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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
18歳

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1 ただいまとおかえり


 シュナイフォード邸の前でジークベルトと「お別れ」をしたあの日から、4年。

 よく晴れた空の下、私はあのときと同じ場所に立っていた。

 今日、学園を卒業した彼が帰ってくる。


 お屋敷の中にいてもいいと言われたけど、今の私が大人しくしていられるはずもなく。

 そわそわと落ち着きなく外で待機していた。

 そんな私を、両親や両家の使用人たちが見守っているのがわかる。ちょっと恥ずかしい。

 でも、4年もこの時を待っていたんだ。取り繕って、澄ましてなんていられない。


 そのうち、馬が大地を蹴り、車輪の回る音が聞こえてくる。

 ぱっと顔を上げると、馬車がこちらに向かってくるのがわかった。


「ジーク……!」


 間違いなく、シュナイフォード家のものだ。

 スピードを落としたそれが、私から少し離れた場所に停止。

 すぐにジークベルトと彼の両親がおりてきて、笑顔を向けてくれた。


 私も彼も、今年で18歳。

 昔は私より小さくて愛らしかった彼も、今では身長180センチを軽く超える。

 ミルクティーみたいな色をした、さらさらの髪はそのままに。

 くりくりだった黒い瞳は、少し切れ長になった。

 大人の男性らしい見た目になっても、優しい雰囲気は変わっていない。

 がっちりというほどではないけれど、肩幅もあり、胸板だって厚くなった。

 手の作りも私とは全然違う。大きさも、指の長さも、太さも、柔らかさも、何もかも。


 この人のことが好きなのだと自覚してからずっと、彼がキラキラして見えていた。

 けれど、最近は更に輝いて見える。

 ジークベルト・シュナイフォードは……間違いなく、「イケメン」というやつだ。

 見た目だけに惹かれて、この人を好きになったわけじゃない。

 でも、かっこよく育った事実は素直に受け止めて、かっこいいなあと思いたい。

 彼は、一直線にこちらへ向かってくる。

 私からも歩み寄りながら、この4年間、彼に言いたくて仕方なかった言葉を口にする。


「ジーク、おかえりなさ……」


 全部言い切る前に、私の唇が動きをとめた。

 言葉の途中で、ぎゅうと彼に抱きしめられたのだ。


「ただいま、アイナ」


 耳元で聞こえる、ただいまの声。

 聞きなれたその声は、少し震えていた。

 ……ああ、本当に帰ってきたんだ。

 今までみたいな「帰省」じゃなくて、本当に。


「待っていてくれて、ありがとう」

「……うん」


 男子のみが、4年間全寮制の学園に通う。それがこの国の仕組み。だから、彼が悪いわけじゃない。でも、何年も待たされたのも事実で……。

 なかなか会えなかった分、二人の時間をたくさん作って、補ってもらいたい。毎日でも会わなくちゃ、足りないぐらいだ。


「ずっと待ってた。おかえりなさい、ジーク」


 彼の背に腕を回し、胸板にぴっとりと頬を寄せる。そうすれば、彼はさっきまでより強く、腕に力を込めてくれた。

 大好きな人が帰ってきて、こうして抱き合うことができる。

 ああ、なんだか、すごく幸せ。

 それから、どのくらい自分たちの世界にいたんだろう。

 あるとき、突き刺さる視線の数々に気がついて、周囲を見回す。


「……!!」


 両家の親と、使用人。その全員が、私たちに視線をそそいでいた。

 親たちにいたっては、「やはりこの婚約は正解だった」なんて話している。

 見られた……ここにいる全員に……。ぴっとりくっついているところを……見られた……。

 腕をつっぱり、ぐっとジークベルトを押してはがす。

 彼は名残惜しそうにしていたけれど、私の気持ちを汲んで、素直に離れてくれた。


「と、とにかく。おかえりなさい、ジーク」

「うん。ただいま、アイナ」


 恥ずかしさから、顔を背けてツンとしてしまう。彼はそんなこと気にしていない。

 優しく細められた瞳には、愛おしさが滲んでいる。そんな顔をされたら、私だって気持ちを隠せない。


「ジーク……」


 ふわふわと、夢見心地で大好きな人の名前を口にする。

 彼が帰ってきた。一番に私を抱きしめてくれた。

 身体を離した今だって、彼の瞳が私への気持ちを伝えてくれる。

 今、私の瞳には、どんな気持ちが映し出されているんだろう。

 嬉しいとか、幸せとか……。そんなことが、目の前の彼に伝わっていたらいいなと思う。


 そうして再び見つめ合っていたら、いつのまにか、ほとんどの人たちはその場からいなくなっていた。

 気が済んだ頃、置いていかれたことに気がついて、私たちも屋敷へと入っていくのだった。



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