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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

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2 それってつまり


「アイナ。今度、うちの別荘に行かないかい?」

「別荘?」


 ジークベルトが帰ってきてから、数日経った頃。

 シュナイフォード家のお屋敷でのんびり過ごしていると、彼がそんな提案をしてきた。

 別荘を持っているぐらい珍しいことじゃない。ラティウス家だって、いくつか所有している。

 けれど、シュナイフォード家所有の別荘に行くなんて、初めてのことだった。

 ちょっと驚いて聞き返すと、彼は澄ました顔で静かに続ける。


「海辺の別荘があるんだ。僕もようやく帰ってこれたし、しばらくのあいだ、そこで二人で過ごすのもいいかと思ってね」

「……二人?」

「そう。二人で。……もちろん警備はつけるし、掃除とかのために、多少は人の出入りもある。けど、それ以外は二人でいられたらと思ってるよ」

「……」


 ジークベルトの言葉を聞きながら、私は彼と二人で過ごす日々を頭の中に思い描いた。

 基本的に、私たちの近くには誰かが控えている。

 人払いもできるけど、完全に二人の状況はなかなか作れない。

 王族と公爵家の娘という立場を考えれば、それも仕方がないし、慣れてもいる。

 けれど、誰にも見られず話も聞かれず、近くに他の人がいない空間でのんびりしたい気持ちだってある。

 私たちだけで過ごすってことは。好きな時にくっついてみるとか、人目を気にせず好きな格好をしたりとか、いろいろなお話をしたりとか……。そういうことができるわけだ。


「アイナ。どうかな」

「行く!」


 身を乗り出してそう答えれば、彼は「よかった」と言いながら、安心したように笑った。


 それから、私たちは別荘での過ごし方について話した。

 二人きりなら身軽な服装でいたいと提案してみれば、彼も「それがいいね」と言ってくれた。

 ジークベルトからは、「君の手料理も食べたいな」とリクエストが。

 大変だろうから毎日じゃなくてもいいし、自分も少しはできるから、交代で調理したりもしよう、とも。

 私も彼の言葉に頷き、外食と自炊をバランスよくやっていくことになった。

 聞けば、別荘は観光地の近くにあるらしい。二人で観光する話もした。

 ……なにかあると困るから、外に出るときは護衛も一緒だそうだ。

 その地域は海に近いだけあって、海産物が美味しいそうだ。

 買ってきて自分たちで調理するもよし。ジークベルトがオススメするレストランに行くもよし。

 二人で過ごす時間はもちろん、食事もすごく楽しみだ。


「じゃあ、帰ったらお父様とお母様に話してみるね」

「うん」


 ラティウス家の許可も必要だから、日程はあとで決めることにして解散する。

 私も彼もなるべく早く出発したいと思っているから、帰ったらすぐに準備を進めたい。

 動きやすくて可愛い服を買って、魚や貝を使ったレシピも調べて……。わくわくした気持ちで馬車に乗りこんだ。




 帰宅後、別荘の件を両親に話すと、行ってきなさい、とあっさり承諾された。

 ダメだと言われることも考えていたから、ちょっと拍子抜けだ。

 両親との話を終え、ラティウス家の廊下を歩きながら考える。


 10代の娘が、男性と二人きりでお泊まりする。

 昔からの婚約者とはいえ、異性は異性。それなのに、あっさり許可を出すってどうなんだろう。

 そんな風にも少し思ったけれど、それは前世基準での話だ。

 この世界の成人年齢は17。

 今年で18歳になる私たちは、大人扱いなのだ。

 そこまで考えて、はたと気が付く。

 大人……男女……お泊まり……。他の人の出入りはほぼなし。昼間はもちろん、夜だって同じ建物の中で二人きり……。

 前世で読んだちょっと大人な漫画や、この世界で読んだ恋愛小説が、それってつまりそういうことなんじゃない? とささやいてくる。

 少し前に読み切ったお話では、男女が二人きりになった夜に「なにか」が起こっていた。


「……!」


 18歳は、前世なら高校3年生。

 あれもこれも、私たちにはまだ早い。というのは、日本の女子高生だったこともある私の感覚だ。

 ジークベルトにとっても、世間の感覚でも、今の私たちは、成人し、学園だって卒業した立派な大人なのだ。

 そのうえ、私たちは婚約者。はっきりと思いを伝え合ったわけじゃないけれど、両思いだ。 

 だから、今とは違う関係になったって、なにもおかしくはない。


「ま、待って……」


 彼との「そういう」ことを、一度も考えたことがないと言えば、嘘になる。

 私だって年頃だし、ジークベルトのことが大好きだ。

 そもそも、この婚約だって子孫を残す意味もある。そういう想像もしちゃうのは仕方がない……と思う。

 けど。まだまだ先だと思っていたのに、その時がすぐそばまで来ていると気が付いてしまえば、混乱だってする。




 すれ違う使用人に心配されながらも、なんとか自分の部屋に辿り着いた。

 勢いのままにベッドに倒れ込めば、「んー……」と悩ましい声が出る。

 足をばたばたと動かし、満足したらぴたっと止まる。

 こんな場面をジークベルトに見られたら、困った顔をさせてしまいそうだ。


 大好きな人と、二人きりで過ごす。とても楽しみだ。

 けれど、そのとき。私たちは、もしかしたら――


「っ……!」


 ぼすん、とちょっと乱暴に枕に突っ込んだ顔が、熱い。

 楽しみだけど、本当に楽しみなんだけど。ちょっと待って……!


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