7 あなたが好きならそれでいいかという話
「おかえりなさい、ジーク」
「ただいま、アイ……ナ……?」
帰宅したジークベルトを出迎える。
ぱあっと顔を明るくした彼の視線が、私の胸に移動。徐々に声がしぼんでいく。
「あ、気がついた? ちょっと潰してみたんだ」
「つぶ……した……?」
実のところ、私は自分の大きな胸が少しコンプレックスだった。
メイドに打ち明けてみたら、試しに小さくしてみましょうかと提案された。何人かに手伝ってもらい、少し潰してボリュームを抑えたのだ。
ちょっと苦しいけど、胸元がすっきりして身体のラインも綺麗に見える。
「どうかな?」
いいねと言ってくれる。そう思っていた。
けど、現実は違って。
「ジーク?」
ジークベルトは何も言わずに私の手を取り、早歩きで屋敷を進んでいく。
といっても、彼は加減していると思う。それでも私にとってはそれなりの速度だから、ついていくのに苦労した。
行き先は、私たち夫婦の部屋だった。
無言のままジークベルトの手でベッドに転がされ、普段の姿に戻されてしまった。
私を元に戻した夫は、一仕事終えた職人のように息を吐く。ようやく表情が穏やかになった。
私の手を取ったときからずっと真顔で、少し怖かったのだ。
私にまたがったままの彼に、恐る恐る声をかけてみる。
「ジーク……?」
「びっくりした……。胸を潰したなんて言い出すから」
「だからって、無言で元に戻さなくても……」
「アイナはこっちの方がいい……。この方が落ち着く……」
ジークベルトが私の胸に顔を埋める。あまりにも情けない姿に、思わず頭を撫でてしまった。
「でも、潰した方が服とか選びやすくなるんだけど……」
撫でる手は止めずにそう言えば、胸に顔を突っ込んだままの夫がやや息苦しそうに話す。
「今まで通り、サイズを合わせて仕立ててもらえばいいよ……。そこを節約しろとは言わないから……」
「潰した方がすっきり見えるし……」
「無理にそんなことしなくても、僕は普段のアイナが好きだよ……」
「そう……?」
「そうだよ」
ジークベルトが力強く頷く。
その顔は胸に埋められたままで、まだまだ離れる気はないようだ。
「本当にびっくりしたんだ、アイナ……。とにかくいつもの姿に戻そうとしか考えられなくなった……。元に戻ってよかった……」
「そ、そこまで……」
「僕は、ありのままの君が好きだよ」
ようやく顔を上げた彼の眼差しは、いたって真剣だった。
キリっとしているけど、顎は私の胸に乗ったまま。
嬉しいことを言われているはずなのに、あまりかっこよく見えない。
でも……。
「あなたがそう言うなら……。潰さなくてもいいかな……?」
「アイナ……! うん、それがいいよ」
「じゃあ、そろそろどいてもらっても?」
「いや、僕はもう少しこうしていたいな」
「もうちょっとだけだよ」
彼は再びうつ伏せに。
見た目がよくて、穏やかで優しく、聡明。そして、愛妻家の素敵な王子様……に近い人。
この人は、外ではそんな風に思われているそうだ。
そのジークベルト・シュナイフォードが、妻の胸に顔を突っ込む姿なんて、他の人には見せられない。
そんなことを考えながらも、彼の頭を撫で続けた。
胸を潰した方が綺麗に見えるのは確かなんだけど……。意外と甘えん坊なこの人が、このままでいいって言うならそれでいいか。




