アータヴァカ/関口 陽(ひなた) (2)
「患者を識別する情報として、血液中に含まれるDNAと、指紋・掌紋と目の網膜の血管パターンを登録します。貴方の名前その他の他の個人情報は伺いませんが、これらの生体情報は記録させていただきます」
看護師さんから、そう説明を受ける。
「え……えっと何の為にですか?」
「もし、貴方が別の機会に当院か提携病院に入院された際に、今回の治療に関する記録を照合する為です」
「さっき、別のスタッフさんから『提携病院』とか言われたんですが……どこです?」
「日本・中国・台湾・香港・韓国・東南アジアに合わせて三〇近い本院と同じような魔法・心霊系の存在によるダメージを受けた方を治療する病院が有ります。それらの病院間では治療のノウハウや過去の入院患者の治療記録を共有しています」
「な……なるほど……」
ここと似たような「病院」が、東アジアと東南アジアだけで三〇以上か……。
魔法使いの世界ってのも、思ってたより遥かにバカデカいらしい。どこに、どんな達人が居るか知れたものじゃねえ。
「では、以後、ここでは名前の代りに、そのリストバンドの番号を使います」
リストバンドには、今日の日付と通し番号らしきモノと……あとバーコードが印刷されていた。
「通常の病院では、治療・検査の取り違えなどを防ぐ際の御本人確認などに御名前を訊きますが、当院ではスタッフが患者の個人情報を知る事は禁止されています」
「はぁ……」
「ですので、何か、ニックネームを御自分で決めて下さい。名前を訊かれた際は、そのニックネームを答えて下さい」
「わかりました」
「では、ニックネームは何にしますか?」
「え……えっと……『スーちゃん』で」
とっさに何故か思い浮かんだのが、瀾が毎晩抱いて寝てる恐竜のヌイグルミの内の一匹の名前だった。
「はい、わかり……あれ?」
「どうしました?」
「本日入院された別の患者さんが、そのニックネームを既に使ってます」
あっ?……ああ、あの恐竜ってたしか、十年ぐらい前の結構ヒットした子供向けアニメのキャラだから……まぁ、そんな事も有るか……。
「じゃあ、『ガジくん』で」
とりあえず、瀾愛用のヌイグルミの別のヤツの名前を答えた。




