表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
夏季休暇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/118

7 気が早いのはわかっているけれど

 

「んー……。どっちにしよう……」


 サンドイッチ屋さんのメニュー前で、私は頭を悩ませていた。


 迷い犬レオくんの件も落ち着き、私たちは観光を楽しんでいた。

 お昼の時間が近づいてきて、今日は外で昼食を済ませることになり……わくわくしながらやってきたのが、この店だ。

 数年前に見つけて以来私のお気に入りで、この地に訪れたら一度は来るようにしている。

 カウンターで注文し、店内で食べるか持ち帰るかを選ぶタイプの店で、分類としてはいわゆるファストフード。

 日本の庶民としての感覚も残っている私からすると、高級店より落ち着くような気がしている。

 ラティウス家やシュナイフォード家。地元で行きつけのレストラン。

 そういったところで食べるご飯も、もちろん美味しい。

 でも、こういう店も好きなのだ。


「生ハム……。エビ……」


 ジークベルトに希望を聞かれ、迷わずこの店を選んだ。

 店の前まで来た私は、生ハムを使ったサンドイッチにするか、それともエビメインのものにするかで悩んでいた。

 ここのサンドイッチは、コッペパンのような形のパンに具材が挟んであり、野菜もたっぷり入っていて美味しい。

 普通の観光客として食事をとる機会は少ないうえに、ここは個人経営店だから、他の場所にはない。

 悔いのないよう、なにを食べるかしっかり吟味したいところだ。

 看板と睨めっこする私を見て、ジークベルトが笑う。


「両方頼んでもいいんじゃないかな?」

「2つは食べきれないだろうし……」

「残ったら僕が食べるよ。僕は1個じゃ足りないから、2つ頼もうと思ってたんだ」

「じゃあ、両方いこうかな……?」

「うん、そうするといいよ」


 彼にだって、自分の希望ぐらいあるはずだ。

 あの店に行きたいとか。生ハムやエビより、お肉たっぷりのものが食べたいとか。

 なのに店選びもメニュー決めも譲ってくれた彼の優しさへの感謝と、今食べたいものを両方味わえる喜びとで、自分の顔がぱっと明るくなるのを感じる。


「ジーク、ありがとう」

「……その顔が見られれば、僕は十分」

「え、そんないい顔してた……?」

「してた」

「そ、そう……。……ジークは、自分の分なににするか決めた?」


 そんなに喜んでいるように見えたんだろうか。ちょっと恥ずかしい。頬に熱が集まるのを感じながら、メニューへ視線を戻した。

 僕はこれかな、と彼が指差したのは、しっかりお肉が入っていそうなもの。この店のメニューの中では、ジャンクフードっぽさが強めだ。

 自分で連れてきておいてなんだけど、この人もこういうものを食べるんだなあとしみじみしてしまった。

 学生のとき、自分たちで雑に夜食を作っていたらしいから、おそらくその頃の影響と……庶民感覚の抜けない私のせいだろう。


 ジークベルトとは幼い頃から一緒だったし、本人も自分の立場をひけらかしたりしない。

 だからプライベートで意識する場面は少ないけれど、この人は王族なわけで。

 そんな人に屋台の串焼きを食べさせたこともある私って……となんともいえない気持ちになってくる。

 ちなみに、私の方が食べるのが上手かった。経験値の差だ。


「……ジークって、学生のときは『ジークベルト』って呼ばれてたんだっけ」

「そうだよ」

「夜食を作ってくれって、たかられたりもしたんだっけ」

「そうだけど……。突然どうしたんたい」

「本人がそういう感じを望むタイプだってことで……」

「えーと……」


 なんの話かなと疑問を投げかける彼を無視し、一人うんうんと頷いた。

 本人が気さくなタイプなんだから、ごく普通の夫婦のように食事をとるぐらいなんの問題もない。親しみやすいと国民に評判だったりもする。

 この人を庶民っぽくしてしまったなんて、今更気にしなくていいや。


「メニューも決まったし、注文しちゃおうっか」


 これでいいんだと自分の中で話を終わらせ、ジークベルトの手を取ってカウンターへ向かう。

 彼は何がなんだかわからないようだったけど、追及せずについてきてくれた。




 3つのサンドイッチに、ドリンクとポテトを2つずつ。

 それらを乗せたトレーを持って席に着き、食事を始めた。

 3分の1ほど食べた生ハムのサンドイッチを一度置き、エビの方に手を出した。ああ、どちらも美味しい。

 両方食べさせてくれた彼に感謝しながら、目線を落とす。トレーに置いたはずの生ハムサンドが、姿を消していた。


「あっ……」

「えっ……」


 私に続いて、ジークベルトからもぽかんとした声が。

 彼の手元へと視線をうつす。まだ食べるつもりで残しておいた生ハムサンドは、夫に完食されかけていた。

 色々察したのか、彼は気まずそうに視線を泳がせる。

 

「あ、あー……。買い直そうか?」

「んー……」


 生ハムサンドをもう1個。それも魅力的だ。なんなら、違うサンドイッチを注文したっていい。

 少し考えて、いいことを思いついた。


「今日はもういいから、来年も2つ選ばせてくれる?」

「3つでもいいよ」

「じゃあ、次は全部私セレクトで」

「肉系のものもあると嬉しいな」

「そこは来年の私次第」


 そんなことを言いつつ、来年の私は、彼が好きそうなものも選ぶのだろう。

 この店に来たとき、私が喜ぶ顔を見ることができればいいと、彼は言った。

 それは私も同じなのだ。私だって、この人の嬉しそうな顔が見たい。


「来年も楽しみ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ