11 幸せだなあという話
「うー……」
「アイナ?」
ベッドでうつ伏せになって呻いていると、ジークベルトがひょいっとこちらを覗き込んできた。
「肩が痛い……」
「ああ……」
「ああってなに……」
「いやあ……。凝るだろうなと思って」
「……」
彼が考えていることはわかる。
無駄なまでに胸についた脂肪。それが重そう、肩が凝りそうだと思っているのだろう。
実際、それなりの重さはあると思う。
ちなみに、うつ伏せになっている今、胸部が潰れて痛い。
ごろりと仰向けになり、盛大に溜息をついた。
同じタイミングで、ジークベルトがベッドに腰掛け苦笑する。
「これに関しては、流石に分かち合えないなあ。肩もみぐらいはできるけどね」
「分かち合う……」
自分の胸、夫の胸板の順に視線を移動させる。
私の胸の半分ぐらいを彼の胸板へ分けることを想像して――あまりのバランスの悪さに、すぐにイメージをかき消した。
「変な想像してないかい……?」
「ちょっとした……。私の胸を分け与えられたジークの姿」
「そ、そう……。どうだった?」
「似合わなかった……。ジークはこのままが1番」
「それは何より」
「美少女みたいなまま育ってたら、似合ってたかもしれないけど」
美少女のようだったジークベルトの姿を思い描く。
そのまま女の子として成長させて、胸をつけたら……。
「いける! 似合う……!」
「アイナ、嬉しくない」
「そう?」
「嬉しくないよ……」
「可愛いけどなあ」
「かっこいいの方が嬉しいよ」
「ふうん……?」
本人に「嬉しくない」と言われたのに、私は美少女として育った彼について考えていた。
うーん、可愛い。彼が女性だったら、今も相当な美人さんだったはずだ。
ジークベルトは男性だからこうなったけど、いつか、私たちの間に子供ができたら……。
「ジーク似の女の子が生まれたら、可愛いだろうなあ」
「……それはお誘いと取っても?」
「へっ? そ、そういうわけじゃ……」
「冗談だよ。僕は、アイナに似てもとても可愛いと思うよ」
「そうかな……?」
「絶対可愛い」
ジークベルトがきっぱりと言う。そう断言されると嬉しくなってしまう。自分の口元が緩むのがわかる。
大好きな人がこんな風に言ってくれるなんて……。私は幸せ者だ。
「ねえ、ジーク」
「なんだい?」
「私、ジークと一緒になれてよかった」
昔は迷走もした。ジークベルトを避けようともした。
色々あったけれど、彼と一緒に生きると決めた私の選択は正しかったのだと、胸を張って言える。
だって、こんなにも満ち足りている。
目の前のこの人も、そう思っているといいな。
そんなことを考えていると、彼が私の手に触れた。
「……僕もだよ、アイナ」
すり、と優しく結婚指輪を撫でる手つきは、愛情たっぷりで。
「私、幸せだなあ」
もしも過去の自分に会えるのなら、私はこの人と一緒にいるよって教えてあげたいぐらいだ。
「ジーク、ずっとそばにいてくれてありがとう」
「……逃がす気はなかったからね」
「え?」
「こっちの話だよ」
「んん……?」
なんと言ったのか聞こうとしても、頭を撫でて誤魔化されてしまう。
ちょっと気になるけれど――彼の手が気持ちいいから、まあいいか。




