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【本編完結】私の居場所はあなたのそばでした 〜悩める転生令嬢は、一途な婚約者にもう一度恋をする〜  作者: はづも
最終章 夫婦と、家族

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12 ジーク視点 叔父と同じ技が使える5歳

「エーリカ、わがままを言ってはいけませんよ。準備だって必要なのですから。そういうことは先に約束しておくんです」

「でも……」

「ごめんなさいね、ジークベルト。アイナちゃんもあなたの帰りを待っているでしょうから、今日はこの辺で……」


 膝の上には、5歳の姪っ子。向かい側のソファには、ナターシャ姉さん。7歳の甥も、同じ部屋にいる。

 そんな状況で、姪のエーリカは必死になって僕にしがみついていた。

 甥のリーンは、ちょっと離れた場所から僕らを見ている。

 エーリカが僕を見上げた。ばちっと僕らの視線が絡む。

 5歳の少女は大きな黒い瞳に涙を浮かべ、


「お兄ちゃん……」


 舌ったらずにそう言い、甘えん坊な末っ子の力を見せてきた。

 うっ……と僕が怯んだところに、「お兄ちゃんお願い」とエーリカが畳みかけてくる。

 どうしたものかと思っていると、「アイナお姉ちゃんにも会いたい」と言われてしまい、陥落した。


「……わかったよ。泊まりにおいで」


 5歳児に敗北した23歳の僕は、小さな頭を撫でる。

 ふわふわした茶色い髪は触り心地がいい。

 自分の要求を通すことに成功した、小さなレディ。彼女は、ぱあっと表情を明るくした。

 僕ら夫婦によく懐き、お兄ちゃんお姉ちゃんと慕ってくれる、可愛い姪っ子。

 そんな子からのお願い、ダメだなんて簡単には言えなかった。




 今日は公務のために外出していた。一人でこなせるものだったから、アイナは同伴していない。

 帰りにナターシャ姉さんの家の近くを通ること、終了時刻が早めだったことから、姉さんのところに寄った。

 少し話せればいいぐらいの気持ちだったから、10分や20分で帰るつもりだった。

 そのつもり、だったんだけど……。

 僕が来るとしか聞いていなかったエーリカは、それでは納得しなかった。

 もう少しいて欲しいから始まり、私が行く、お兄ちゃんたちのところにお泊まりする、と話が変わっていく。

 最終的に、僕にしがみつくという形で、全身を使ってアピールし始めた。

 明日は休みだと教えてあったから、ならいいじゃないかと思っているところもあると思う。


 お泊まりそのものは問題ない。

 アイナだって喜ぶだろうし、うちには子供慣れした使用人もいる。

 子供が喜ぶものを作れる料理人もいるから、食事だって用意できる。

 ただ、小さな子となると受け入れる側も準備が必要だろうから、急に連れて帰るのはよくないと思った。

 ナターシャ姉さんも、その辺りはわかっている。

 だから事前に約束しなさい、今からはよくないと娘に言い聞かせたんだろう。


「お兄ちゃん……」


 だというのに、僕は上目遣いでおねだりしてくる少女に負け、許可を出してしまった。

 ナターシャ姉さんにこういうところはなかったと思う。誰に似たんだろう。

 弟の僕には見せないだけで、姉さんにも、甘えん坊な時期があったんだろうか。

 そこまで考えて、姉は笑顔で追い詰めてくるタイプだったなと思い出す。

 ……エーリカも、いつかそうなるのかな。


 急に大丈夫かと姉さんに心配されたけど、一度頷いておいて、やっぱりダメだなんて言えない。

 エーリカと付き添いのリーンのお泊まり準備を進める間に、アイナに手紙を書くことにした。


 リーンとエーリカの二人が泊まることになった。

 急にごめん。

 使用人にも知らせておいて欲しい。


 大体そんなことを書いて、封をする。


 すぐに届けてもらえることになったから、僕より早くアイナの元へ到着するだろう。

 急なことに変わりはないけど、なんの連絡もなしに子供たちを連れて帰るよりはいいはずだ。




 食べられないものは何か。緊急時はどう対応するか。

 そんなことを話したり書き残したりしつつ待機していると、二人の準備が終わった。

 エーリカは、お気に入りのぬいぐるみを持っていくつもりのようだ。

 大きいクマだなと思ったけど、僕が持ってみたらそうでもなかった。

 兄のリーンは遊び道具などは持たず、着替え等、最低限の物だけにしたと言っていた。

 エーリカより年上だから……というより、大人ぶりたい年頃なんだろうなと感じる。

 活発で生意気なタイプなのに、アイナの前では静かにしていることを、僕はよく知っている。

 気になる人に、落ち着いた姿を見せたいんだろう。僕もそういうところがあったから、ちょっとわかる。

 少し前までは、僕をおっさん呼ばわりすることもあったリーン。

 じゃあ私はおばさんかあ……とアイナがしゅんとしたら、そういうことは言わなくなった。



***



「ジークベルト、二人をよろしくお願いします。リーン、エーリカ。わがままを言いすぎて、お兄さんとお姉さんを困らせてはいけませんよ。少しにしましょう」


 僕らを見送る姉さんが、そんなことを言う。

 少しならいいんだ……と思っていると、


「親や近しい親族に、遠慮しすぎる必要もありませんから」


 と笑顔で言われた。

 ……確かにそうかもしれない。

 でも、無理やり女装させるのはやめて欲しかったな……そこは遠慮して欲しかったな……と、昔のことを思い出して遠い目になってしまった。

 リーンも嫌がるタイプだろうから、そんな場面に遭遇したら助けてあげよう。


 僕らがしっかり座ったことを確認すると、馬車が動き出す。

 僕の家の方は、今頃どたばたしているかな。

 お子様メニューとかも考えてそうだ。

 急な話だけど、みんな歓迎してくれるだろう。





この回で通算100話目となります。

ここまで読んでいただけたこと、本当に感謝感謝です。

100話祝いに☆などしゅっとしていただけますと……とても……嬉しい……です……!

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