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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
16歳

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6 ジーク視点 青少年はすでに限界

 祖父母に解放されたら、軽く挨拶を交わす。

 普段は僕のことを「ジーク」と呼ぶ彼女も、この場では「ジークベルト様」と呼び方を改めるなどして、お嬢さんらしくふるまっている。

 アイナは、そういった切り替えもできる人なのだ。


 まずは、それぞれに与えられた部屋で休憩や身支度を済ませることになった。

 とはいえ、僕にとっては自分の祖父母の家だから、そんなに畏まることもないし、移動の感覚も掴めていたから、さほど疲れてもいない。

 正直に言えば、少し暇だった。

 ベッドに座ってぼうっと過ごし、アイナに声をかけてみようかなあと悩み始めた頃、彼女のほうからやってきた。

 坊や扱いされたりしつつも、彼女を部屋に招き入れる。アイナにはソファに腰掛けてもらった。

 この部屋には、座れるものはベッドと一人掛けのソファぐらいしかないのだ。

 聞けば、好奇心旺盛な彼女は、外が気になって仕方ないようだ。

 アイナらしいなあ、と思いながら「外を案内するよ」と話せば、彼女はぱあっと顔を輝かせた。



***



 そうして二人で外に出て、色々見たり話したりしつつ森に入り、洞窟に向かい、一通り楽しんだら来た道を戻る。

 その途中で雨が降ってきて、どしゃぶりになってしまった。

 こんな状態で無理に進んで、アイナに風邪を引かせたくはない。

 通り雨のようだったし、雷もなっていないから、大きな木の下で雨宿りすることにした。

 標高に合わせた服を着てもらったけど、それでも雨が降れば寒いようで。隣に立つアイナが、くちっ、と小さくくしゃみをした。

 心配して彼女へ視線をやれば、薄手のワンピースは少し透けていて、柔らかそうな金の髪も、しっとりと濡れていた。

 ――これは、色々な意味でよろしくない。

 即座にそう判断した僕は、


「……アイナ、これを」

「え?」


 それだけ言って、自分の上着をアイナに押し付けた。

 受け取ってはくれたけど、彼女は手に持ったそれと僕を交互に見るだけで、身につけようとしない。

 今度は僕が冷えてしまうと思って、遠慮しているのかもしれない。


「……あの、ジーク。これはあなたが着て?」


 その通りだったようで、上着を返却されてしまった。

 そこから「僕は大丈夫」「でも……」「僕は男だから問題ないよ」「男でも女でも、寒いものは寒いでしょう」と問答が始まる。

 最終的には、ヤケを起こしたアイナが


「わかった! まず、あなたはこれを着て! 私はこう!」


 と僕に上着を着せ、男の懐に潜り込み、密着して暖を取る形に落ち着かせてきた。

 暖かさを求めたのか、アイナは僕の腕を掴んで自分のお腹に回す。

 そこまでやったら、ふう、と満足げに息を吐いた。


「これで二人ともあったかいでしょ?」


 そう話す彼女は、顔なんて見なくてもわかるほどに得意げで。僕の動揺なんて全く感じ取っていない様子だった。


 アイナ、健全な16歳の男子にこれはまずいよ。

 いくら婚約者とはいえ、これはまずい。

 なにがまずいって、世間的にどうこうって話ではなく、16歳の男子でしかない僕にとって、この状況は本当によくないんだ。


 あったかい……やわらかい……いいにおいがする……。

 もうダメだ……。嫌なことを……嫌なことをたくさん考えよう。

 ああ、寮で同室の男を相手に「おはよう、眠り姫」と言ってしまったときなんて、本当につらかったな。

 しかも、顎に手をかけ、くいっと上を向かせたおまけつきだ。

 せっかくなら、そういう「初めて」はアイナに使いたかった。

 つらかったといえば、あのときも……。


 そんなことを考えて、精神を別のどこかへ飛ばす。

 アイナにぺしぺしと腕を叩かれて意識を取り戻した頃には、雨はあがっていた。 



***



「アイナ。今度こそ僕の言う通りにしてくれるね?」

「嫌。そっちのほうがひどい濡れ方してるんだから、あなたが先」

「冷えは女性の敵だって、僕は姉さんたちから教えられているんだよ? ここは、僕を紳士にしてくれてもいいと思うけどね?」

「いま私の目の前にいるのは、『紳士』じゃなくて『ジーク』でしょ? ずぶ濡れなのはジーク、あなた」


 祖父母の家に到着した僕らは、玄関で言い争っていた。

 どちらか先にシャワーを浴びるかが決まらず、揉めているのだ。

 アイナは、「あなたが先」だと言う。

 確かに、自分の身体を使って彼女を守っていた僕は、ひどい濡れ方をしている。

 ……彼女からそう聞いただけで、早い段階で意識を飛ばした僕は、そのことをよく覚えていなかったりする。

 アイナの気持ちもよくわかる。でも、ここで僕が先にシャワーを浴びてしまったら、彼女の盾となった意味がない気がするんだ。

 

 そうして譲り合っていると、見かねたリッカおばあ様が、「アイナさんが先に」とこの戦いを終わらせてくれた。

 これで一安心だと思えたのは、ほんの一瞬で。

 この家の浴室は1つ。だから、どちらか一人しか入れず、僕らは揉めた。

 つまり、僕はアイナがシャワーを浴びた直後に、交代で浴室を使うことになるわけで……。


「…………………………身が持たない」


 今回みたいに何日もずっと一緒にいると、色々なことが起きる。

 ……起きすぎて、もうつらい。

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