♥ 人獣族との暮らしの中で 1
──*──*──*── 1ヵ月後
怪物が生息している森の中で怪我をして倒れていたらしいぼくは、人獣族の≪ 集落 ≫で相談役をしているセロロから命を助けられた。
セロロの義弟となったぼくの怪我は、無事に完治してくれた。
傷口も綺麗に塞がってて傷痕も消えている。
目を覚ましたあの日から30日も経っているから、身体中に巻かれていた包帯も取れた。
今はオロトさん,オシュトさん,ハクトさん,ミカトさんに色んな事を教わりながら≪ 集落 ≫で暮らしている。
≪ 集落 ≫で人獣族の相談役をしているセロロは毎日ひっきりなしに忙しいみたいで、朝飯,昼飯,夕飯,夜飯の時ぐらいにしか顔を会わせる機会がない。
昼飯はオロトさんが作ってくれた手作り弁当をぼくがセロロへ届けて、一緒に食べるようにしている。
セロロと昼飯を食べ終えたら、空になった2人分の弁当箱を持って、自宅に帰る日々を送っている。
朝飯,夕飯,夜飯に関しては、自宅にて6人で食べる事になっている。
ただ…族長会が開かれる時は、セロロの居ない5人で食べる事になる。
折角セロロと義兄弟になれたのに、全然セロロに甘えられないし、頼れない。
流石に雨や雪が降る日は、セロロも自宅に居て出掛けないらしいんだけど、森の中では雨や雪は滅多に降らないみたいで──、ぼくは未だに≪ 集落 ≫に降る雨や雪を見ていない。
人類の食事回数は1日3食なのが通常だけれど、亜人類の食事回数は1日4食なのが通常らしいんだ。
朝飯は午前5時 〜 午前7時迄,昼飯は午前10時 〜 正午0時迄,夕飯は午後15時 〜 午後17時迄,夜飯は午後20時 〜 午後22時迄──っていう感じになっている。
だから人獣族の働く時間は、午前7時 〜 午前10時迄の3時間,正午0時 〜 午後15時迄の3時間,午後17時 〜 午後20時迄の3時間で、24時間中の9時間が基本的な仕事時間になるらしい。
食事時間は休憩時間も含まれているから、たっぷり2時間を取るみたいなんだ。
食事時間以外にもセロロと一緒に過ごせる時間がほしいって思うけど、セロロは≪ 集落 ≫の人獣族から頼りにされているし、皆のセロロみたいな感じだから、我が儘は言えない。
寂しいけど……、セロロを頼っている皆からセロロを奪うような事はしたくない…。
ぼくにはオロトさん,オシュトさん,ハクトさん,ミカトさん──4人の義兄が居てくれる。
ハクトさんとミカトさんは面白い事を言ってくれたり楽しい事を教えてくれたりして、何時もぼくを笑わせてくれるし楽しませてくれる。
そうそう、≪ 集落 ≫で保護されていたぼく以外の異界人は此処には居ない。
片腕と片脚を失った異界人は、≪ 王都 ≫へ行けば本人達に合った義手と義足を作ってもらえるって事で、聖職騎士団と一緒に≪ 王都 ≫へ旅立って行ったんだ。
もう1人の異界人は聖職騎士団と≪ 王都 ≫へ向かうのは難しいと判断されて、此処で保護を受ける事になったらしいんだけど、療養と治療の甲斐も虚しく息を引き取ってしまった。
火魔法で遺体を火葬して、遺骨を骨壷の中へ入れたら≪ 集落 ≫の墓地にある共同墓石の中へ納骨されて、弔いがされた。
遺体を火葬して、骨壷に遺骨を入れて、墓石の中へ納める──、なんてまるで日本式の弔い方だ。
骨壷はコンパクトな物だけど、骨壷の中へ入れられるのは遺骨の1部じゃなくて、全骨を魔法で凝縮させて入れられた。
骨壷には誰の遺骨なのか分かるように魔法で名前が書かれている。
産まれた生年月日と無くなった没年と年齢も魔法で書かれている。
魔法で書かれた文字は消えないみたいだ。
共同墓石に納骨されるのは身寄りのない人獣族や身元不明の亜人類の骨壷が殆んどで、身寄りのない異界人の骨壷も納骨される事になった。
セロロが代表で供養会を行うのは、1月,3月,6月,9月の1年に4回みたいだ。
異世界なのに死者への弔い方が妙に日本と酷似しているのは何でだろう??
日本式の弔い方を異世界で見る事になるなんて、何か不思議な感じだった。
土葬はしないみたいで、遺骨の上を踏んで参拝する事がないらしいから、 “ 知らず知らずに罰当たりな事をしている ” って事が無いってだけで安心感がある。
ぼくの家墓がある墓地は、地面がコンクリートになっているんだけど……、墓地の下に埋まっている大量の遺骨は掘り出される事はなくて……、遺骨がそのまま埋まっている状態でコンクリートにされている。
だから、お墓参りをする度に御先祖様達の遺骨の上を踏み踏みしながら参拝をしている事になる。
これって物凄く罰当たりな行為らしくて、ちゃんとお墓参りへ行って供養をしているのに、正しい供養になっていないみたいなんだ。
大事な御先祖様の遺骨を踏み付けて形だけの供養をして、ちゃんと供養をしている気になっているだけだから、罰が当たっても文句は言えないよね…。
だけど、コンクリートになった場所を掘り起こして御先祖様の遺骨を出すのには、多額な費用が掛かるからとてもじゃないけど個人の力ではどうにも出来ない。
ぼくが両親と一緒に家墓へお墓参りをしに行く事は無いんだな……。
日本へ帰れないぼくは……両親と同じ家墓には入れないんだ…。
ぼくの入るお墓は、日本にある家墓じゃなくて……この≪ 集落 ≫にある墓地の共同墓石なのかな…。
悲しいな……。
共同墓石の中へ異界人の骨壷が納骨される様子を見詰めながら、ぼくは別の意味で泣いていたんだ…。
亡くなった異界人は日本人ではなくて、外国人だった。
ぼくには外国語が分からないから、彼と話は出来なかった。
誰かと話の出来るような状態でもなかったんだけども……。
彼の遺品の中には、彼の身元が分かるような物は無かった。
彼が何処の≪ 国 ≫の出身者で何処の誰かなのかも分からない。
ぼくは彼の分まで精一杯、生きようと思う。
ぼくには、きっとそれぐらいしか出来ないから…。
ぼくも聖職騎士団とは行けなかった。
ハクトさんとミカトさんに包帯でグルグル巻きにされた後、離れに放り込まれて隔離されたからだ。
ハクトさんとミカトさんの計画通りなのか、ぼくは聖職騎士団から拒否されて此処に居る。