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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
最終章 夫婦と、家族

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11 情けないところも含めて、この人なので


 私の夫、ジークベルトはわりと甘えん坊だ。

 18歳のときの彼は、「好きな子の前ではかっこいい男でいたい」なんて言っていたけど、23歳となった今では、情けない姿もよく見せてくる。

 それが嫌かと聞かれると、そんなことはなく。

 しょんぼりする姿も、甘やかすと喜ぶところも可愛いと思える。

 彼に尻尾がついていたら、よく動きそうだ。

 頼れる夫なところもたくさんあって、かっこいいなあと感じる。

 ……二人きりのときは下心を見せてきたりもするけど、それもご愛嬌だ。


 そんな彼が、珍しく風邪を引いた。

 体調を崩して弱気になっているのに人のことを気遣うのだから、本当に、こう、なんというか……。やっぱり好きだなあ、と思ってしまう。


 ジークベルトと部屋を分けた翌日、夫はどうしているかと使用人に聞いてみれば、


「旦那様でしたら、薬草ジュースを元気に一気飲みなさっていたそうですよ」


 と返された。


「薬草ジュース……?」

「はい。作った医師は『かなり不味いだろうが、これを飲めば風邪なんて吹っ飛ぶ。ジークベルト様には、早く元気になってもらいたい』と話しておりました」

「そ、そうですか……」


 作った本人がかなり不味いと言うものを、一気飲み……。あの人ならやりそうだ。

 いらないとか、こんなもの飲めないとか。そんなこと、彼は言わない。

 自分のために用意されたものなら、不味くても飲むと思う。ジークベルトはそういう人だ。

 彼が元気になったら、頑張ったねと褒めよう。

 本当は今すぐにでもそうしたいけど、会いに行ってしまったら、部屋を分けた意味がない。

 今の私に風邪をうつしてしまったら、ジークベルトが本気で泣きそうだ。

 どうしようかなと少し考えて、思いつく。

 ……手紙なら、顔を合わせなくても話ができるんじゃないか、って。


 思いついたら即実行。すぐに手紙を書き始めた。

 彼が喜んでくれると確信できたから、迷いはなかった。

 体調はどうかと聞いて、家族を気遣ってくれてありがとうと書いて。薬草ジュースを飲み切ったことに関しては、頑張ったねと褒める。

 それから、こちらは変わりないことも報告した。

 書き上がったそれを封筒に入れ、使用人に託す。


「主人に渡していただけますか? 会って話しができないなら、せめて手紙だけでも、と……」

「まあ……! すぐにお届けします。奥様の愛、旦那様にしっかりとお届けして参ります!」


 手紙を受け取った使用人は、早歩きで部屋を出て行った。

 あの勢いだと、今頃廊下を駆けていそうだ。

 奥様の愛……。そういう見方も間違いじゃないんだろうけど、なんだか恥ずかしい。


 すぐに喜びいっぱいの返事が来て、こちらもまた書いて……。

 それが延々と続いてしまい、これでは彼が休めないと気が付いて、「もう十分だからそろそろ休んでください。今日はこれで終わりにします」とだけ書いた手紙を渡し、その日のやりとりを終了させた。




 文通を始めて何日か経った頃、廊下でジークベルトに遭遇した。

 会えて嬉しい。嬉しい、けど……私に何かあったら、悲しむのはこの人だ。

 家族を大切に思うから、一人で過ごすことを選んだ、私の夫。

 部屋を分けるかと使用人に提案されたとき、彼はとても悲しそうな顔をしていた。

 それでも家族を優先してくれた、優しい甘えん坊。

 この人を悲しませるようなことは、したくない。

 そう思い、足早にその場を立ち去った。


 その日のうちに、ジークベルトは再び医師の診察を受けた。

 もう大丈夫だと言われたとかで、本人がそれを報告しにやってくる。

 この数日間、私が使っていた部屋にて。

 人払いを済ませたジークベルトが、私にべったりとくっつきながら言う。


「もう大丈夫だから……。ささっと離れなくて大丈夫だから……。君のそういうところも好きだけど……。うん……。僕のためでもあるのは、わかってたんだけど……。君は何も悪くないけど、寂しかった……」

「えっと……。元気出して……?」


 そっと頭を撫でてみると、彼は黙って私の手を受け入れた。

 そうしながら、この人は、パパになったらどうなるんだろう、なんて考えてみる。

 こういう情けない部分を、今より隠すようになるのかな。

 その時までわからないけれど、シュナイフォード家を任されようと、父親になろうと、可愛いところもあるんだってことは、忘れないようにしたい。


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