お前、人の心有んのか?」
「私達が生まれる前から、人間の定義なんて、どんどん曖昧になってんだぞ。そんな世の中での『人の心』って何だよ?」
「まぁ、そりゃそうか」
考えてみれば、私達は変な時代に生まれたのかもしれない。
普通の人間に無い能力や技能を持つ……下手したら人と呼んでいいかも判らない者達は社会に受け入れられつつあるのに、一〇年前の富士の噴火を逃れてきた……大半が普通の人間である俗に言う「関東難民」の排除を叫ぶ者達も、また存在する。
「ま、警察が阿呆な真似をした場合は……救える人間だけでも救う事にする。休めるのは数時間後になると思ってくれ」
「『救える人間だけでも救う』って、具体的には、どうする気だよ?」
「あの男を移送した先で、また、心霊災害が起きても……急な怪我で病院送りになった警官は、その心霊災害に巻き込まれずに済む筈だ」
「おめぇ、やっぱりサイコ野郎だ」
「自覚してる」