表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
15歳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/118

8 私の選ぶ道

 学園見学から数日。

 私はリディとオルマリアに、学園でのことを報告していた。

 今日はリディの家に集まっているため、謎の置物に囲まれて話している。

 ジークベルトは他の学生とも上手くやっているようだとか、本当に男子学生しかいなかったとか、女性というだけで注目されてしまうとか。

 特にまとめもせず、思い出したことから口にした。

 二人とも学園に興味があるようで、時折、質問と回答も織り交ぜつつ、穏やかに時間が過ぎていく。

 なのに、説明不足な私の言葉で、場の空気が凍った。


「早く着きすぎたから一人でふらふらしていたら、ジークベルト様が女の人と二人でお茶をしているところを見ちゃって……」

「えっ……」

「二人でお茶……?」


 友人たちの表情が引きつったことに気が付き、慌てて付け足した。


「違うの! 従姉! 従姉だったの! 私も最初はびっくりしたけど、近くに住んでるいとこのお姉さんに会ってただけだから!」

「お茶のお相手はジークベルト様の従姉で、浮気現場ではなかった……ということですね?」

「う、うわきげんば……!?」


 リディが発した言葉に衝撃が走る。

 そっ……か……? もしも本当に、私に隠れて他の女性とどうこうしていたなら、浮気ってことになるんだ……?


「う、う、浮気なんて、あの人がそんなことするわけ……。二人で先に会っていたのも、私を案内する前に女性目線の意見をもらうためだったらしいし、後ろめたいことなんて、なにも……。ジークが他の人を好きになって、私に秘密で会ってるなんて、そんな、こと…………」


 自分で言っててつらくなってきた。

 もしも、彼の気持ちが他の誰かに向いたら。

 婚約者の私とは別に、真に愛する人ができてしまったら。

 そんなの……絶対に嫌だ。想像すらしたくないぐらいに、嫌だ。


「あれ……?」


 いつだったか、私は彼が他の人を好きになればいいと思っていた。

 そうすれば彼との婚約を解消して、自分の好きに生きることができるって。そんな風に考えていた。

 今も同じ気持ちなら、彼の隣に別の女性がいたって嫌じゃないはずだ。

 むしろ、喜ばしいことのはずで……。


「んん……?」


 今までしっかり向き合っていなかったものに、手が届きそうで、届かない。

 謎の感覚に頭を悩ませていると、


「やっぱりアイナ様は、ジークベルト様のことが大好きなんですのね!」


 大変盛り上がった様子のオルマリアが、こげ茶色の瞳を輝かせてそう言った。


「……? だいすき……?」

「ジークベルト様のことが大好きだから、そんなにも辛そうなお顔をしていらっしゃるのですよね? 誤解だとわかっても! 他の女性と過ごす姿を思い出すだけで! 胸が痛むぐらいには! アイナ様は、ジークベルト様のことがだいす」

「マリー。少し静かにして」


 どんどん盛り上がっていくオルマリアの口を、リディが手で押さえた。


「だい……すき……。すき……。すき……? 私が、ジークを、好き…………? 大好き……?」

「ア、アイナ様……? まさか、本当に気が付かずにここまで……?」


 流石に、気が付いていると思っていました……。

 リディが小さく呟いた。


「私は、ジークのことが……大好き……?」

「少なくとも、私たちはそう思っていました」

「えっ……あ……。私、ジークの、こと……」


 そこまで口にしたら、動きも思考もとまった。

 すっかり固まってしまった私は、リディとオルマリアの手で家に帰されてしまうのだった。




 帰宅後は、使用人の手で自室のベッドに突っ込まれ、一人にされた。

 柔らかな毛布にくるまって、考えてみる。

 友人とのやりとり。『浮気現場』を目撃したときのこと。その後の気持ちの動き。

 それから、私とジークベルトのこれまでについて。

 そうして考えれば考えるほど、彼への想いがはっきりしてくる。


 ジークベルトは、優しくて、頭もよくて……。

 見た目はかっこよくなってきたけれど、私にお願いするときの顔は昔のままで、可愛いところも残っている。


 離れ離れになってしまうと寂しくて。

 彼が帰ってきたときは、走って会いに行きたくなる。


 手料理を食べたいなんて言われたら、怖いのに断れなくて。

 美味しいものを作らなきゃと必死になった。

 喜んでもらえると、もっともっと上手になりたいと思えた。


 彼の気持ちが他の人にあるのかもしれないと思ったとき、足元がぐらついて、世界が真っ黒に塗りつぶされた。

 誤解だってわかって安心したけれど、あの光景を思い出すと、今も胸が痛くなる。


 肩を抱いて引き寄せられたら、恥ずかしいけど嫌じゃなくて……。

 一緒にいると、この人の隣にいたいって気持ちになったり……。

 自分のことばかり優先して、彼に向き合えていないと感じると、自分が嫌になって……。

 彼に寂しい思いをさせたくないし、傷つけたくないとも思う。

 私にはまだ見せてくれない表情も知りたいし、できることなら、全部を独り占めしたい。


 その気になれば、まだまだ出てくる。

 これは……。私、彼のことを……。


「すごく、好きなんじゃ……?」


 この気持ちに名前をつけるなら、


「すき」


 これが、最もふさわしいのだろう。

 ぽつりとこぼれた言葉が、じんわりと胸にしみ込んでいく。

 確かにそこにあったのに、しっかりと向き合ってこなかった自分の気持ち。

 それにようやく名前がついて、はっきりとした形を持って、私の中に落ち着いた。


「好き……。そっか、私、好きだったんだ。あの人のこと」


 思えば、12歳のときには既に、彼のことが好きだったのかもしれない。

 けれど、18歳まで生きた記憶もある私からすれば、12歳は子供だ。恋愛対象にはできなかった。

 でも、今は彼も15歳。背も伸び、身体つきもしっかりしてきて、顏だって大人っぽくなった。

 子供だからダメだという理由では、自分の気持ちを抑えることはできない。




 私が「アイナ」としてここにいていいのかどうか。そこに関しては、今もあまり自信がない。

 どう生きたいのかも、まだぼんやりしている。

 でも、確かだと言えるものがある。


「私は……ジークのことが好き。あの人を、他の誰かに渡したくない」


 自分の中で、1番強くて、確かな気持ちはこれだ。

 なら、私が選ぶべき道は決まっている。

 私は、彼の幼馴染の「アイナ」とは違う存在かもしれない。

 だからって、身を引くなんてもう無理だ。

 だって、他でもない「私」が彼のことを大好きなんだから。



***



 今日は、ジークベルトが帰ってくる日。

 約束の時間には少し早いけど、なんだかじっとしていられなくて、外でうろうろそわそわと彼を待っている。

 しばらくそうしていると、1台の馬車がラティウス邸にやってきた。

 あれは……間違いない。シュナイフォード家のものだ。

 停止した馬車から、ジークベルトがゆっくりとおりてくる。

 学園見学から2週間も経っていないから、見た目なんて特に変わっていないはず。

 なのに、前よりずっとかっこよく見えた。

 少しでも早く、彼に会いたい。話したい。近くで顔が見たい。

 そんな気持ちから、気がつけば、ジークベルトに向かって駆け出していた。

 

「アイナ、ひさしぶ、り……」


 彼の目の前まで来ても、私はとまれない。ううん、とまろうと思わなかった。

 勢いのままに飛びつけば、彼はしっかりと私を受け止めてくれる。

 両手を彼の背に回し、少し強めに、大好きな人を抱きしめた。


「ジーク、おかえりなさい!」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ