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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
最終章 夫婦と、家族

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7 孤独な王子は、そこにはいない


 前世も今も、私は本が好きだ。

 知識をつけるのも楽しいし、恋愛や冒険のお話も読むのも好き。

 まとまった時間が取れた今日は、新作の小説を読んで過ごしていた。

 ざくっというと、孤独な王子様が、ヒロインに心の隙間を埋められて恋に落ちるお話だ。


 人を惹きつける見た目。大体のことは簡単にこなせてしまう器用さ。王子という立場。

 物語の中の王子様は、最初からたくさんのものを持っていた。

 そんな彼に近づきたい人はいくらでもいたし、うちの娘を妻にと、幼い頃から多くの女性を紹介されていた。


 なんでも持っているように見える王子様。みんなの憧れの王子様。

 そんな人でも寂しい時はあるし、弱音を吐きたい気持ちにもなる。怒りや悲しみだって感じる。

 けど、彼の輝きは、ただの人間にすぎない部分を覆い隠してしまう。

 周りの人たちも、血の繋がった家族も、彼が一人の人間であることを忘れ、完璧な王子であることを求めた。

 たくさんの人に勝手に期待され、理想から外れることをすれば幻滅され。

 誰も、本当の彼を見ようとしなかった。

 なんでも持っているが故に、王子様は孤独だった。


 ある日、彼は物語の主人公に出会い、強いところも弱いところも彼女に包み込まれ、癒されていく。

 やがて二人は、共に生きようと誓い合う。

 主人公は、少し特別なところがあるけれど、平民だった。

 そんな彼女と結婚するため、王子様は初めて自分のわがままを通そうとした。

 一人の人を思う姿を見た人々は、彼も人間なのだと気がつく。

 二人の仲が認められる頃には色々なことが変わり、祝福を受けながら、彼らは幸せなキスをする。


 内容は、大体こんな感じだ。

 こういった王子や貴族と平民の恋愛物語は、何度も読んだことがある。

 そして、読むたびに思うのだ。

 見た目がよくて、器用な王子……。自分の夫も、そんな感じだな……と。

 天才とまではいかないものの、大体のことは人並み以上にできる。

 努力をすれば更に伸び、人に認められる。

 見た目に関しても、子供の頃は美少女のように愛らしく、今は優しげな顔のいい男。

 スタイルもいいし、脱いでも……その……意外と逞しい。

 順位は低いけど王位継承権もあり、王子として扱われることもある。


 ジークベルトも、物語の中の王子様のように、孤独を感じたことがあるのだろうか。

 実在する人に対してちょっと失礼かもしれないけれど、正直、気になる。

 あなたは孤独な王子だったことがありますか、と本人に聞くのもどうなんだろうと我慢していたけれど、やっぱり気になる。

 我慢は身体によくないし、絶対に触れてはいけない部分でもないだろうから、思い切って聞いてみよう。


 その日、ジークベルトは夕方に帰宅した。

 夕食を終え、夫婦の部屋で二人きりになったとき、「孤独を感じたことはあるか」と質問を投げかける。

 彼の返事は、


「え? 孤独……? 急にどうしたんだい?」


 だった。困惑しているように見える。

 確かに、唐突にそんなことを聞かれても困るだろう。

 私はこの質問をするに至った経緯を話し、あなたはどうなのかと思って、ともう一度聞いてみる。

 彼はちょっと考えてから、


「特にないかな……?」


 と答えた。


「そうなんだ……?」

「うーん、全く心当たりがないわけじゃないけど……。理解されない、理想を押し付けられていると感じてつらくなることは、あまりなかったね。僕の立場を考えれば、少ない方だと思うよ」

「そっか……」


 よく考えてみれば、この人は家族に大切にされている。

 二人のお姉さんは可愛い可愛いと弟を溺愛していたし、彼のお父さんだって、息子からの返事がなくても絵葉書を送り続けるような人だ。

 お義母さんだって、息子に愛情を持って接している。

 私たちの婚約だって、ジークベルトの気持ちを知っていて取り付けたようだし。

 更に言えば、彼は甥っ子姪っ子にも懐かれている。

 学園でも呼び捨てにされるぐらいには馴染んでいたようだし、誰にも理解してもらえない孤独な王子感はあまりない。


「ご期待に添えなかったかな?」

「んー……。思ってたのとはちょっと違ったけど、あなたに素敵な家族や友達がいるのは嬉しいから……。安心したかも……?」


 そうかそうか、この人は孤独じゃなかったのかと納得し、すっきりした私は一人ベッドに横たわった。

 二人で使っても狭さなんて全く感じないサイズのそれ。占領してころころするのは、なかなか楽しかったりする。

 前世の庶民感が抜けきらないのだ。


 物語の中の王子様と、今そばにいるジークベルトは、だいぶ違うようだ。

 悲しみを背負った王子様感への期待も、ちょっとだけ……ちょっとだけあったけれど。


「本人がつらくないなら、それが1番……」



***



 部屋に置かれていた本を手に取り、軽く目を通す。

 おそらく、これがアイナが読んだ小説なんだろう。

 孤独な王子……ね。そういう人もいると思う。


 本からベッドへ視線を移す。

 いつも二人で使っているそれに転がるのは、幼い頃から想い続け、最近になってようやく結婚できた妻。

 彼女は、妙に楽しそうにころころしている。

 眺めているうちにいたずらしたくなってきたから、自分の気持ちに従うことにした。

 僕もベッドに乗り上げ、面積の半分をアイナから奪い取る。

 転がる場所がなくなると不満が出るかと思っていたのに、彼女は「ジークも来たんだ」と笑った。


 家族に大切にされて育ち、親しい友人もできた。

 そして僕には、こうやって同じ時を過ごしてくれる妻がいる。

 本人が辛くないならそれが1番、なんて呟いているのもしっかり聞こえた。


「アイナ」

「んー……?」


 アイナの頭に触れ、すり、と優しく撫でてみる。彼女は、気持ちよさそうに受け入れてくれた。


「ずっとそばにいてくれるんだよね」

「うん。ずっといるよ」


 なんでもないことのように、彼女は答えた。

 こうやって即答してくれる君がいる限り、孤独なんて、訪れそうにない。


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