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わたくしはレンティル様の前で初めてニッコリと笑うことをやめました。


スッ……と冷めた視線を送るわたくしに、レンティル様は戸惑っているようです。


けれどわたくしには、もうレンティル様の前で取り繕う必要も笑顔を向ける必要もありません。



「ッ、何でも言うことを聞く!もう絶対に他の女を、愛したりしないから…っ」


「なんでも……?」


「ああ、そうだよ!!僕が出来ることなら…っ」



わたくしの言葉に希望の光を見出したのか、レンティル様は隠しきれずに笑みを浮かべています。

どうしてこの人は上手くいくことしか考えていないのでしょうか。


ある意味、ポジティブで羨ましいです。


それにこの年齢まで遊び歩いていたということは、自分に自信もあることでしょう。

けれど、それもどうやら年貢の納め時というやつかもしれません。



「では、レンティル様……」


「何だい?愛しいリディア」





「潔く、婚約破棄をお願い致します」





レンティル様の希望に満ちた表情が一転、絶望に染まっています。



「ッ!それは……それだけは、無理だ!」


「残念ながら無理ではありません。婚約した時に契約したことを覚えていないのですか?」


「お、覚えているさ…!あの日交わした契約書みたいなものだろう?結婚するまで君に手を出してはいけないと……!」


「あとは?」


「あと……?」



わたくしは大きな大きな溜息を吐きました。


レンティル様の記憶の中には、どうやらその部分しか覚えていないようです。

やはり女性関係が、だらしないからでしょうか。


頭の中は女性の存在で埋め尽くされていることでしょう。


もしわたくしと結婚したとしても、後ろから背中をブスリと刺されそうでなりません。

そうなったとしても、数々の女性を弄んだ罰なのでしょう。



「一つは不貞行為についてです。お父様は結婚生活においてレンティル様が不貞行為を行った際は直ぐ様、わたくしと離縁するように申し上げております」


「……だがっ、まだ結婚前で」


「同じことです。なのでレンティル様が何を言おうとも、問答無用で婚約破棄させて頂きます。此方にはその権利があるのです」


「……ッ」


「それとも……先にマベール侯爵に、わたくしの口からお話し致しましょうか?」


「――!!」


「………お父様は残念だと嘆くでしょうね。レンティル様なら、わたくしを幸せにしてくれると思って数々の男性の中からレンティル様を選んだというのに」


「リ、リディア…!挽回のチャンスを……お願いだッ」



マベール侯爵は歴史ある古参の貴族です。

それゆえに新参者であるペルーシャ子爵家と関係を持つことを裏では余り良く思っていませんでした。

けれども、この結婚は互いの利害関係が複雑に絡み合った重要な契約なのです。



「残念ながら、チャンスはありませんわ」


「な、何故だ……!」


「それは、わたくしがレンティル様のことを全く、これっぽっちも好きではないからです」



満面の笑みを浮かべているわたくしを見て、レンティル様は呆然としています。

この反応を見る限り、自分がわたくしに愛されているとでも思っていたのでしょうか。


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