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「どういうことでしょうか?」
「……だから、そのっ」
「レンティル様、説明をお願い致します」
今からシャーロット様と結婚をするつもりなのでしょうか?
では何故、わたくしとレンティル様は婚約しているのでしょう。
答えは一つ、レンティル様はシャーロット様に嘘をついているからです。
「……っ、リディア、ぼ、僕は」
レンティル様が口籠もっていると、シャーロット様がわたくしを指差しながら叫んでいます。
「この子とは金が必要だから、お金だけの目的で婚約するって……そう言っていたじゃない!!!」
「……お金、目的?」
「違うんだ!リディア……僕は君に惹かれて婚約をっ」
「…―――嘘吐きッ!信じられない!私とは結婚しないってことなの!?」
「勿論、シャーロットとはっ……いや、違う……でも!」
大粒の汗を額に浮かべながら、瞳を右往左往させるレンティル様……。
余裕と自信がたっぷりな態度はどこへやら。
いつもとは、まるで別人のようなレンティル様はシャーロット様を止めようと必死ですが、シャーロット様も自分の未来が懸かっているのです。
必死になるのも頷けます。
それにシャーロット様の発言からすると、わたくしとのこの婚約は、どうやらお金目当てだったようです。
そう聞くと、今までのレンティル様の態度もしっくりするような気がします。
というより初めから分かっていましたが……。
けれど、わたくしは"お金目当ての婚約"と言われ、明らかな浮気現場を目撃しました。
これ以上、レンティル様との結婚式の準備を進めるわけにはいきません。
涙を流して怒鳴りながらレンティル様に掴みかかるシャーロット様を横目に、わたくしは持ってきた資料を上から下に……ビリビリと破いていました。
「リディア……ッ!何をしているんだ」
「何と言われましても……結婚式の資料を破いているのです」
「何故そんなことを!?」
「何故と言われましても……」
ここまできて何故と問われるとは思わずに、わたくしはどう返事を返していいか分かりませんでした。
わたくしはレンティル様から目を離して、シャーロット様へチラリと視線を送りました。
鬼の形相をしているシャーロット様を見て、察したのでしょう。
レンティル様は言葉を詰まらせています。
「この件はお父様に報告させて頂きますね」
「なっ……!」
「では、失礼致します」
「リディアッ!待ってくれ……!」
「――レンティル!?」
「君の家からの支度金と援助がなければ、うちは……っ!」
レンティル様はわたくしを引き止めようとしているのか、必死に腕を広げています。
そうなのです。
マベール侯爵家は資金難で苦しんでいたのです。
そして縋る思いで頼ったのが、ペルーシャ子爵家であるお父様というわけです。
ですが、シャーロット様の家にはプライドや体裁があり「金がないです」とは言えなかったのでしょう。
マベール侯爵は「このことだけは内緒にしてくれ」と契約書に一番の条件として盛り込むくらいですから相当です。
わたくしは「まさか…」と思って問いかけました。