第二話 とある冒険者の災難
今話のみ、主人公ティグルの独白と回想でお話が構成されております。
俺の名は白銀ティグル。
只今絶賛売り出し中のイケメン冒険家だ。
因みに、こう見えても歴とした竜種であり、最強竜と云われた神竜族の末裔でもあるんだぜ。
んっ? 突っ込み所が満載? どう見ても人間の子供だし、名前も変?
子供言うなッ!
本来ならば百歳を超えた頃から人間形態へ変化できる様になるのが一般的らしいが、俺って天才だから、七歳の時にはもう覚醒しちゃったって訳さ。
しかし、その副作用なのか、身長の伸びが悪くて困っているのも事実なんだ。
二十歳になったというのに百六十センチぎりぎりしかなく、おまけに愛くるしい童顔も相俟って、初対面の相手からは、必ずと言っていいほど〝お子ちゃま″扱いされる始末。
いい加減に辟易しているが、いちいち声を荒げるのも大人げないし、パパさんやママさんからも『他人には優しくしなさい』と言われているから、当分は我慢一択だと自分に言い聞かせているんだ。
名前については、全然おかしくはないぜ。
だって、パパさんとママさんは正真正銘の人間だからね。
パパさんが銀河連邦軍の軍人だったころに参加した〝密輸ギルド殲滅作戦″で保護した卵が孵化して生まれたのが俺なのさ。
それ以来、パートナーとして共に銀河系を転戦するという生活を送っていたんだけれど、パパさんとママさんが結婚したのを機に養子として迎えられたんだ。
だから、白銀ティグルなのさ。
どうだい? 納得してくれたかな?
そんな経緯もあり白銀家の一員として平和に暮らしていたんだが、義務教育課程を終えた十五歳の時に考えたんだ。
『一体全体、将来俺は何になりたいのだろう?』
パパさんと同じ軍人というのは規律が五月蠅そうで性に合わないし、ママさんのように政治家として頑張るというのは柄じゃない。
だいたいが、大雑把な俺には堅苦しい仕事など上手く務まるとも思えない。
散々悩んだ末に出した結論が、銀河史に名を遺す偉大な冒険家になる!! って事だった。
まあ、姉妹たちには大笑いされたが、パパさんとママさんは俺の想いを理解してくれたのか、『頑張れ』と背中を押してくれたんだ。
銀河系の隅々まで巡れば、俺の本当の両親の消息が知れるかもしれない……。
何時の日か、大好きなパパさんとママさんに本当の両親を引き合わせられたなら良いな……そんな夢を持てるのも、今が幸せだからだと思うのさ。
さて、前置きが長くなったが、此処からが本題だ。
今回探検の舞台に選んだのは、銀河系西部方面域の辺境にあるビスティス星系にある惑星エレンシアだ。
全面積の九割を海洋が占めており、一応大陸と呼べる陸地は極地を除けば北半球にしかなく、南半球には小さな島々と岩礁地帯が点在するのみ。
そして、その海洋を統べているのが、亜人種の中でも極めて珍しい存在だと言われている魚人族なのだ。
その呼び名から魚類の亜人を想像しがちだが、彼らの容姿は人間と何ら変わる事はなく、陸上でも海中でも生活できる万能種としても知られていた。
また、この世界で〝獣人″と呼ばれている者達が、一千五百年も前の銀河動乱期に人間の手によって生み出された存在であるのに対し、魚人族は竜種と同じ純然たる生命体の進化形だという事も証明されている。
予てから俺と同じ長命種だという魚人族に親近感はあったし、海中では下半身が尾びれになり、陸地へ上がれば人間と同様に二本の脚での歩行が可能になる特殊な生態にも興味を惹かれたというのも、この星を冒険の舞台に選んだ理由だった。
だから、先史文明の海底遺跡の調査も兼ねてエレンシアを訪れたのだが……。
~二日前~
「えぇ──っ!! そんな事を急に言われてもさぁ……俺だって、ほんの今しがた到着したばかりなんだぜ。然も大至急って、あっ、ちょっと! パパさんッ!? ちぇっ……切れちゃったぜ」
衛星軌道に浮かぶ宇宙港からシャトルで地上へ降りた早々、俺はパパさんからの緊急通信によって出鼻を挫かれてしまったんだ。
何でも、西部方面域と中心域の境界線上にある暗礁宙域で、複数の海賊ギルドが関与する密売組織の輸送船が検挙されたらしい。
GPO(銀河警察機構)の支援をパパさんが請け負っていた事もあり、輸送船とその護衛についていた海賊連中は無抵抗で投降したとの事。
まあ、それは当然だろう。
パパさんを敵に廻せば、どんな悲惨な末路が待っているかは悪党の方が良く分かっているだろうからね。
ただ、問題は別にあり、それは密輸船に積まれていたお宝の方だった。
高価な貴金属や美術品だけならまだしも、二十人もの魚人女性が拉致監禁されていたものだから、GPO上層部は上を下への大騒ぎになったらしい。
このエレンシアを生活圏にしている魚人族は正式に国家を形成している訳じゃなく、三つの大きな氏族を中心にし、数百にも上る部族が寄り集まって共同体を形成しているそうだ。
それ故に銀河連合評議会には加盟しておらず、人種や他の亜人種との間に明確な境界線を敷いて独自のコミュニティを形成しているとも聞いていた。
だから、真面な連絡手段すら構築されていない有り様で、ホットラインの出番となったらしい。
『ビスティス星系に属している他の国家がエレンシアの北部大陸に自治都市を設けているのだが、そこから魚人族の指導者に連絡を取ろうとしても梨の礫でね。済まないが、海底遺跡探索の前に魚人族の本拠地を訪ねてみてくれないか?』
『保護された魚人族の女性たちは、全員が薬物による精神障害を起こしていてね。自分の名前も素性も分からなくなっている有り様なんだ。治療には万全を期すが、家族や御身内の元へ帰す為にも身元の特定は必要だ。その辺りも探りを入れてくれたら助かるんだが』
……との事。
相変わらずの無茶振りだが、パパさんからの頼みならば仕方がない。
人間国家が管理している政庁府へ赴いた俺は、海底遺跡調査に必要な許可を得る為の手続きと、GPOからの依頼で魚人族へコンタクトを取る旨を申告したんだ。
しかし、警戒心が強く排他的な魚人族が簡単に拉致されたという事に些かの疑念を懐いた俺は、幾つかのシティーで情報を集めてから出発したのだが……。
「見渡す限りの海、海、海だなぁ~~目につくのは小さな岩礁だけかぁ~~」
小型の高速水上機をレンタルし、政庁府で教えられた魚人族が暮らす群島海域へ向かったのだが、こう変わり映えしない景色ばかりだと方角があっているか不安になってしまう。
「順調なら、もうそろそろ彼らの生活圏に入っている筈なんだがなぁ~~~」
そんな呑気な呟きを漏らした瞬間だった。
『ピイィィィ──ッ! ピイィィィ──ッ!』
突如として甲高い警告音がコックピットに鳴り響いたんだ。
(対空ミサイルッ!? 駄目だ間に合わないッ!)
低空を飛行していた事もあり回避する時間はない。
ヤバイと思ったのと同時に強い衝撃に見舞われた俺は、火球に包まれた機体諸共に海面へ墜ちていくしかなかったんだよな。
◇◆◇◆◇
令和5年 6月25日。
汐の音様(https://mypage.syosetu.com/1476257/)より、ティグルへ素敵FAを頂戴いたしました。
『俺、やっぱカッコいいよな! こんなにハンサムに描いて貰えるなら、汐の音様の所の子供になりなかったな!』
コラコラ! ふざけた事言ってると本編での出番減らすぞ?
と、まぁ何時もの具合ですが、これからもティグルを可愛がってやって下さい。
汐の音様、本当にありがとうございました!!