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「君のためなら何でもしよう!!リディア、君と結婚出来なければ、僕は……!マベール侯爵家はどうなるんだ」
今更何を言っているのか……驚きで笑いが止まりません。
レンティル様が現実を理解していないのは残念な限りです。
そしてレンティル様の浅はかな行動のせいで、マベール侯爵家は今から屈辱的なことを沢山しなければなりません。
「い、嫌だ……!何でもするっ!行かないでくれッ」
「では、慰謝料と違約金は追って請求させて頂きますね」
「慰謝、料…?違約金?」
「はい、契約を交わしておりますから」
「そ、そんな金っ……うちには」
「はい、そうですね!貴方は過酷な労働を強いられるでしょうね………一生」
レンティル様はガクガクと震えております。
ご自慢のお顔もゲッソリです。
「本日から援助の件はなしとなります。そして貸付の分の金利は元に戻させて頂きますので、マベール侯爵にそう伝えて下さいませ……レンティル様の口から」
「……ッ」
レンティル様は可哀想な程にお顔がくしゃくしゃになっています。
そう、マベール侯爵はとても厳しいことでも有名なのです。
婚約者がいる状態で古くから親交の深いバルタ侯爵家の愛娘であるシャーロット様を誑かし続けた訳ですから、レンティル様は今からとっても酷い目にあうことでしょう。
「勿論、バルタ侯爵家にも慰謝料を請求させて頂きますから」
「なっ……!!」
レンティル様は口をパクパクとしています。
どうやら言葉が出ないようです。
けれど、法を犯したのはシャーロット様なのです。
勿論、シャーロット様になんの恨みもないですし、慰謝料も目的ではありません。
レンティル様に結婚をチラつかせて唆されていたとはいえ、婚約者がいる男性と関係を持っていたのですから、お気の毒ではありますが、キチンと慰謝料を請求させて頂きたいと思います。
カンカンに怒ったバルタ侯爵とシャーロット様がどう出るのか見ものですね。
それに、今からこの出来事は大きく社交界に広がるでしょう。
わたくしに隠れて行った不貞行為に加えて、シャーロット様を弄んだ罪はレンティル様に罰として重くのし掛かることでしょう。
足の力が抜けたのかペタリと座り込んでしまったレンティル様。
わたくしはレンティル様の前に座り込んで、最後にニッコリと微笑みました。
「うふふ………レンティル様、さようなら」
「リディア……ま、待ってくれッリディア!!!」
「女性を舐めて甘く見ていたら痛い目にあうと……覚えておくといいかもしれませんね」
「いや、嫌だッ……リディアッ、僕を、見捨てないでくれ……ッ」
「貴方ではなく婚約破棄を選びますわ……だって貴方に価値はないんですもの」
「―――ッ!?」
わたくしは先程、レンティル様がシャーロット様に言ったセリフをそのままそっくりと返してやりました。
愕然とするレンティル様を置いて、わたくしは部屋を出ました。
お世話になったマベール侯爵邸の使用人の皆様にも丁寧にさよならの挨拶をします。
わたくしは馬車へと乗り込みました。
お父様とお母様は何と言うでしょうか。
「うふふ……」
end