1 思い出の場所へ
「そろそろ行こうか」
「うん!」
私は、この日を待ちに待っていた。今日から、ジークベルトが1週間ほどの休暇に入るのだ。
長期の休暇が取れるのは、年に数回。二人で旅行したりもできる、貴重な時間だ。
彼と一緒にいられるのが嬉しくて、にこにこと上機嫌に馬車に乗り込む。
もちろん、席はジークベルトの隣だ。彼もこの時間を大事に思っていてくれたようで、私に優しい瞳を向けてくれる。
「久々の別荘、楽しみだな……」
「1年ぶりかな?」
「うん。それくらいだと思う」
今回は、18歳になる頃に行った海辺の別荘で過ごす予定だった。
二人きりのお泊まりに、彼からのプロポーズ。
一緒に買い物に行ったり、バーベキューをしたりもした。
婚約指輪をもらったのだってあそこ。
色々な初めてや思い出が、あの別荘に詰まっている。
ジークベルトと私にとってとても大事な場所で、年に一度は行くようにしている。
私たちがしっかり座ったことを確認し、馬車はゆっくりと動き出した。
「早く着かないかなあ」
「君は本当にあの別荘が好きだね」
「うん。あそこには、色んな大好きが詰まってるから。それに、私たちの顔もあまり知られてなくて動きやすいし」
立場上、私たちの顔と名前は、通常よりも世の人に知られている。地元であれば尚更だ。
一人ならまだしも、二人揃って歩けば、シュナイフォード家の夫婦だとすぐにバレてしまう。
でも、別荘のある土地は私たちの住む町から少し離れているから、観光客に紛れ込みやすい。
「僕は一応、簡単に変装するけどね」
「うっ……ふふっ……。あの似合わないサングラス、またかけるの?」
「アイナ……。似合わないは余計だよ」
「だって……ぜんぜん、にあわな……ふふっ……」
「……君が楽しそうで何より」
私とは対照的に、彼はちょっとむすっとしている。
笑いながら謝る私を尻目に、ジークベルトがサングラスをかけるものだから、あまりのことに崩れ落ちてしまった。
この人、私を笑わせにきてる。お腹が痛い。力が入らない。
「もっ……ジーク、やめ……ふふっ……」
「……そんなに似合わないかな」
「うっ……くっ……も、くるし……」
「何がそんなに面白いのか、よくわからないけど……。君が笑ってくれるなら、もうそれでいいよ」
彼はどこか諦めた様子だった。レンズに隠されてしまい、表情はいまいちわからないけれど。
ジークベルトの方が知名度が高いため、旅行先では、一応、簡単に顔を隠すようにしている。
サングラスをかけただけだから、他の人が見ても特に面白くはないと思う。
でも、普段の彼を知っている私からすると、あまりにも雰囲気に合わなくて……。我慢しきれずに吹き出してしまう。
ジークベルトがサングラスを外し、普段の姿に戻る。
うん、やっぱりこっちの方が自然だ。
少し落ち着いた私は、呼吸を乱しながらもこれからの時間に思いをはせた。
「ジーク」
「うん?」
「今回も、二人で買い物に行こうね」
「……買いすぎないようにね?」
「……善処します」
お話をしたり、彼の肩を借りて寝てみたり。
そんなことをしているうちに、思い出の地に到着した。




