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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
結婚後 夫婦の日常編

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8 夫が屈んでくれないと届かないという話

「アイナ」


 今日のジークベルトは、家で公務を進めていた。

 休憩のために夫婦の部屋へ戻ってきた彼が、自分の唇をとんとんと叩く。

 お疲れ様のキスでもして欲しいんだろう。扉の前で私を待つ彼の元まで進む。

 夫の要求に応えるため、彼の腕に収まって胸板に手を置き、背伸びをした。した……んだけど、届かない。

 必死に爪先立ちをしても、彼の唇に届く気配がない。


「んー……」


 足がぷるぷるしてきた。

 もしかしてこの人、自分から要求しておいて屈んでいないのでは。

 私たちの身長差はそれなり。だから、こちらが背伸びしただけでは上手く触れ合うことができないのだ。


「ジーク?」


 背伸びをやめ、高い位置にある夫の顔を睨みつけてみる。

 私に睨まれた彼は、にこにこととても上機嫌だ。


「届かないね」

「……遊んでる?」

「まさか。楽しんでる」

「大体同じじゃあ……。弄ぶつもりなら、もうしません」


 怒ったふりをして、彼の腕から逃げる。

 本気で怒ってはいない。戯れの一環。演出というものだ。

 背を向けて数歩進めば、彼は「ごめんごめん」と言いながら、私の手首を掴んだ。

 そうなると私はもう動けない。力で敵うはずもないし、そもそも抵抗する気もないのだ。

 彼は後ろから私を抱きしめ、捕まえたと言って笑う。


「逃げられても、すぐに捕まえられるのはいいね」

「まず、逃げられるようなことしないで?」

「必死に背伸びする君が可愛くて、つい……」

「あなたに応えようと頑張ってたのに、ひどい人」


 これくらいの文句を言ったところで、ジークベルトが反省する様子はない。

 それどころか、


「昔は僕の方が小さかったのになあ……」


 としみじみしている。


「今は、アイナが随分小さく見えるよ」

「確かに、ジークから見たら小さいのかもね。逆を言えば、私から見たあなたはかなり大きいわけだけど……」


 言いながら、ぺたぺたと彼の腕に触れる。細身に見えるけど、やっぱり身体の作りが違う。私に回された腕は、男の人のそれだ。

 本当に立派になったなあ、と何気なく呟けば、背後の彼から喜びが伝わってくる。


「そっか。大きく見えるんだね」

「うん、まあ……。壁一歩手前って感じ」

「か、壁……」


 今度は、ずーんと肩を落としているのがわかる。壁は言いすぎたかもしれない。


「ジーク」

「壁に何の用かな……」


 フォローしようと彼を呼んでみればこの返事。思ったより深めのダメージが入っている。

 背の高い人にとって、壁扱いはつらいことなのかもしれない。私には一生わからない世界だ。

 そんなに落ち込む理由は謎だけど――傷つけたのは私なんだから、この場でしっかりケアしよう。

 もぞもぞと動き、身体を反転させる。そうしてジークベルトと向き合うと、予想通り、しょんぼりした大型犬が見えた。

 手を伸ばし、そっと彼の頬に触れる。


「ジークの、私よりずっと大きいところも好きだからね」

「うん……」


 眉の下がった、しゅんとした顔。結婚する前も今も、私は彼のこういう表情に弱い。

 自分よりずっと大きい人が相手なのに、可愛く見えて仕方ないのだ。


「ジーク、ちょっと屈んでくれる?」


 彼は素直に私に従う。私が背伸びすれば、今度こそ彼の唇に届く。

 触れるだけの軽いキスをして離れると、彼は目をぱちぱちさせていた。


「壁にキスする人はいないでしょう?」

「……! そうだね」

「あ、休憩しに来たんだよね? お茶でも淹れてもらって休も……」


 言葉の途中で額に唇を落とされる。髪や首筋へと場所を変えて、何度も何度も。

 キスの雨状態だ。いつ終わるんだろう。休憩にしなくていいのかな。

 そう思いつつも、大人しく受け入れた。中断させることもできるけど、ジークベルトがそうしたいならいいやと思えた。

 満足するまで、好きにして?

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