3 ハプニングも、起こったといえば起こったけど
「えいっ!」
手を振り上げ、勢いよく下におろす。
そうして動かされた私の腕がなにかに触れることはなく。ただただ空を切った。
ビーチボールが自分の頭に落ちてくる。ビニール製の軽いボールだから、痛くはない。
「……」
今度は、下からボールを打ち上げようと試みる。手に当たったけれど、明後日の方向に飛んだ。
こんなことの繰り返しで、なんだか申し訳なくなってきた。
ジークベルトはいそいそとボールを回収している。
「……ジーク、私とやってて楽しい?」
「楽しいよ」
言葉の通り、彼はとても上機嫌に見える。嘘を言っているとは思えない。
ジークベルトとは対照的に、私はしょんぼりしていた。
何をやっているのかって、ビーチバレー……のはず……なんだけど、私が下手すぎて、なにをしているのかわからない状態になっている。
運動神経のいいジークベルトが相手でも、ラリーなんて続かない。
こんなことじゃ、彼は物足りないのではと思う。
今度は、彼の方からかなりふんわりとしたサーブが飛んでくる。
私の目の前に落ちてくるよう調整されており、う、上手い……と自分との差に頭を抱えたくなった。
そんなボールですら上手く返すことができず、ジークベルトを走らせてしまう。
もう何度目かもわからないぐらいにボールが砂浜に落ちた頃、もう一度聞いてみる。
「ほ、ほんとに楽しい……?」
「楽しいよ?」
「でも、私、下手だし……」
「……確かに上手くはないけど、君に振り回されるのは楽しい」
「へ、へえ……?」
「でも、君が気になるなら違うことをしようか。他にしたいことは?」
他にやりたいこと……。
少し考えて、思いついたことを口にする。
「砂遊びとか……。貝殻を拾うとか……?」
***
「アイナ……。これは?」
「えっと……。埋めてる……」
「思ってたのとちょっと違ったかなあ」
ビーチボールの次は砂遊び。私は夫を埋めていた。ついでに貝殻もいくつか乗せてみた。
といっても、横になった彼に砂をかけているだけだから、その気になればいつでも抜け出せる。
ジークベルトの身体を砂で覆いきると、謎の達成感に包まれた。
彼は身長があるため、全身を埋めるとなると結構な重労働なのだ。
「そろそろ動いても?」
「……どうぞ」
「ちょっと不満気だね……」
苦笑する彼が身体を起こせば、無残にも砂が落ちていく。
頑張って埋めたのに、崩れるときは一瞬。ちょっと残念だ。埋めっぱなしにはしておけないから、仕方ないけれど。
立ち上がったジークベルトが、ぱたぱたを身体をはたいて砂を落とそうとするものの、なかなか落とし切れない。
海で流すと言うから、私もついていった。
砂まみれになったシャツを海水に浸し、砂を流す。
夏の日差しの下で上半身を晒す夫を見ていると、なんだかドキドキしてくる。身長が高いせいか細身に見えるけど、この人は意外と逞しい身体をしているのだ。
ぽーっとしていたら、不意打ちで水をかけられた。かっこいい旦那様に見惚れていたのになんてことを。
こちらからもぱしゃぱしゃと水をかけ、反撃する。
そこから海水の掛け合いに発展。じゃれあいが始まり……。
「あれ? ジーク、服は……?」
「あ……」
気がつけば、ジークベルトのシャツはどこかに流されていた。
沖を見つめる彼は、どこか遠い目をしている。
「……流されるとしたら、君の水着だと思ってたよ。まさか僕の方だとはね……」
「えっと……。元気出して……?」
「うん……」
もちろん替えはあるし、シャツ1枚流された程度じゃあ懐も痛まない。
なのにがっくりと気を落としている姿が、なんだか可愛くて。
よしよしと頭を撫でてみると、ぎゅうと抱きしめられた。




