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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

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17 ジーク視点 僕の妻になる人

 アイナと一緒に暮らすようになってから、半年ほど経っていた。

 在宅時は休憩のたびにアイナに会えるし、外から帰って来れば「おかえり」と言ってもらえる。

 内容によっては、外出に同伴もしてくれる。

 彼女がそばにいてくれて、本当に助かっていた。

 待っていてくれる人がいる。

 一緒にいたいと言ってくれる人がいる。

 その事実が、僕に力をくれた。




「それ……」

「両親からだよ。また届いたんだ」


 就寝前、机の引き出しに手をかけたタイミングで、アイナに声をかけられた。

 彼女は、僕が手にしているものに興味があるようだ。

 ろくに見ることもなくしまい込もうとしていたそれを、アイナに手渡す。

 もう何枚目になったのかもわからない、両親が送りつけてきた絵葉書だ。

 二人からは、今も絵葉書が届き続けている。

 最初は、ゆったり過ごせる場所にでも向かっているのだろうと思っていた。

 けど、どうしてか、両親は各地を移動し続けているようで。

 葉書に描かれた風景も、地名も、同じものはなかった。

 なにか思うところがあるのか、アイナはじっと絵葉書を見つめている。

 

「アイナ?」

「…………ねえ、ジーク。届いた順番はわかる?」

「消印通りに並べれば、多分」

「確認してもいい?」

「う、うん」

「あと、世界地図も」


 彼女に言われるまま絵葉書と地図を取り出し、机におく。

 アイナは消印や地名を照らし合わせながら、地図の上に葉書を並べていった。

 そうすることで、両親の移動経路や、滞在時期が見えてくる。

 一箇所に長く留まることはなく、進行方向も一定。ゆっくり過ごしたい人の動きだとは思えない。


「これは……」


 なんとなく、違和感はあった。

 立場を意識しているのか、父は自分の子供に対しても厳格な人物として振る舞っている。

 でも、アイナとの婚約、在学時の頻繁な帰省、卒業後の別荘滞在……。どれも、父が許してくれたからできたことだ。

 子に厳しい言葉や態度を向けることがあっても、その裏に確かな愛情があることを、僕はよく知っている。

 それになにより、突然仕事を投げ出して、息子に押し付けて逃げるような人じゃない。

 母だって同じだ。子を愛し、強く在れるよう育て、妻としての務めも全うしていた。

 そんな人たちが、引退してゆっくり過ごしたいなんて理由で、息子を置いていなくなるわけがないのだ。

 少し考えればわかることなのに、忙しさや寂しさに負けて、なにも見えなくなっていた。


 こうして地図と葉書を並べてみれば、なにか目的があって旅をしているのだと理解できた。

 移動経路と進行方向から、開戦が近いと噂される場所、すでに争い始めている地域を訪ねているように見える。

 両親に求められた役割は、きっと、いわゆる「平和の使者」だ。

 聞こえはいいけれど、滞在する場所によっては、危険に巻き込まれる可能性だってある。


「言ってくれればよかったのに、どうして……」


 家族が置かれている状況を理解し、力なく呟いた。どうしてかなんて、本当は、わかっている。

 まだ未熟な僕に事実を告げ、心労ばかり残して一人にするなんて、できなかったんだろう。

 僕はすでに成人している。でも、成人したからって、その瞬間に一人前になるわけじゃない。

 成人年齢に達しているだけの、子供だ。


「……アイナ、君はどう思う」


 俯く彼女に問えば、僕の考えと同じ答えを返してくれた。

 二人の見解が一致したものの、憶測の域を出ない。

 真実を知りたいなら、事情を知る人から色々と聞き出さなきゃいけない。

 

「明日、仕事の合間に確認してみる」

「……ジーク、ごめんなさい。私……」

「いいんだ。いずれ知ることだったんだから」


 余計なことをしてしまった。アイナは、そんな風に感じているんだろう。

 たしかに、両親に逃げられたと思っていた方が、心配事は少なかったのかもしれない。


「君は何も悪くない。……でも、そうだな。少し驚いたから、甘えさせてもらえると嬉しいかな」

「……うん」



 その晩、僕らは身を寄せ合って眠った。

 アイナは柔らかくて暖かくて、安心できる匂いがして。僕に触れる手も、とても優しかった。

 不安に押し潰されたっておかしくないのに、僕はすぐ眠りにつき、気がついた頃にはすっかり日が昇っていた。

 一人ぼっちだったら、もっと怯えて過ごしていただろう。

 こんな安らぎを知ってしまったら、もう、この温もりを手放せる気がしない。

 今までもこれからも、絶対に離したくない。



 翌日、父の側近……今は僕に仕える男を問い詰めたら、事情を話してくれた。

 最初はただの旅行と説明されたけど、代理とはいえ今の最高権力者は僕だと追撃すれば、あっさり口を割った。

 厳しく口止めされていたわけじゃないんだろう。


 両親が家を離れた理由は、僕らが考えた通りだった。

 僕になにも教えなかったわけも、僕の心労を増やしたくなかったからだとか。

 そうやって秘密にしたがったくせに、絵葉書なんて送ってくるのだから、詰めが甘いというかなんというかだ。

 気がつくことはないと思っていたのかもしれないし、息子を試す意味があった可能性もある。

 まったく、どこまで僕を未熟者扱いするのか……と少し腹がたったけど、きっかけをくれたのはアイナだった。

 あとでアイナと話してみたところ、彼女は早い段階で「もしかしたら」と思っていたとかで。

 何度か葉書を見せられただけなのに、大まかな進行方向と、その地域の共通点を把握していたそうだ。


 アイナは危なっかしくて、ちょっと鈍くて、頑張りすぎるところもあって。心配になる部分もたくさんある。

 でも、優しくて、努力家で、目の前の物事と自分の知識を結びつける力もある。

 僕の妻になる人は、可愛さ、賢さ、優しさを併せ持つ、素敵な女性だ。

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