表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/118

13 未来の話と、すぐ近くの波乱


「別荘暮らしも、もう終わりかあ……」


 ある日の夕暮れ。ウッドデッキの手すりに腕をおき、夕焼けに染まる海を眺めながら、そう呟いた。

 二人一緒にここに来てから、1か月近く経過していた。

 この暮らしには、ジークベルトの卒業記念の面もある。だから特別に長居が許されたのだ。

 最大で1か月までと言われていたから、あと数日は滞在できる。

 私はギリギリまでここにいたかったんだけれど……。先日、兄から「寂しい」「帰ってきて」といった内容の手紙が来てしまった。

 流石に無視することもできず、少しだけ予定を早め、明日にはここを出ることになったのだ。


 シュナイフォード家の許可は出ていたとはいえ、ジークベルトをずっとここに縛り付けるのもよくない気はしていた。

 学園を卒業した彼は、次期当主として様々な経験を積まなきゃいけない。

 だから、本当はもっと早く帰るべきだったんだけど……。二人での暮らしが楽しくて、戻ろうと言い出せなくなっていた。


「時間を見つけて、また来よう」

「……うん」


 隣に立つ彼が、ちょっと困ったように笑った。

 家に帰れば、私たちは本来の立場に戻る。

 今までみたいに、食事や飲み物を自分たちで用意したり、普通の観光客として買い物を楽しんだりすることは、もうできないのだ。

 大好きな人が作ってくれた朝食だって、次に食べられるのはいつかわからない。

 ちなみに、朝食担当になったジークベルトは、次第に自由な発想で料理するようになり……。

 最近では、よくわからないけど美味しいオムレツを作りだすなどしている。

 食材や調味料はそのときの感じで入れているとかで、彼は真逆のタイプの私はちょっと悔しい気持ちになった。


 謎の才能を見せつけられたことまで含めて、ここでの暮らしは本当に楽しかった。

 交代で食事を作り、外食もして……。料理人を別荘に招いたりもした。

 何度かバーベキューをするうちに、ジークベルトの手際がよくなっていた。

 二人で買い物もした。

 同じベッドで眠って、夫婦になったみたいだった。

 それから、それから……。挙げ出せば、きりがない。

 許されるなら、このままここに住んでしまいたいぐらいだ。


「隠居するときは、あなたと一緒にこの町に来ようかなあ」

「年を取っても一緒にいてくれるんだね?」

「当然」

「嬉しいよ。隠居目指して頑張ろうか」

「うん」


 今年で18歳の二人はくすくすと笑い合う。

 隠居なんて、何十年も先の話だ。まだまだ現実味がない。

 でも、それだけの年月も、そこから先も。二人で一緒にいたいって気持ちは、確かにここにある。


「そうだ……。これも先の話なんだけど」

「うん?」

「あなたは、子供は何人欲しい?」

「っ……」

 

 これも先のお話。でも、隠居よりはずっと近くにあるもの。

 そもそも、私たちの婚約には、子を残せという意味も含まれている。だから、それを見据えること自体はなにもおかしくないのだ。

 でも、ジークベルトを驚かせてしまったようで、彼は片手で顔をおさえ、俯いてしまった。ぷるぷる震えているようにも見える。


「ジーク?」

「……答えるとしたら、二人か三人。でも、無理のない範囲で……」


 いつもより弱々しくて小さい声だったけど、しっかりこちらに届いた。

 この人は、子供が複数いる家庭をご所望だ。

 私にも兄がいて、彼には二人のお姉さんがいるから、想定内の答えだった。

 先のことだし、色々なことが関係してくるから、それで決まりとは言えない。

 でも、


「私、頑張るね!」


 前向きな返事ぐらいはできる。


「ありがとう……」


 そうやって意気込んで見せたけど、どうしてか、彼は私と目を合わせてくれない。

 

「……こういうこと、聞かないほうがよかった?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……」

「ただ?」


 ようやく私の顔を見てくれたと思ったら、彼の目線が、下へおりていく。

 その動きは、私の胸でとまり――


「~~っ! ジークのバカ、スケベ」

「…………ごめん」



 明日の朝には馬車に乗りこみ、それぞれの家に帰る。だから、今日が別荘暮らし最終日みたいなものなのだ。

 なのに、ご機嫌斜めの私と、それを宥めるジークベルトなんて状態になってしまった。

 たまにしか会えないなら、こんな余裕はなかったのかもしれない。

 でも、これからがあるって、この先も一緒にいられるってわかるから、ちょっと拗ねるぐらいはいいかなあって思える。



 翌朝、「楽しかったね」「また来よう」と話しながら馬車に乗り込んだ。

 思い出話に花を咲かせる私たちは、これから試練が訪れることを知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ