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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
16歳

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7 ジーク視点 「この男こわっ……」と言われるレベルの伸びだったとか

 

 アイナと入れ替わりでシャワーを浴び、髪の乾燥と着替えも済んだころ、昼食をとった。

 僕の祖父母と、孫二人。そこに加わる婚約者、という形だからか、アイナは普段より上品に振る舞っている。

 正直、いつも通りでも大丈夫だと思うけれど、アイナ本人がそうすると決めたのだから、いちいち口を出すことでもない。

 食事も終わり、談笑に移り始めたころ、おじい様がアイナに向かってこんなことを言い出した。


「……アイナさん。無理に『様』をつけなくてもいい」


 動揺するアイナに、「普段は『ジーク』と呼んでいるのだろう」とおじい様は続ける。

 祖父母の性格を思うと、怒っているとは考えにくい。

 でも、変な誤解をされるのも嫌だから、呼び方も話し方も、僕からお願いしてこうしてもらっているのだと説明した。

 すると、おじい様が肩を震わせて笑い始める。

 そんな風に笑うぐらいなら、最初から指摘なんてされたくなかった。

 拗ねながらそう言えば、おじい様は、愛おしそうに目を細め、僕を通してどこか遠くを……懐かしい日々を思い出すような表情をして、


「……お前はやはり、リッカの孫だな」


 と呟いた。その隣で、おばあ様が「いやだわあなた」とでもいい出しそうな顔をしている。

 ……これは、まずい。この二人の孫としてやってきた僕には、わかる。

 このままここにいてはいけない。

 

「食事は済みましたので、そろそろ失礼します」


 そう言って立ち上がれば、クラウス兄さんも僕に続く。

 アイナだけは状況を飲み込めず、困惑しているのがわかった。

 君も一緒に行こう。そう言うべきかどうか迷っていると、おじい様が「若い頃のリッカも……」と話し始めてしまった。

 ああ、これ以上ここにいたら、もう逃げられない。

 僕は一言「ごめん」とだけ言い残して、アイナを置き去りにしてしまった。  



***



 しばらく経つと、「アイナです」という言葉とともに、ノックの音が届いた。

 どうぞと答えて彼女を招き入れ、手に持っていた本を閉じ、目の前のテーブルに置く。

 時計を見れば、アイナを一階に置き去りにしたあの時から、数時間が経過していた。

 ちなみに、アイナが犠牲になっているあいだ、僕は一人で本を読んでいた。

 なにか頭に詰め込んでいないと、この数日間のあれそれを思い出してしまい、そわそわしてどうしようもないのだ。


 祖父母は、基本的に夫婦二人で暮らしている。

 けど、こうして親族が遊びにくることもあるから、客室もいくつか用意してある。

 そのうちの一室に過ぎないこの部屋は、広くはないし、家具も少ない。

 だから、座れる場所なんて、小さなソファ1つとベッドぐらいしかないのだ。

 自分のものではないといえ、男が使っているベッドに女性を座らせるわけにはいかない。

 そう思い、アイナにソファを譲るために立ち上がり、自分はベッドへ移動した。

 なのに、男の気持ちなんて知らない彼女は、


「失礼します」

「っ……!?」


 そう言って、当然のように僕の隣に腰を下ろした。


 彼女に想いを寄せ続け、そろそろ10年になる。

 10歳で婚約。12歳のとき、いきなり彼女の頬にキスをして失敗。それ以降は、極力そういった触れ方をしないよう気を付けてきた。

 成長すればするほど色々な欲が生まれてきたけれど、僕は必死で押さえつけていたのだ。

 去年、アイナの方から僕に抱きついてきて……。思い切って額に唇を落としてみたら、彼女はふにゃふにゃと嬉しそうに笑ってくれた。

 16歳となった今では、僕の気持ちを受け入れてもらえたこと、彼女も僕に好意があることを、確信できている。

 もしも、だ。僕が今のアイナになにかを望めば、彼女も応えてくれるかもしれない。

 でも、まだその時じゃないと考えて、耐え続けていた。


 ……それなのに、アイナは。


「あのね、ジーク」


 隣に座る彼女が、ベッドに手をつき、僕の方へ身体を向ける。二人分の体重を受け、ぎし、とベッドが軋んだ。


「リッカ様とアダルフレヒト様のお話を聞いて、思ったんだけど」


 こんな状態で話を進められても、「あ、うん」みたいな返事しかできない。

 

「お二人みたいに、私も自分の気持ちを言葉にして伝えたいと思ったの」


 ずっと好きだった子が、同じベッドに乗っている。

 それも、どちらも数時間前にシャワーを浴びたばかりだ。

 それらの事実から目を背けるのに必死で、アイナの話をあまり聞いていなかった。

 

「言わなきゃ伝わらないって、私も思うから」

「そっか。うん。言わなきゃ伝わらない……うん」

「だから、今から言うね」

「えっ」


 ぎし、と、もう一度。ベッドの軋む音がした。

 アイナは肌が触れ合ってしまいそうなぐらい、すぐそばまで来ていた。

 柔らかそうな金の髪から、シャンプーの香りが届く。僕からも、同じ匂いがしているんだろう。

 じいっと僕を見上げる彼女の瞳は潤んでいて、頬も赤く染まっている。


 意識を逸らすようにしていたとはいえ、話の流れは理解している。

 この状況で僕に伝えたいことといえば、内容はわかり切っているも同然だ。

 彼女にその一言を伝えてもらえたら、どんなに嬉しいことだろう。

 幼い頃から一人のひとを想い続けた少年が、ようやく報われるのだ。

 嬉しい。とてつもなく嬉しい。嬉しすぎて、おかしくなってしまいそうなぐらいに。

 本当に嬉しいんだ。だからこそ、今ここで、その言葉はダメなんだ。自分を保つ自信がない。

 

 僕らは二人とも、来年には成人を迎える。

 婚約して6年経つし、「そういう」仲になったって、おかしくはない。

 でも、僕はまだ待とうと思っていたし、なにより、この部屋は祖父母の家の一室だ。

 暴走なんて、絶対にできない。 


 僕は思う。

 16歳の男なんて、だいたいバカなのだ。


「ジーク。私、あなたのことが……!」


 そのバカの一人である僕は、自分の想いを伝えようと頑張る女性に向かって、


「アイナ、待って。今はやめよう。今は本当にやめよう」


 今はダメだと繰り返す、情けない生き物になってしまった。



***



 祖父母のもとに滞在しているあいだ、僕なりに考えた。

 僕だって、自分の気持ちをはっきりと伝えたい。そして、彼女からも、同じ言葉をもらいたい。

 けれど、7歳から続く初恋を拗らせている僕が、「あなたが好き」なんて一言をアイナから貰ってしまったら……。 

 きっと、僕はこれ以上ないほどに舞い上がってしまい、残りの学生生活をただただ浮かれて過ごしてしまうだろう。

 彼女の心や体に触れてしまったら、会いたいって気持ちも、今よりずっと強くなると思う。

 

 婚約者に愛情を向けること。それそのものは、好ましいものなんだろう。

 でも、それだけに囚われて、他のことがなにも手につかなくなるのはよくない。


 王族の一員として。

 シュナイフォード家の次期当主として。

 ずっと好きだった人を、妻に迎える男として。 

 今の自分がやるべきことだって、しっかりやりたいのだ。



 祖父母、クラウス兄さんと別れたら、アイナと一緒に帰路に着く。

 行きと同じくらいの時間をかけ、ラティウス邸に到着した。

 馬車をおりたアイナには、互いの気持ちを伝え合うまで、もう少し時間が欲しいのだと伝えた。

 具体的にどのくらいなのかと聞かれたから、学園卒業後にするつもりで「1年半ぐらい」と回答。

 アイナは、「けっこう先だ……」と言いたげな顔もしたけれど、「わかった」と言ってくれた。




 アイナを待たせている分、もっと頑張ろう。

 互いの我慢にふさわしい結果を出そう。

 そういった考えが強くなった僕が、成績上位から最上位の域に躍り出るまで、そう時間はかからなかった。


 

次回から18歳編。


学園を卒業したジークと二人でシュナイフォード家の別荘へ。

ようやく想いを通じ合わせた二人は……。




二人一緒ののんびり別荘暮らしが終わると、試練が訪れる。

心身ともに疲労しきったジークベルトを支えるアイナ。

今度は私が、この人の力になる番だ。



ぐっと距離が縮まり、膝枕、ハグ、なでなで等のいちゃこらがどんどこ出現し始める章でもあります。

ずっと好きだった人に膝枕されながら眺める絶景がなんとか

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