表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/118

11 ジーク視点 しょうゆってなんだろう 可愛いからまあいいや


 別荘生活3日目。

 僕たちは、買い出しのため港の商店街を訪れていた。観光客に紛れた護衛も近くにいる。

 通りにはずらりと店が並んでいて、多くの場所で海産物を扱っていた。

 お菓子を扱う店や喫茶店もあるけれど、アイナは新鮮な海の幸に夢中だ。


「この値段でこんな大きなものが……!?」

「おっ、お嬢ちゃん、わかってるねえ! 2つ買ってくれたらおまけもつけるよ!」

「えっ、本当ですか? じゃあ……。その2つと……」


 ここに来るまで、アイナがこんなにも魚介類が好きだなんて知らなかった。

 時折、「見て、ジーク」とこちらを振り返りはしゃぐ姿はとても可愛らしい。 

 うきうきの彼女の隣にいるのは、王位継承権を持つ、名家の次期当主……まあ、僕だ。

 僕はすっかり、女性の買い物に付き合う荷物持ちの男と化していた。僕自身が望んでいることでもあるから、この扱いが嬉しかったりする。

 彼女が楽しいなら、僕も楽しい。だから、これでいいと思っていたのだけど。


「じゃあ、次は隣の店に……」

「アイナ、今日はもういいんじゃないかな」

「え?」


 アイナがきょとんと首を傾げる。うん、可愛いね。いくらでも買っていいよと言ってあげたい。

 でも、今日はこのへんでやめたほうがいいだろう。

 自分が手にしている買い物袋を少し持ち上げて、アイナに見せる。

 既に、複数のバッグが海産物で満たされ、ぱんぱんになっているのだ。

 金銭面……もまあ、無駄遣いはしないほうがいいけど、問題はそこじゃない。

 今、僕らは別荘で暮らしている。二人で食べきれる量に抑える必要があるのだ。

 こういったことに関しては、僕よりアイナのほうが厳しい。だから、彼女があとでしょんぼりしなくて済むよう、口を出させてもらった。

 

「あー……えっと……。今日のご飯は、海鮮バーベキュー……かな……?」

「いいね。美味しそうだ。食材の量は十分だろうし、そろそろ戻ろうか」

「うん……」


 来た道を戻りながら、「買いすぎちゃった……」とアイナがぼやく。

 続けて「でもあれも美味しそうだった」「あっちはまだ見てない」と言うものだから、「また来よう」と伝えておいた。

 僕らが滞在する別荘は、観光地から少し離れた場所にある。

 徒歩でも移動できる距離だけど、目的が買い出しだったこともあり、今回は近くまで馬車で来ている。

 馬車まで戻る際、荷物を持つとアイナが言ってくれたから、なるべく軽めのものを選んで渡した。




「今日の昼食はバーベキューにするのかい?」

「この量を食べきるには、それくらいしか思いつかなくて……。あ、でも道具とか火起こしとか……」

「道具はあると思うよ。なくても手配できる。火起こしについては……自分でやったことはない、ね」

「私も……」


 これは、馬車に乗りこんでからのやりとりだ。

 バーベキューはいい案だと思うし、アイナと一緒にやったら楽しいだろう。道具だって手配できる。

 課題は火起こしだ。僕たちだけで火をつけるのは無理だろうから、誰かに手伝ってもらう必要がある。

 考えた末、僕はある人に助けを求めることにした。




「私が……ですか?」

「うん。頼まれてくれるかな?」


 帰宅後、僕が声をかけたのは、別荘の警備を担当する男性だ。

 普段はシュナイフォード邸に勤めている人だけど、今は僕らについてここにいる。


 別荘内では、多くの時間をアイナと二人きりで過ごしている。

 けど、メイドの出入りはあるし、警備や護衛だってついている。

 そういった人員の多くは、シュナイフォード家に仕える人の中から、僕が自分で選んで連れてきたのだ。

 いま話している男性も、僕が信頼をおく人物の一人。いつだかに、家族とバーベキューをするのが好きだと話しているのを聞いた。

 なら、やり方はわかるだろうと考え、協力を要請した。


「そういうことでしたら、準備は全てお任せください」

「ありがとう。よければ僕に教えながらやってくれるかな?」

「お、おしえ……!? 私などが、ジークベルト様にそのようなこと……」

「僕もアイナにいいところを見せたいんだ」

「……! 承知いたしました」


 好きな子の前でかっこつけたいし、学ぶ姿勢も見せたい。可能であれば、僕がいればいつでもバーベキューできるよ、なんて言ってみたい。

 そんな気持ちを理解してもらえたのか、教えるところまで含めて快諾された。


 足りないものの買い出しを挟みつつ、準備に取り掛かる。

 慣れている人の仕事なだけあって、手際がいい。

 火を起こすあいだ、好奇心旺盛なアイナも「ふむふむ」と頷いていた。




「なにかありましたらお呼びください」

「ありがとう、助かったよ」

「ありがとうございます」


 十分な火力になったことを確認すると、彼は本来の仕事に戻っていった。

 火を維持する方法は教わったから、あとは僕がなんとかしてみせよう。


「どれから焼く?」

「そうだな……」


 皿に並んだ食材を見て、少し悩む。とりあえず、種類が偏らないよう網に並べてみた。

 そう時間も経たないうちに、磯の香りが漂い始める。


「美味しそう……」


 水色の瞳を輝かせ、うっとりするアイナが可愛らしい。

 彼女が喜ぶ姿を見ていると、海沿いの別荘を選んで正解だったと思える。



***



「そろそろ焼けたかな……?」

「大丈夫そうだね」


 じゅわじゅわと汁を泡立たせる、殻付きの貝。半分に切った状態で網に乗せたエビ。

 どれも美味しそうだ。まだ焼いていないけど、魚も用意してある。

 一部の貝は、バターと……しょうゆとやらで味付けされている。

 なんでも、アイナがようやく見つけて他国から取り寄せた調味料がしょうゆだとか。

 それぞれ貝を自分の皿にとり、実食。


「美味しい……!!! 醤油とバターも最高……!」

「これが……しょうゆ……?」


 僕は、ここで初めてしょうゆを口にした。未知の味だけど、バターとの相性はいいと思えた。

 貝が新鮮だから、より美味しく感じられる部分もあるだろう。

 たしかに、しょうゆはなかなかいい調味料だ。ただ、


「うう……おいしい……。さいこう……」


 アイナの喜び方が尋常じゃなかった。

 アイナ曰く、懐かしい味がするそうだ。この国にはないもののはずなんだけど……。懐かしいって、なんで?

 その後も、アイナはあらゆる貝にしょうゆをかけていた。

 貝じゃなくても、合いそうなものにはどんどん使ってみたようだ。

 そのたび、大げさなぐらい喜ぶものだから、なんだかよくわからないけど、可愛いからまあいいいかと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ