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二人は、急いで衣服を直しています。
その様子をわたくしは何も言わずに、じっと見ていました。
見知らぬ女性は、わたくしのことを鋭く睨みつけています。
その視線には憎しみが篭っているように見えました。
「……今、そちらの方と親密に口付けているように見えたのですが」
「そ、それは…っ!違う」
「レンティル、何が違うの!?」
「…それは」
「そうよ!私は今、レンティルと口付けをしていたのよ?」
「……ッ!」
「ウフフ、羨ましい?」
「いいえ、全く」
「「………」」
わたくしは柔かに笑みを浮かべながら首を振りました。
「ふん……調子狂うわね」
わたくしを煽りたく言ったようですが、思った反応と違ったようです。
レンティル様が口付けることが羨ましいかと問われたら、答えは決まっています。
全く羨ましくなどありません。
「もう……っ、何なのよこのドレス!」
「着替え、手伝いましょうか…?」
「は!?」
わたくしが声を掛けると、女性は警戒するように此方を見ています。
女性は背に手を伸ばしていますが、なかなか上手くドレスを着れないようなのです。
本当はレンティル様がしてあげるべきなのでしょうが、レンティル様は自分の衣服のボタンに夢中のようです。
「手伝いますよ?」
「結構よッ!!このくらい自分で出来るわ!」
女性は数分間の格闘の末、何とかドレスを着ることが出来たようです。
ハァと息を吐き出した女性は、優雅に髪を掻き上げてから咳払いをすると、わたくしを見て余裕たっぷりの笑みを浮かべました。
「貴女……自分からレンティルの婚約者になりたいって言ったんでしょう!?」
「え……?」
「!!」
話が見えません。
わたくしは「レンティル様の婚約者になりたい」などと、口にしたことは一度もありません。
「ふふっ…正直に言ってあげたら?レンティルは子供のような貴女に欲情しないし、興味がない……」
「……」
「………貴女は婚約者に相応しくないってね!」
「お、おいッ!」
「リディア・ペルーシャを愛してなんかいないってハッキリ言えばいいのよ……!そうすれば、私が…っ」
「シャーロットッ!!」
「何よ……事実でしょう!?」
レンティルが焦ったように御令嬢の名前を叫びました。
その女性は雪のように白い肌、サファイアのような瞳と綺麗な絹のようなサラサラのストレートの髪をしていました。
何処かで聞いたことのあるような外見の特徴です。
わたくしはレンティル様が言い間違えていた女性のことを思い出しました。
そして"シャーロット"という名前を聞いて、わたくしは気付きました。
時々、レンティル様と話していると、出てくる幼馴染の御令嬢の名前だということに。
再び「ふん」と荒く息を吐き出したシャーロット様は、わたくしに厳しい口調で言いました。
「……いい?よく聞きなさいよ!?貴女みたいな子供ではレンティルを満足させることなんて絶対に出来ないわ!」
「満足とは?」
「シ、シャーロット、やめてくれ……!」
「何よッ!こんな婚約者では満足出来ないって言ったのは貴方でしょう!?」
「それは、別に…っそんなつもりは無くて!」
「何ですって……?」
「違っ…… だから、その」




