12 眠る夫と格闘する話
「おやすみ、アイナ」
「おやすみなさい、ジーク」
そう言葉を交わして目を閉じてから、どのくらい経っただろう。
私は特別寝つきの悪いタイプでもない。だから、さほど時間は経っていないだろう。
状態としては、ちょっと微睡んできたぐらいだ。
私はそんな感じなのだけど、同じベッドに入るジークベルトは、既に穏やかな寝息を立てていた。
夫の寝顔が見たくなって、横向きになり彼を観察する。
長い睫毛。安心しきって眠る、無防備な姿。口もちょっと開いてて、間抜けな感じだ。
「……可愛い」
可愛いよりもかっこいいの方が嬉しいらしいけど、本人が寝ている今、そんなことは関係ない。
あんまりにも可愛く思えたから、彼を起こさないよう気をつけながら、軽くほっぺたをつんつんしてみる。
ぷにぷにしてて気持ちいい。
「ふふっ……。ん……?」
そんなことをしていると、ジークベルトがもぞもぞと動き出す。
手を動かし、なにかを探しているような感じだ。起こしてしまったのだろうか。
声をかけることも考えたけど、寝ているかもしれないからやめた。
そのうち、彼の手が私の身体に触れ、その腕にしまい込まれた。どうやら、彼の探し物は私だったようだ。
「ジーク?」
返事はない。顔を見ても、起きているようには見えない。
普段は力加減をしてくれる彼も、眠っている今は違うようで。遠慮なくがっちりと抱き込まれ、動きにくくなってしまった。
くっつかれるのは嫌じゃない。むしろ嬉しいのだけど……。
「……」
近い。変なところ触ってる。寝てるくせに力が強い。
このままだと、私の方はちょっと辛い。
なんとか抜け出そうと身じろぎしても、動けば動くほどぎゅうと抱きしめられてしまう。
比較的自由に動かせる足で軽く攻撃してみる。すると、彼も足を使って押さえ込んできた。
この人、本当に寝ているんだろうか。
「ジーク」
やっぱり返事はないし、目も開けない。
「元美少女のジークベルトさん」
起きていたら嫌がりそうなことを言ってみる。なんの反応もなかった。
「ジークかっこいい、大好き」
今度は喜びそうなことを言う。こちらにも反応なし。
本当に寝ているようだ。
起こして剥がすのも可哀相だし、もう諦めるしかないのかもしれない。
1つ溜息をつき、ジークベルトの胸に顔を埋めた。
くっつかれる感覚に安心したのか、彼の拘束が少し緩んだ。
このタイミングで素早く動けば、抜け出せるかもしれない。
でも――。
「このままでいっか……」
寝不足になるかもしれないけど、もういいや。
なんだかんだで、この人の腕の中は心地いい。
私は目を閉じて眠る努力をして……結局、少し寝不足になった。
翌朝。
欠伸をする私とは対照的に、彼はいつも以上にすっきりとした目覚めを迎えていた。
「眠そうだね」
「まあ、うん……」
「……?」
原因を作ったその人はきょとんとしていた。




