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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
16歳

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1 彼の祖父母に会いに行こう


 前世の記憶を取り戻してから6年。

 婚約者・ジークベルトのことが好きだと自覚し、彼が向けてくれる愛情にも気がつけるようになってきた。

 愛おしそうにこちらを見ていたり、前より忙しいはずなのに毎月の帰省を続けてくれたりと、表情や行動から想いが伝わってくる。

 これで、彼になんの気持ちもなかったらびっくりだ。

 私たちは両思い。そう思えるのに、少し不安だった。


「好きって言われたわけじゃないんだよね……」


 お互いに大切に思っているし、このままいけば結婚だってする。

 でも、私も彼も「あなたが好き」という決定的な一言は口にしてないし、自分たちの言葉で結婚の約束をしたわけでもない。

 言葉にしなくたってわかるでしょう。そう言われてしまえば、そうかもしれない。

 でも……。


「言いたいし、言われたい、かも……」


 毎日のように愛を囁けとは言わない。あえて言葉にはしない関係も素敵だと思う。

 けれど、お互いの気持ちを確認し合えば、今より安心できる気がした。



***



「やっぱりかっこよくなってる……」


 ジークベルトが帰省した日、ラティウス家の廊下にて。

 彼を見上げながら、そう呟いた。

 今年で16歳になるこの人は、相当な勢いで男性として成長している。

 整った容姿、幼い頃とのギャップ、彼への気持ち……。

 色々なものが合わさって、世界で1番かっこいい人に見えてしまう。

 そんな私に対して、彼は、


「おばあ様の予言が当たってよかったよ」


 とさらっと笑顔で返してきた。

 去年のいつだかに「かっこよくなった」と伝えたときは、あんなにはしゃいでいたのに。今では「でしょ?」ぐらいの反応。

 なんだろう、この……自分がいい男だって自覚している感じ……。

 これはこれで嫌いじゃないけど、前の方が可愛げがあった。


「可愛くなくなった……」


 そんな気持ちからこう言えば、


「かっこいい男だからね」


 彼が胸を張る。

 ふふんと自慢げにするその姿は、落ち着いた大人の男性には程遠い。

 ……やっぱり、可愛いかもしれない。


 


 この手の話になると、彼の祖母、リッカ様が度々登場する。

 私も会ったことはあるけれど、ちゃんと話したことはない。お祝いの席などで挨拶した程度だ。

 ジークベルトも、詳しいことは話してくれない。

 

「おばあ様たちは今どうしてるの?」

「気になるのかい?」

「うん。あなたのおじい様とおばあ様のことだもの」

「……そうだよね」

 

 彼が立ち止まる。どことなく重い雰囲気だ。


「僕の祖父母は……」

「祖父母は……?」

「……」


 黙り込むジークベルト。

 ……もしかして、話しにくい事情があるのかな。


 私たちは今年で16歳。

 ラティウス家の第二子である私の祖父母だって、もう60歳ほどだ。

 転生前の私がいた日本であれば、60代の祖父母が元気にしていることはそう珍しくもない。

 でも、この世界・この国の平均寿命は、日本ほど長くない。

 ジークベルトは年の離れた末っ子だから、祖父母だってそれなりの年のはず。

 彼がおじい様とおばあ様についてあまり話したがらなかった理由って、もしかして……。


「ジーク、あの……。話しにくいなら、無理には……」

「僕の祖父母は……。引退して、自給自足に近い生活をしてるんだ」

「え?」

「父に家を継がせたらさっさと引っ込んじゃってね。田舎で元気に暮らしてるよ。……元気すぎるぐらいにね」

「ジークのおばあ様って、今の国王様の妹だったよね……?」

「うん……」


 頷く彼は、疲れた顔をしていた。

 

 年齢を考えれば、彼の祖父母は既に亡くなっていてもおかしくない。

 それなら私の耳にも入るだろうけど、病気や怪我で動けなくなっている可能性だってある。

 国王の妹とその夫ともなれば、今の状況や居場所を隠す必要があるのかもしれない。

 そういった理由があるのかと思ったけど、違うみたいだ。


「この前は、リッカおばあ様が描いた風景画が送られてきたよ。おじい様のコメントと一緒にね」

「そうなんだ……。二人とも元気にしてるなら、どうして話しにくそうだったの?」

「僕は二人のことが少し苦手でね。ああそうだ……。夏の長期休暇を使って遊びに来いって言われてるんだった……」


 16歳の孫が、夏休みに田舎のおじいちゃんとおばあちゃんに会いに行く。なんだか微笑ましい光景だ。

 ジークベルトはあまり乗り気じゃないみたいだけど、彼だって10代半ばの男の子。反抗期ってやつかもしれない。


「じゃあ、夏休みはこっちにいられないの?」


 彼の夏休みは、大体一か月ぐらい。

 休み中もやることがあるとかで、こちらでゆっくり過ごせるのは2週間程度だ。

 私もその2週間を楽しみにしていたから、会えないなら残念だ。

 そんな気持ちが顔に出ていたのか、彼は少し考える様子を見せた。


「……君も一緒に来るかい?」

「へ?」

「のどかでいいところだよ。君も気に入ると思う」

「私も行っていいの?」

「もちろん。君は僕の婚約者だからね。きっと、二人も喜ぶよ」

「……!」


 彼への気持ちを自覚していなかったら、この話は断っていたかもしれない。

 でも、今の私はこの人が好きだとわかっていて、夫婦になりたいとも思っている。


「じゃあ、あなたのおじい様とおばあ様にも、改めてご挨拶を……」


 ジークベルトの婚約者として同行し、彼の祖父母と会うことに抵抗はなかった。

 挨拶を兼ねた旅行みたいで楽しみだ。

 すぐに両家の許可が出て、日程も決まり、移動時間も含めて1週間ほどを彼と一緒に過ごすことになった。

 それなりに距離があるため、途中で宿泊する場所も確保してあるそうだ。

 もちろん、部屋は別だとか。


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