表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
夏季休暇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/118

9 かっこいい人を見つけたけど、奥さんがいるらしい

今度はモブ女性視点です

 「ねえ、あの人かっこよくない?」


 とある休日のことだった。

 地元の友人と女二人で街を歩いていると、興奮した様子で腕を引かれる。

 同じ方向を見れば、彼女が盛り上がる理由はすぐにわかった。

 ドリンクを売る店の前に、一人の男性がいた。

 黒いパンツに、グレーの半袖シャツという、とてもシンプルな格好。だからこそよくわかる。ものすごくスタイルがいいって。


「足なっが……」

「ね!?」


 すらりとした体型に、長い足。細身な印象を受けるけど、よく見ると意外と逞しい。

 腕はほどよく筋肉質で、女性のそれより明らかに太い。胸板だってしっかりしている。

 茶色い髪は短く整えられており、さらさらとしていて、触ったら気持ちよさそうだ。

 横顔も綺麗。

 サングラスをかけているから、瞳は見えない。でも、私の……いや、私たちの勘が言っている。ぜっったいに、目も素敵なはずだって。


「スタイルいい……」

「絶対いい男……」

「飲み物選んでるのかな」

「なに買うんだろう。やっぱり、コーヒーとか?」


 さほど距離もないのに、いい男を前にして盛り上がってしまった。

 二人揃って熱い視線を注ぎながら、コーヒーならブラックかな、なんて話していると、男性がこちらを向いた。

 ひらひらと手を振られたものだから、たまらず黄色い声をあげてしまう。

 男性はすぐに店の方へ向き直してしまったけど……。もしかして、好感触だったりする?


「こ、声かけてみる!?」

「お願いしたらサングラス外してくれるかな!?」

「気になる気になる!」

「もう行っちゃおうよ!」

「行っちゃう!?」

「行こう!」


 テンション高めの会議を終え、早歩きで男性に近づいた。

 若干声を高めにして、後ろから声をかける。


「あ、あのー……」


 私の声に気がつき、男性が振り向く。

 彼の右手には、グラスが握られていた。

 中にはピンク色の液体が入っている。これは多分……。


「いちごミルク……?」

「えっ……」


 コーヒー、それもブラックを予想していたところに、まさかのいちごミルク。

 サングラスをかけたかっこいい長身男性が、いちごミルク。

 このギャップがとても魅力的に思えた。是非ともお近づきになりたい。


「あ、あの! よかったら、少しお話を……!」


 勢いに任せてそう言ったところで、店員が男性に声をかけた。

 男性は、「失礼」と言ってから店の方を向き、もう一度、私たちを見てくれた。

 そのときには、彼の両手はグラスで埋まっていた。

 左手で持っているグラスの中身も、ピンク色。

 つまり、2つともいちごミルク。

 女性が好みそうな甘い飲み物を2つ、お揃いで。

 よく見れば、左手の薬指には指輪。

 絶対にイケメンだと教えてきた私たちの勘は、こうも言っている。この人、既婚者だ……と。

 予感が的中したことを、すぐに知ることになる。


「申し訳ありませんが、妻を待たせていますので」


 柔らかな口調。優しげな声。でも、私たちの「お誘い」ははっきりと断られた。

 やっぱり既婚者だった……!

 この人をこれ以上引き留めるのは無理だろう。

 逆ナンに失敗したようなものなのに、嫌な気持ちにはならない。

 なんだろう、この……。声を聞かせてもらえただけで、少しでもこちらを見てくれただけでも嬉しい……みたいな感じ……。


「では、失礼します」


 サングラスのせいで見えないけど、男性が目を細めてくれた気がした。口元は弧を描いている。


「は、はいっ……!」


 至近距離でそんなものを浴びたら、こう返すだけでいっぱいいっぱいだ。

 これでサングラスなしだったら、言葉すら出なかったかもしれない。

 男性は私たちの横を通り過ぎ、早歩きで進んでいく。奥さんのところに向かうのだろう。




 残された私たちは、余韻に浸りながらも静かに興奮していた。


「いちごミルク頼もうかな……」

「私も……」

「あの人と同じものを飲みたいよね」

「わかる……」


 少し話せただけで嬉しい。同じものを飲みたい。

 そんな風に思わせる魅力のある人だった。

 彼の名前なんて、一生知らずに終わるのだろう。



***



「アイナ、やっぱり離れないようにしようか」

「へ?」

「せっかくの休暇だからね。なるべく一緒に過ごしたいんだ」

「ん……。私も」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ