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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
15歳

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番外編 ジーク8歳 そうして姉は怒られた

ジークの8つ上の姉、ナターシャ視点です。

 私はナターシャ・シュナイフォード。シュナイフォード家の次女です。

 今年で16歳になる私には、2つ上の姉と、8つ下の弟がいます。

 姉はミリーナ、弟はジークベルト。年の離れた弟が、可愛くて仕方ありません。


 8歳の弟・ジークベルトは、弟ですからもちろん男の子です。

 けれど、私にはもう、とびきりの美少女にしか見えないのです。

 くりくりの黒い瞳は、これでもかというほどにキラキラしていて。

 茶色い髪は、女の子に嫉妬されそうなぐらいにさらさらです。

 年齢が年齢なので当たり前ですが、身長も女の子と変わりません。

 姉二人に囲まれているせいか、男の子らしいやんちゃさは控えめで、穏やかな性格をしています。

 愛らしい見た目に加えて、この性格。もう、本当に可愛くてたまりません。


「ねえ、ジークベルト。髪を伸ばしてみませんか? きっと似合うと思うんです」

「嫌です」

「そんなこと言わずに、ねっ?」

「嫌です」


 ううん、つれない返事。

 髪を伸ばしたら、ぜっったいに可愛いと思うのですけれど。

 私は今、自分の部屋でジークベルトの髪をいじっています。

 長さがないので大したことはできませんが、可愛い弟の髪で遊ぶのはとても楽しいのです。


「お姉様もそう思いますよね?」

「うん、ジークベルトなら似合うと思うよ」

「ほら!」


 私たちを見守るお姉様に話を振ると、同意してくれました。

 けれど、当の本人は、


「伸ばしません」


 と頑な。

 美少女のような子だけど、自分は男だって気持ちは強いみたいです。

 私としては、長髪の男性も素敵だと思いますが……。

 今の彼は、髪は短く! 男らしく! と思っているのかもしれません。


 私は、この子が男らしくいようとする理由に心当たりがありました。

 アイナちゃんです。

 今よりも幼い頃から仲良しの二人。

 ジークベルトは、アイナちゃんに異性として見られたいのでしょう。

 可愛い顔をして、この子は意外とませているのです。

 私も、ジークベルトの思いはわかっているつもりです。わかっているつもりなのですが。


「そうだナターシャ。私たちのお古がどこかにあるんじゃないかな?」

「ええ、残してあったと思います。探してもらいましょう」


 部屋に控えていた使用人に、お古探しをお願いしました。

 不穏な気配を感じたジークベルトが逃走を図りましたが、8歳相手に逃げられてしまう私たちではありません。

 まだまだ、私たちの方が強いのです。


「ジークベルト、ここにいてくださいね」


 お姉様と一緒に出口を塞いで、にっこりと微笑みます。

 そうすれば、逃げられないことを悟った彼は、部屋の隅で縮こまりました。


 そうしているうちに、私たちが着ていた服が見つかりました。

 可愛いものばかりで、今のジークベルトの背丈にも合っています。


「ねえ、ジークベルト」

「嫌です、嫌ですよ。絶対に着ません」

「そんなこと言わず」

「嫌です」

「ジークベルト、一度だけ」

「嫌と言ったら嫌です」


 2着の服を持って、ジークベルトにじりじりと近づく私。

 ドアを守るお姉様。

 壁際にいたせいで、それ以上後退できない幼い弟。


 ああ、ごめんなさい。ジークベルト。

 あなたが男の子なのはわかっています。

 でもね、美少女みたいな男の子を着飾らせたい衝動は、抑えられないのです。

 だって、絶対に可愛いんですから。


「ジークベルト。自分で着ますか? 着替えさせてあげましょうか? どっちにします?」

「……どちらも嫌です、姉さん」

「自分で着替えるか、ナターシャに着せ替えされるかだよ。ジークベルト」

「い、嫌だ!」


 ジークベルトがまた逃走を図り、私を振り切りました。

 ですが、扉はお姉様が塞いでいます。

 男女とはいえ、お姉様は18歳で、ジークベルトは8歳。お姉様に敵うはずもありません。

 そうでなくとも、彼は暴力なんて振るわない子ですから、逃げるなんて無理なのです。


「ジークベルト?」


 弟との距離を詰めていき、先ほどと同じ言葉を投げかけます。


「自分で着ますか? 着替えさせてあげましょうか?」


 のちに、彼は言いました。

 あのときは本当に怖かった……と。



***



「ああジークベルト、やっぱりとっても可愛いです!」

「うん、これはどこからどう見ても美少女だよ」


 ジークベルトは、自分で着る道を選びました。

 彼が着たのは、リボンがついたピンクのワンピースです。

 ズボンを脱いでいないのは、彼の意地なのでしょう。

 本当は脱いでもらいたいところですが、流石にそこまでは要求できません。

 ああ、私たちの弟は本当に愛らしい。

 笑顔になればもっと可愛いと思うのですが、彼はどこか遠い目をしています。

 これは僕じゃない、とぶつぶつ呟いているのも聞こえます。


「ジークベルト、もう少し着てみませんか?」


 服はまだあるのです。

 似合いそうなものを見繕って手に取り、ジークベルトに近づきます。

 そのときでした。

 目の光を取り戻したジークベルトが、扉に向かって駆け出します。

 もう諦めたと思っていたので、お姉様も扉の前から離れていました。


「待ってください、ジークベルト!」


 私が手を伸ばし、お姉様が扉へ向かいますが、初動の差で間に合いません。

 ジークベルトは、そのまま部屋の外へ飛び出してしまいました。




 その後、この件がお父様に知られてしまい、私たちはそれなりに叱られました。

 よくなかったなあ、と思ってはいます。

 本当に嫌だったようなので、もうしない…………と思います。

 それに、一度だけでもよおくわかりましたから。

 私たちの弟の可愛さが。


 可愛い可愛い、私たちの弟。

 そんな彼もどんどん成長していって、美少女扱いなんてできなくなるのですが……。それは少し先のお話です。

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