飛鳥弥生・ちょこぱい共同企画 #1000文字掌編募集・第六弾 今回のお題は「ちょこぱい先輩提供のイラストを着想に掌編を書く」
ー3番線、間もなく列車が発車しますー
無情に告げる列車の発車アナウンス。
別れ際、彼女は車窓越しに涙を浮かべる。
ほんの一時間くらいだったか、あっと言う間もなく過ぎ去った時間。
どこまでも響き、染み渡り突き刺さる歌声にぼくは心臓を鷲掴みにされた。
イヤ、歌声だけじゃなくて彼女の表情や振る舞い。
そんな彼女にぼくの衝動は抑え切れず、気が付けば彼女の華奢の身体を抱きしめ頭をポンポンしていた。
手術の成否によって命が失われる恐れ、もしくは声が失われる恐れに怯えていたのだ。
彼女は抵抗することなくぼくを受け入れた。
「大丈夫……。 ぼくは君の歌声を忘れないし、例えダミ声になっても君の魅力は失われないよ。 君の想いはもう充分すぎるほど届いたから」
それだけ言って、ぼくは彼女の小さな唇を見つめ、キスをした。
(君が好きだ
! 愛してる)
そんな想いを込めて残り僅かな時間、ただそれだけ。
「ねぇ! また会えるよね?」
「もちろん!」
「今度合う時は……。」
それだけ言って彼女は満面の笑顔を浮かべて踵を返し、列車に乗り込む。
彼女は明日、手術を受ける。喉の手術だ。
声帯にできた悪性の腫瘍を取る手術。
声を笑顔失う前に歌声(聴いて欲しいと、僕に会いに来たのだ。
窓ガラス一枚を隔て大粒の涙を溢す。
その涙は明日の手術の恐怖から来るものか? それとも、僕との出逢いによるものかはわからない。
だけど…………。
大丈夫、ぼくははじめて出逢った時から君に夢中。 歌声だけじゃなくて、考え方や周囲わ気遣う心に僕は感銘を受け、何度か会って話す中で、コロコロと変わる表情に虜にされてしまったんだから。