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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

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9 2日目はのんびりと

 朝食を終えた私たちは、二人揃ってベッドにもぐりこんでいた。

 昨夜は寝るのが遅かったし、疲れも残っている。だから、ベッドに戻るのも仕方がないのだ。

 ジークベルトももう少し寝たい気分だったらしく、今日はだらだら過ごそうと二人で決めた。

 寝つきがいいという話は本当だったようで、ジークベルトは、私の隣ですやすやと眠っている。

 そんな彼とは反対に、こちらは眠れそうにない。私だけが緊張しているんだと思うと、なんだかちょっと悔しかった。

 いたずらでもしてみようか。ジークベルトの頬をつねり、軽く伸ばしてみる。

 意外と柔らかく、よく伸びるほっぺただ。楽しくなってきて、つんつんくいくいと好きにいじってしまった。 


「ん……? アイナ……?」

「あ、起きた」

「そりゃあね……」


 目を覚ました彼が、自分の頬をさする。私にいじられたほっぺたはちょっと赤い。


「……眠れないのかい?」

「……うん」

「なら、こうしよう」


 そう言うと、彼は少し強めに私の身体を抱き込み、一仕事終えたかのように息を吐く。

 子供を撫でて寝かせる感覚なのかもしれないけれど、ちょっと待って欲しい。

 こんな風にくっつかれてしまったら、色々思い出しちゃって、余計にダメになる。


「ジーク、あの……。離れて……?」

「いやだ……」

「い、いやって……。これじゃあ眠れない……」

「だいじょうぶ……いける……」

「ええ……」


 寝ぼけているのか、彼は「いける」「眠れる」と言うだけで、私の話なんて聞いてくれない。

 意識を取り戻して欲しくて、もう一度頬をつねる。

 そうすれば、「いたいよ……」と言いながら目を開けてくれるけど、結局、離してはもらえなかった。

 そんな攻防を繰り返した末、彼の腕から抜け出すことを諦めた。

 しばらく落ち着かなかったけれど、彼の寝顔を眺めているうちに、誘われるように眠ってしまった。



 そのままたっぷり眠り、目を覚ますころにはお昼の時間になっていた。

 今日の昼食は、ジークベルトが手配した料理人が用意するそうだ。

 聞けば、2日目はゆっくり過ごせるよう、昼も夜も人を呼んであるとか。

 プロを別荘に呼んでご飯を作ってもらうなんて、前世の私では考えられなかったことだ。

 身支度を整えて、ジークベルトと一緒に1階へ向かう。

 既に調理が始まっていたようで、リビングは美味しそうな香りでいっぱいになっていた。この匂いは海鮮だろうか。

 二人並んで料理人に挨拶をすると、「ご立派になって……」「腕によりをかけて作らせていただきます」等、いたく感激した様子で言われてしまった。

 手配した料理人は、ジークベルトが家族とここに滞在するあいだ、よく利用したレストランの人だそうだ。

 学生だった4年間は顔を出していなかったため、ぐっと大人になり、婚約者まで連れてきた自分を見て嬉しくなったのでは、と彼は話していた。


 すぐに準備が整い、昼食の時間へ。

 思った通りお昼は海鮮メインで、新鮮な海の幸を味わうことができた。

 この国は海に面しており、他国に比べれば海の幸も手に入りやすいほうだ。

 それでも、日本のような保存技術がないせいか、地元では魚より肉を食べることが多かった。

 元日本人の私は……飢えていたのである。魚や貝の、生食に。


「ん~~!」


 この土地が生牡蠣で有名なことはチェック済みだった。

 だから、海鮮メインだと聞いて、お刺身に近いものが出てくるんじゃないかと期待した。

 結論から言うと……生牡蠣が私の前に現れた。それも、ちゅるちゅるで、ぷりぷりで、とろとろの……大粒のやつが。

 魚を生で食べることはほとんどないそうで、生食できたのは牡蠣のみだった。それでも、嬉しくてたまらない。

 よっぽど喜んでいるように見えたのか、ジークベルトが「次は牡蠣を多めに用意してもらおうか」と言ってくれた。

 力強く頷いた私は、「魚も……生で食べてみたくない……? 腕のいい人なら……生で食べられるようにしてくれると思うの……」と口走り、彼を困らせてしまった。



 昼食後、私はウッドデッキにたたずんで海を眺めていた。

 後ろで「絵になるなあ」とジークベルトが呟く。美しいもの見ているような声だった。

 私の頭の中は、海の幸への感謝でいっぱいなのだけど……。私に見惚れる彼に、それを話す勇気はなかった。

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