14 ジーク視点 君たちがやると可愛いんだけどね
シュナイフォード邸到着後、少し休んでから兄妹が使う客室を決めた。
ベッドが2つあって、なるべく僕ら夫婦の部屋に近い場所。
本人たちの希望も聞きつつ、そんなところを選んだ。
7歳のリーンは一人でも大丈夫かもしれないけど、5歳のエーリカはそうもいかない。一人にするのは酷だろう。
兄と一緒かつ、僕らにもすぐに会いに来れる位置がいいだろうと考えて、こうなった。
泊まると決まった時間も時間だったから、間もなく夕食をとることになった。
食事には、なにやら賑やかなワンプレートが用意された。
お子様ランチといって、アイナが提案したそうだ。
夕食だからランチじゃなくてディナーなんだけど、そこは気にしなくていいんだろう。
丸く盛られたライスの上に小さな旗が立てられていたりして、見ていて楽しくなる。
大人の僕らの前に出されたプレートも、内容は大体同じだ。
エーリカと僕が同じ量で満足するはずがないから、それぞれの体の大きさに合わせて調整されている。
アイナの影響でうちでは米もよく食べるけど、あまり一般的ではない。
だから、お客さんがいるときは、ライスとパンのどちらでも選べるようにしてある。
子供達の口に合うだろうかと心配して見守っていると、どうも米を気に入ったらしく、美味しいと繰り返していた。
これには、米好きのアイナもにっこりだ。
また食べたいと言う二人には、米を持たせて帰すことになった。
食休みをして、少し遊んで。そうしていると、あっという間に夜になった。
僕らにしてみれば、これからがゆっくり過ごせる時間帯。ある意味では、1日の本番であるとも言える。
それは大人の話であって、まだ幼い子供たちにとっては、そろそろ1日を終える時間だ。
このぐらいにはお風呂を済ませ、早めにベッドに入れるようにナターシャ姉さんからも言われている。
入浴の話になったら、アイナとエーリカが一緒に入りたいと言い出した。
アイナだけには任せられないため、エーリカの侍女にも見守ってもらう方向で話がまとまった。
我が家には、大人二人でも一緒に入れる大きさの湯船がある。大人と子供であれば、スペースにはかなり余裕がある。
それをわかっているアイナが、「リーンくんも一緒に入る?」なんて言い出したものだから、勘弁してあげてと口を出した。
親族の大人と子供とはいえ、男女は男女。淑女として褒められたことではないし、何より、リーンが可哀想だ。
……アイナには、後で僕から話しておこうと思う。
血の繋がりはなくたって、アイナとエーリカが一緒にお風呂に入るのはわかる。
アイナはエーリカを可愛く思っているし、エーリカだってアイナに懐いている。
妻と姪っ子が仲良くお風呂に入るなんて、なんとも微笑ましいじゃないか。
親族なのだから仲良くすべきとまでは思わないけど、仲がいいにこしたことはない。
そこまではわかるんだ。可愛らしいとも思う。
だけど、妻にこんなことを言われるとは思っていなかった。
「じゃあ、次はジークとリーンくんだね」
お風呂上がり特有の香りを漂わせた妻は、当然のようにそう言った。
「……リーンは、僕がいなくても大丈夫なんじゃないかな?」
リーンと一緒に入浴するのが嫌なわけじゃない。嫌じゃない、けど、なんとなく気が進まない。
お姉さんと女の子だと可愛いけど、大人の男と生意気な少年の組み合わせに、可愛さや微笑ましさを見出すことができない。
基本的に、この国には複数人で入浴する文化はないから、余計にそう感じるのだろう。
「一人でも大丈夫かもしれないけど、せっかくのお泊まりだし……。リーンくんはどう?」
リーンは僕に若干の敵意……というか、ライバル心を抱いている。
そんな相手と一緒は嫌なはずだ。きっと、彼は首を横に振る。
そう期待してリーンに視線を送れば、
「俺は、ジークベルトさんと一緒に入りたいです」
と言い出した。絶対嘘だ。
アイナが喜ぶとわかっているから、こう答えたに違いない。
仲良しで素敵、とアイナが笑顔を見せた。騙されている。
アイナたちが使ったお湯は流したそうだ。同じ湯船をもう一度使うとなると、準備に時間がかかる。
だから小さい浴室を一人ずつ使ったほうが……と流れを変えようとしたものの、失敗。
次は僕らが使うと聞いた使用人たちが、既に作業に取り掛かっているらしい。
張り切っているらしく、中断しろ、一人で入るとも言いにくい。
結局、男二人で入浴することになった。僕と二人になったリーンは、アイナがいないのをいいことに生意気な面を見せてくる。
俺だってもっと大きくなるとか、俺が大人になる頃にはおっさんはもっとおっさんになってるとか、なかなかに好き勝手なことを言う。
ちなみに、おっさんというのは僕のことだ。
アイナがいる時は大人しくしていたくせに、叔父の僕にはこの態度。
次に勝負をするときも手加減などせず勝利を収め、大人の威厳を見せつけてやろう。
リーンは僕に挑んでくることが多いから、早ければ、明日にでも機会があるだろう。
大人げないとか、そんなことはどうでもいい。男同士の勝負なのだから。
僕たちがお風呂から出た頃には、エーリカはうとうとしながら目を擦っていた。
兄妹を客室に連れて行き、ベッドに寝かせる。
本人たちが大丈夫だと言うから、二人を残して自分たちの部屋に戻った。
そうして数十分ほど経った頃。
「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」
瞳に涙を溜めたエーリカと、付き添いのリーンが僕らのところにやってきた。
身内の家であっても、ここはいつもと違う場所で、両親とも離れている。
そんな状態だから、寂しくなってしまったようだ。
……うん、そうなるかなと思ってた。




