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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

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15 今、私にできること

 エーレンフリート様たちがいなくなってから、数週間が経過していた。

 ジークベルトは父親の仕事を引き継ぎ、慌ただしい毎日を送っている。

 日本でいう中高生の年齢で学生をやっていたり、別荘でのんびり過ごしたり。身近すぎていまいち実感がなかったりしたけれど、ジークベルトは王族の一員で、シュナイフォード家の跡継ぎなのだ。

 順位は低いけど、王位継承権だって与えられている。


 ジークベルトが青年として成長してから表に出るようになったのは、ごく最近のことだ。

 成長期は学園にいたし、それより前は美少女のようだった。

 だから、彼の愛らしさを知る人はいても、立派な青年になったことはあまり知られていなかった。

 そうなると、世の人は突然あらわれた顔のいい男に驚いたりするそうで。

 物腰柔らかな王子様、マダムキラー、婚約者一筋、幼少期と今の姿絵をセットで欲しい……などなど話題になっているみたいだ。

 ジークベルトは王子じゃないけれど、それに近い立場ではある。

 インターネットのある時代、世界なら、イケメンプリンスとして国を超えて騒がれていたかもしれない。


 さて、その素敵な男性は、今どうしているかというと……。


「癒される……」


 でろでろに溶けて婚約者に膝枕されていた。

 好きな子の前ではいい男でいたい。以前はそんな風に言っていたけれど、今の彼はでろんでろんだ。

 外では気を張りっぱなしなんだろうから、その反動なのかもしれない。

 この姿を情けなくも思うけど、それより、可愛い、嬉しいって気持ちのほうが強い。

 この日の彼は、夕方まで外出していた。

 事前に帰宅時間を聞いていた私は、シュナイフォード邸を訪れ、彼を迎えるために待機していたのだ。

 帰宅したジークベルトと一緒に彼の私室へ向かい、今に至る。

 のんびり別荘暮らしから、一転。両親もお姉さんたちも不在の中、公務に忙殺される彼。

 あまりの落差にくたくたなうえ、アイナ不足とやらが深刻だそうだ。 

 ちなみに、あの一か月ですっかり贅沢になってしまった私もジークベルト不足だった。


「今日もお疲れ様」

「ありがとう。君のおかげで、明日も頑張れそうだよ」

「そっか。よかった」


 私は、これからもジークベルトと共にあると決めている。でも、決意したのはほんの数年前。

 気持ちが定まらないまま、何年も彼を待たせていた。なのに、ジークベルトは、ずっとずっと、私を大切にし続けれくれたのだ。

 私に居場所をくれたジークベルトのことが大好きだし、感謝もしている。彼を蔑ろにしてしまった罪悪感も、少し。

 そんな私が、彼のためにできることってなんだろう。


「私にできることなら、なんでもするからね」


 大変な状況にあるこの人の力になりたい。

 私の言った「なんでも」は、外出の際に同行するとか、調べ物だとか、今みたいな癒し要員だとか、そういったものを想定していた。

 けど、彼は違ったようで、


「なんでも……か……」


 ごくりと唾を飲み込んだ。


「私が考えてたものと違う気がする……」

「えっ、いや、はは……」


 素敵な王子様と話題のこの人は、普通に男だったりする。

 そういうところも含めて好きだから、今更嫌いになったりはしない。



***



「そうだ。絵葉書が届いたんだ」

「絵葉書?」

「僕の両親からだよ」


 元気になったのか、彼がゆっくりと起き上がり、机に向かっていく。

 引き出しからハガキを取り出すと、「見てごらん」と渡してくれた。

 ハガキには、見覚えのない風景が描かれていた。

 添えられている地名によると、国境付近の町で入手したもののようだ。


「……国を出るのかな?」

「そうかもしれないね。二人でゆっくり過ごしたいそうだけど、どこまで行くんだろう」

「うーん……。南の島とか?」

「好きそうだなあ、あの二人」


 遊んで過ごす両親の姿でも想像したのか、彼が煩わしそうにため息をつく。

 ろくな引継ぎもせず、なにしてるんだか……。そう呟く彼の顔には、寂しさが滲んでいた。


 以降も、ジークベルトの元に絵葉書が届き続けた。

 風景も、それに添えられた地名も、どんどん変わっていく。

 移動しているのは確かなようだったけど、南の島の風景が届くことはなかった。

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